幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

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「リンジーおかえり」
 オルディス家に帰ると、父と母が揃って出迎えてくれた。
「……」
「リンジー!?」
 母が驚いて声を出し、父は目を見開いてリンジーを見ている。
 …?
 何?
「どうしたの?リンジー、そんなに泣いて」
 泣いて?
 私が?
 母がリンジーに駆け寄ってハンカチをポケットから出し、リンジーの頬に当てた。
 涙がポロポロと頬を滑り、床に落ちる。
 …ああ、確かに。泣いてるわ。私。
「何でもないわ。ちょっと…疲れて」
 母の手からハンカチを受け取り、頬を拭う。
「リンジー熱があるんじゃない?」
 母が手を伸ばし、リンジーの額に触れる。
 あ、冷たい。気持ち良い…

「姉様大丈夫?」
 弟のアンジーが廊下の奥から歩いて来る。
「大丈夫よ。アンジーまた背が伸びたわねぇ」
 十二歳のアンジー。もう私を追い越しそうだ。
 十二歳の誕生日のヒューイを思い出す。
 あの時はまだザインとそういう関係じゃなかったのよね…?だから侍女と…でもヒューイの方はザインを好きだったんだろうな。

 そうか…ヒューイの十二歳の誕生日に失恋したのかと思ってたけど、本当は七歳のザインに初めて会った日に、私、失恋してたんだわ。

-----

 グラフトン邸でのヒューイの誕生パーティーで、リンジーはヒューイにリボンがかかった小さな箱を渡す。
「はい。誕生日おめでと」
 リンジーは少し笑って言う。
「ありがとう」
 ヒューイも笑ってリンジーを見た。
 私たち、側から見れば仲の良い婚約者同士に見えるのかな?

「……」
 刺繍の入った濃灰色のスーツを着ているヒューイは、リンジーが悔しくなるくらい格好良い。
 さり気なく従僕がヒューイに近付いて、受け取って手に持っていたプレゼントを回収して行く。纏めておいて、パーティーの後ヒューイに渡される贈り物たちの中にリンジーからの小さな箱も仲間入りだ。

 結局、失恋を認められなくて、意地張って「ヒューイなんて好きじゃない」って自分に言い聞かせてただけ。
 その相手に、よりによって契約結婚を申し込まれるなんて、何て滑稽なんだろ、私って。
 じっとヒューイを見つめていると、ヒューイが不思議そうに首を傾げた。
「何だ?」
 あ、見過ぎてたわ。
「ううん。あ、ユーニスとザインだわ」
 首を振ると、ユーニスとザインが並んでこちらにやって来るのに気付いた。

「ヒューイ、おめでとう」
「おめでとうございます」
 ザインは小さな箱をヒューイに差し出し、ヒューイは笑顔で受け取る。続いてユーニスも小さな花束を渡す。
「ザイン、ユーニス嬢、ありがとう」
 にこやかに笑って二人と話すヒューイを、一歩離れてリンジーが見ていると、ヒューイはザインから渡されたプレゼントをさり気なく上着のポケットへと入れた。

 そっか。ザインからのプレゼントは「その他大勢」に紛れさせず、特別扱いなのね。

 リンジーはそっとその場を離れると、バルコニーに出る。
「リンジー」
 バルコニーにあるベンチに座っていたケントがリンジーを見て片手を上げた。
「ケント、ここに居たの?」
 リンジーがケントの方へ歩いて行くと、ケントはリンジーに自分の隣へ座るよう促す。
「ああ。ヒューイの父上と母上にはもう挨拶したからな」
 内輪の会とは言え、グラフトン家の近しい親戚なども出席している場に王子であるケントがいれば、貴族である親戚たちの中にはこの期に王子に近付こうと考える者もいるだろう。あくまでも、今日の主役はヒューイ。だからケントは目立たぬようにしているのだ。
 リンジーがケントの隣に座ると、ケントは笑って言った。
「リンジー、挨拶が大変そうだったな」
「そうなの。近しい親戚だけでも結構な人数でとても一回じゃ覚えられないし、形通りの挨拶で精一杯だったわ」
 うんざりしたように言うリンジーをケントは窺うように見る。
「誰かに何か言われたのか?」
「え?」
「今ひとつ元気がない気がする」
 鋭いなあ、ケントは。
「まあ…それなりに言われたわ。さすがに面と向かってじゃないけど」
 リンジーは苦笑いを浮かべた。




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