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「そういえば俺の十二歳の誕生日からだよな?リンジーが来なくなったのは」
 ダンスをしながら、ヒューイは思い出したように言った。
「そうだった?」
 とぼけて言う。
「そうだ。あれからリンジーが冷たくなったから良く覚えている」
「冷たくなんて…男の子と女の子だからちょうど離れる時期だっただけよ」
 笑いながら言うと、ヒューイはリンジーの腰に回した手に力を入れた。
「ちょっ。ヒューイ」
 ますます密着して、リンジーは顔を逸らす。
 ヒューイは目の前にあるリンジーの耳にわざと息が掛かるようにしながら言った。
「リンジー来週の俺の誕生日、久しぶりに何か贈ってくれないか?」
 耳元で言うなー!
 リンジーは心の中で叫ぶ。
「ザインやケントには毎年贈り物をしているんだろう?」
「…何で知ってるの」
「二人が色違いの万年筆を持っていたから、どうしたのか聞いたら『リンジーから貰った』と」
 まあ、別に口止めとかしてなかったから…仕方ないわ。
「そうね。不本意でも婚約者に誕生日の贈り物もなしって訳にはいかないわよね」
 リンジーが嫌そうに言い、ヒューイが眉を上げて笑った処で曲が終わった。

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 ザインは三人の女生徒とダンスをした後、ようやくユーニスを見つけ、ダンスに誘う事ができた。
「ユーニス嬢、俺と踊るのは嫌でしたか?」
「そう言う訳では…」
 正直に言えば嫌です。とも言えず、ユーニスは言葉を濁す。
「なら良かったです」
「はい」
「……」
「……」

 そう言えば、リンジーがザイン様は人見知りだって言ってたわね。他の女子と踊る時もあんまり喋らないのかしら?
 上目遣いでザインを見ると、ユーニスの視線に気付いたザインがニコッと笑い掛けた。
「!」
 うわあ。麗しい。なるほど、女の子たちはこの顔を至近距離で眺めてるだけでも満足なのかも。

「あの、ザイン様」
「はい」
「同じ歳なんですし、これからお互い人となりを知ろうと思うなら、丁寧な言葉じゃなくても良いですし、ユーニスと呼び捨ててもらっても良いですよ?」
 ユーニスがそう言うと、ザインは微笑みながら言った。
「そう?じゃあそうさせてもらうね。ユーニスもそうして」
「ええ」

 ポツポツと短い会話を交わして、曲が終わると、ユーニスは壁際で葡萄ジュースを飲んでいるリンジーの所へと行く。

「見てあの子、ほら黒の貴公子様の婚約者の友人よ。ちょっと黒の貴公子様の婚約者と親しいからって白の貴公子様にダンスをねだるだなんて…」
「ザイン様がお優しくて笑顔を向けたりされるから勘違いしてるのよ。きっと」
「ヒューイ様も『婚約者以外とは踊らない』って。断られた、泣いてたわ」
「あの婚約者が私以外の女と踊らないでって言ったに決まってるわ。もともと幼なじみだか何だか知らないけど、ヒューイ様にもザイン様にもこれ見よがしに馴れ馴れしくしてたじゃない」
「そうそう。それにケント殿下も。幼なじみだからって敬称なしで呼び捨てにしてるの聞いた事あるもの」
「ええ~不敬だわ」
「そもそも黒の貴公子様との婚約だって、あの女の方からのごり押しに決まってるわ」
「ヒューイ様かわいそう」

 同じような会話が、ヒソヒソと、でもちゃんとリンジーとユーニスの耳に届く音量で、あちこちで繰り広げられている。

 本当に理不尽だわ。
「…はあ」
 リンジーはため息を吐く。
「噂の的ね。私たち」
 ユーニスも小さく苦笑いしながら言った。

 四年生の男子がユーニスをダンスに誘いに来て、ユーニスがフロアへ出た処で、リンジーは外の空気を吸うために舞踏会の会場である講堂を出る。
 
「もう退出しようかな…」
 でもユーニスに黙って帰る訳にはいかないか。
 リンジーはプラプラと中庭を歩く。
 ふと、校舎の影で何かが動くのが視界に入った。
 ん?人影?
 何となく、校舎の影に近付く。足元が芝生なのでハイヒールでも足音はしなかった。
「ずい……たな」
 男性の声が聞こえる。
 …この声。
「そんな……よ」
 もう一人の男性の声。

 ヒューイとザインの声だわ。



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