幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

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 舞踏会や卒業パーティーでは、ドレスや装飾品は各々が用意をするが、全員が寮で支度をして、婚約者や恋人のいる者は男性が女子寮へ迎えに来る事となっており、令嬢は自分の家の侍女やメイドを寮に呼び支度をし、侍女やメイドのいない家で学園が用意した王宮のメイドが支度を手伝っている。
 舞踏会や卒業パーティーは学生らしく昼間の開催なので、寮は当日は朝から支度で大騒ぎだ。
 女子寮は舞踏会の会場の講堂に近いので、歩いて向かう事になる。

 翡翠色のドレスは、リンジーの書いた絵よりフリルやレースが増えてリボンも付いていたけれど、不思議とリンジーによく似合っていた。
「これエメラルド?高そう…」
 リンジーは手鏡を覗いて自分の身に付けたネックレスとピアスを見ながら言う。
「婚約者への贈り物だ。値段の事を言うのは野暮だろ」
 ヒューイはリンジーの手から手鏡を取り上げて、リンジーの支度をしてくれたグラフトン家の侍女へと渡した。
「売って家計の足しにするなよ?」
 揶揄うように言う。
「しないわよ」
 リンジーが唇を尖らせると、ヒューイは「ははは」と笑った。
 何か今日機嫌が良い?
 今日は女生徒たちからのダンスの申し込みを断れるからかしら?
「じゃあ行くか」
 ヒューイはリンジーに向かって手を差し出す。
 前髪を上げ黒髪を後ろに流し、深緑色の夜会服、白い手袋、緑の瞳。
 私、ヒューイの瞳の色の装飾品を身に付けてるんだわ。ドレスも同系色だし。
 ひゃー何か恥ずかしい。
「リンジー?」
 反応のないリンジーの顔を覗き込むヒューイ。
「何か赤くないか?」
「気のせいよ!」
 リンジーはヒューイから目を逸らしながら、ヒューイの手の平に自分の手の平を乗せた。

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「ユーニスのドレスはザインからなの?」
 学園長が壇上で舞踏会の開会の挨拶をしているのを聞きながら、リンジーは隣りに立つユーニスに小声で聞く。
「ううん。まだ婚約してる訳じゃないし、普通に既製品よ」
 青いドレスのユーニスが言う。
「そっか。じゃあザインとダンスしないの?」
「誘われれば…でも他の女子に睨まれそうだから、できれば遠慮したいわ」
 肩を竦めて言う。
「わかる」
 リンジーは大きく頷いた。
「ファーストダンスじゃなければ一曲くらいは…だけど。リンジーはファーストダンスから逃げられないわね。婚約してるし」
「そうなのよ。しかもヒューイはその後、他の女子からのダンスの申し込みは断るつもりらしいわ」
「うわ。それは余計に睨まれるわね」
「そうなの。ヒューイは私を盾にする気なのよ」

 学園長と生徒会長の挨拶が終わり、音楽が流れ始める。
 人混みの中から、人目を引きながらヒューイとザインが歩いて来るのが見えた。
「リンジー、私逃げるわ」
 ユーニスはリンジーにそう耳打ちし、リンジーの側を離れ人の群れに紛れる。
 うん。まあ、ユーニスの気持ちはわかる。
 でも私は逃げられないもんね…

「リンジー、ユーニス嬢は?」
 近付いて来たザインが周りを見回しながら言う。
「さあ?」
 白々しく首を傾げていると、ヒューイがすっとリンジーの手を取った。
「行こう」
 手を握ったまま、ダンスフロアへ連れ出される。
「ちょ…引っ張るのやめてよヒューイ」
 女子のみなさんの視線が痛い。
 違いますよーコレどう見ても連行ですから。手を繋いでる訳じゃないですよーホラ私もヒューイも笑ってないでしょー?イヤイヤなんですってお互いに。
 リンジーは心の中で周りに向かって叫んだ。

 曲が始まり、無言でステップを踏んでいると、ヒューイがリンジーの耳元に口を寄せて言う。
「腰が引けてるぞ」
 ちか!声が、顔が近い!
「わざわざ顔近付けて言わなくても聞こえてるわ」
 リンジーが顔を背けて言うと、ヒューイはリンジーの背中に置いた手を腰へと下げると、ぐいっと自分の方へ引いた。
「ひゃ」
 ますます近い!これじゃ抱き合ってるみたいじゃない!
「…やめてよ。仲が悪い婚約者の距離感じゃないわ。こんなの」
 リンジーは少し赤くなってヒューイを見上げる。
「リンジー意外とダンス上手いんだな」
 少し口角を上げるヒューイ。
「舞踏会も卒業パーティーも出ていないって言うから、ダンスができないのかと思っていたが」
 笑い混じりに言う。
「一応貴族令嬢だもの。練習だってしてるわ」
「練習?誰と?」
「アンジーと」
 アンジーはリンジーの弟だ。
「ああ…でもアンジーはまだ十二歳だろう?」
「十二歳でももう背は私と同じくらいよ。ヒューイが十二の頃程大きくはないけど…」
 十二歳のヒューイ。
 誕生日の出来事を思い出し、リンジーの胸はツキンと痛んだ。








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