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「ヒューイならもっと家柄も良い、もっと頭も良く美しい令嬢を選べただろうに、いくら幼なじみとは言え何故あんな十人並みの娘なんだ?」
「オルディス伯爵家は領地の豪雨と台風でかなり逼迫しているらしいし、お金目当てで娘を売り込んだんじゃないのかしら?」
「あんな娘の色仕掛けに乗るとは思えんが、とにかく既成事実でも作って結婚を迫ったんだろう」
そんな言葉が何度も何度も聞こえて来た。
リンジーは傷付いた心に蓋をする。
だって、事実じゃないもの。心無い言葉に私が傷付けられるなんて、私が許さない。
背筋を伸ばし、凛と立とうとするリンジーの耳に、誰かが発した一言が飛び込んで来た。
「ザイン・ハウザントが女だったら良かったのにな」
-----
「リンジー」
バルコニーに出てきたユーニスが、ベンチのリンジーを見つけて駆け寄って来る。
「あ、ケント殿下」
リンジーの隣に座っているケントに気付き、挨拶をしようとするユーニスをケントは手で制した。
「今日は私的な場だから挨拶はいいよ」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ俺はもう一度ヒューイの所に行くから。リンジー、ユーニスまたな」
「またね。ケント」
ケントは立ち上がり、片手を上げる。リンジーは小さく手を振り、ユーニスは会釈をした。
「ユーニス、ザインと話せた?」
リンジーの隣に座ったユーニスに言う。
「まあまあかな。でも話題はリンジーとヒューイ様の事ばかりよ」
「そう…」
ヒューイとザインが好き同士なら、結婚してからもその関係を続けるための、私とユーニスって事。
今はユーニスにこの縁談を断られないために隠してるけど、本音ではヒューイが私に言ったような「契約結婚」をザインはユーニスとしたいのよ。
できるなら、ユーニスが「愛のない結婚」が嫌なら、この話しは断って欲しい。でも、もしそれでも良いなら断る理由はない。
でもでも、私がユーニスに「契約結婚」の事を忠告したとして、万が一ザインがヒューイとの関係を断つつもりだったら、ユーニスに不信感を植え付けてしまって幸せな結婚生活の邪魔をしてしまうかも知れないし。
私は結局ヒューイを好きだから、よりによってその相手と契約結婚をするなんて…ヒューイの心がザインの所にあるのを見続けるのは苦しいし、惨めだし、虚しいし、絶対に嫌だと思うけど、ユーニスはザインを好きな訳じゃないし、貴族として結婚と恋愛は別だと思ってるなら、ザインは結婚相手としては好条件かも知れないし。
…ああもう、こんな事、グルグル考えてるから熱を出したりするのよ!
「リンジー?」
ユーニスがリンジーの顔を覗き込む。
「顔色が悪いわ。どうしたの?」
「…ヒューイの誕生パーティーにはさすがに出会いは転がってないわよね、って考えてて」
「出会い?」
「だって卒業まであと一年と八か月しかないわ」
リンジーは膝の上に置いた手を握った。
「リンジー」
いつの間にかバルコニーに出て来ていたヒューイがリンジーの前に立つ。
「…何?」
リンジーはゆるゆると顔を上げて、ヒューイを見上げた。
「お前本気で『条件』とやらを満たす男を見付けて婚約解消するつもりなのか?」
不機嫌そうな表情。
何でヒューイは怒ってるの?
ああそうか、私との婚約を解消したら外聞も悪いし、都合の良い女もいなくなっちゃうからだったわ…
ああ、頭が痛い。
「そうよ。最初からそう言ってるじゃない」
クラクラする。考え過ぎてまた熱が出たのかしら?
「リンジーにとって俺より条件の良い男なんていないだろう?」
…ヒューイほど条件の悪い男なんて他にいないわ。
「リンジー?」
何?眉なんか顰めちゃって。
「どうしたんだ?顔色が…」
私の顔が何?十人並みで地味だって言いたいの?
「リンジー!」
ヒューイはグラリと身体を傾げたリンジーに手を伸ばす。
……
…ああ、ヒューイの声、好きだな。
リンジーはヒューイの差し出した手をすり抜けて、倒れてベンチから落ちた。
「リン!」
…ああ、声変わりしたヒューイにそう呼ばれたの、初めてかも。
「ヒューイならもっと家柄も良い、もっと頭も良く美しい令嬢を選べただろうに、いくら幼なじみとは言え何故あんな十人並みの娘なんだ?」
「オルディス伯爵家は領地の豪雨と台風でかなり逼迫しているらしいし、お金目当てで娘を売り込んだんじゃないのかしら?」
「あんな娘の色仕掛けに乗るとは思えんが、とにかく既成事実でも作って結婚を迫ったんだろう」
そんな言葉が何度も何度も聞こえて来た。
リンジーは傷付いた心に蓋をする。
だって、事実じゃないもの。心無い言葉に私が傷付けられるなんて、私が許さない。
背筋を伸ばし、凛と立とうとするリンジーの耳に、誰かが発した一言が飛び込んで来た。
「ザイン・ハウザントが女だったら良かったのにな」
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「リンジー」
バルコニーに出てきたユーニスが、ベンチのリンジーを見つけて駆け寄って来る。
「あ、ケント殿下」
リンジーの隣に座っているケントに気付き、挨拶をしようとするユーニスをケントは手で制した。
「今日は私的な場だから挨拶はいいよ」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ俺はもう一度ヒューイの所に行くから。リンジー、ユーニスまたな」
「またね。ケント」
ケントは立ち上がり、片手を上げる。リンジーは小さく手を振り、ユーニスは会釈をした。
「ユーニス、ザインと話せた?」
リンジーの隣に座ったユーニスに言う。
「まあまあかな。でも話題はリンジーとヒューイ様の事ばかりよ」
「そう…」
ヒューイとザインが好き同士なら、結婚してからもその関係を続けるための、私とユーニスって事。
今はユーニスにこの縁談を断られないために隠してるけど、本音ではヒューイが私に言ったような「契約結婚」をザインはユーニスとしたいのよ。
できるなら、ユーニスが「愛のない結婚」が嫌なら、この話しは断って欲しい。でも、もしそれでも良いなら断る理由はない。
でもでも、私がユーニスに「契約結婚」の事を忠告したとして、万が一ザインがヒューイとの関係を断つつもりだったら、ユーニスに不信感を植え付けてしまって幸せな結婚生活の邪魔をしてしまうかも知れないし。
私は結局ヒューイを好きだから、よりによってその相手と契約結婚をするなんて…ヒューイの心がザインの所にあるのを見続けるのは苦しいし、惨めだし、虚しいし、絶対に嫌だと思うけど、ユーニスはザインを好きな訳じゃないし、貴族として結婚と恋愛は別だと思ってるなら、ザインは結婚相手としては好条件かも知れないし。
…ああもう、こんな事、グルグル考えてるから熱を出したりするのよ!
「リンジー?」
ユーニスがリンジーの顔を覗き込む。
「顔色が悪いわ。どうしたの?」
「…ヒューイの誕生パーティーにはさすがに出会いは転がってないわよね、って考えてて」
「出会い?」
「だって卒業まであと一年と八か月しかないわ」
リンジーは膝の上に置いた手を握った。
「リンジー」
いつの間にかバルコニーに出て来ていたヒューイがリンジーの前に立つ。
「…何?」
リンジーはゆるゆると顔を上げて、ヒューイを見上げた。
「お前本気で『条件』とやらを満たす男を見付けて婚約解消するつもりなのか?」
不機嫌そうな表情。
何でヒューイは怒ってるの?
ああそうか、私との婚約を解消したら外聞も悪いし、都合の良い女もいなくなっちゃうからだったわ…
ああ、頭が痛い。
「そうよ。最初からそう言ってるじゃない」
クラクラする。考え過ぎてまた熱が出たのかしら?
「リンジーにとって俺より条件の良い男なんていないだろう?」
…ヒューイほど条件の悪い男なんて他にいないわ。
「リンジー?」
何?眉なんか顰めちゃって。
「どうしたんだ?顔色が…」
私の顔が何?十人並みで地味だって言いたいの?
「リンジー!」
ヒューイはグラリと身体を傾げたリンジーに手を伸ばす。
……
…ああ、ヒューイの声、好きだな。
リンジーはヒューイの差し出した手をすり抜けて、倒れてベンチから落ちた。
「リン!」
…ああ、声変わりしたヒューイにそう呼ばれたの、初めてかも。
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