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 昼休憩の中庭でベンチに座っているリンジーとユーニス。ケントは今日は来ていない。
「デート?」
「うん。領地で知り合った子爵家の三男。王都に来るから会わないかって」
 リンジーがそう言うと、ユーニスは頷く。
「ボンボンだって言ってた男性ひとだっけ?もう一人の伯爵家の次男って人は王都には来ないの?」
「陛下の誕生パーティーの時期にお父様だけ王都に来て、本人は領地で留守を任されてるそうで、基本的に王都にはあまり来ないらしいわ」
「そうなんだ。でもデートって大丈夫なの?」
「大丈夫って?」
 リンジーは不思議そうにユーニスを見た。
「だって二人きりでしょ?それにヒューイ様の婚約者が他の男性と会ってる所を知り合いに見られたら…」
「うーん、そうよね。変装でもしようかしら?」
 リンジーが顎に手を当てて考えている時、ベンチの後ろの大きな木の幹の影から、一人の女生徒が立ち去って行った。

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「デート?リンジーが?」
 食堂にいるヒューイの前には、木の影から立ち去った女生徒が座っている。
「はい。子爵家の三男と。変装して行くって言ってました」
「子爵家?」
「はい。あと伯爵家の次男とも繋がりがあるようでした」
「……」
 ヒューイが眉を顰めるのを見て、女生徒は満足そうに笑った。
 そして、声を顰めて言う。
「オルディスさんは黒の貴公子様とご婚約されているのに、他の男性と逢瀬だなんて…不誠実です」
 逢瀬。
「いえ、もうこれは密会と言っても過言ではないかも知れませんわ」
 密会…?
「ヒューイ」
 ヒューイの隣に座っていたザインが、心配そうにヒューイの腕に触れた。
「ザイン…」
「ねぇ君、さすがに密会は過言だろう?」
 ザインはヒューイの腕に触れたまま、女生徒ににっこりと笑って言う。
「はっはい!白の貴公子様!か、過言でした」
 女生徒が焦って言うと、ザインは笑顔のまま
「うん。情報をありがとう」
 と言った。
「はい!ありがとうございます」
 女生徒は「ここから去れ」と云うザインの言外の意図を察し、慌てて立ち上がると、頭を下げてその場を去って行った。

「ヒューイ、リンジーは『条件』を満たす男を探しているんだろう。他の男性と会ったとしても不思議ではないよ」
 ヒューイの腕に触れた手を、撫でるように動かす。
「そうだな」
 リンジーは本気で俺との婚約を解消したいと思って、行動をしているのか。
「ヒューイはリンジーのその行動の邪魔はしないって言ったよね?」
「ああ、言った」
 確かに。俺はそう言った。
「もちろん、自分の婚約者が浮気をしようとしているのだから、気になるのも嫌なのも当然だけど、口出しも邪魔も不要だよ?」
 そうか。
 婚約者が浮気しているのが気になるのも嫌なのも当然。そうだよな。
 リンジーは俺の婚約者だから不愉快なのも当然なんだ。

「ザイン」
 腕に置かれたザインの白くて長い指。
「ん?」
 微笑む薄桃色の唇。青灰色の瞳。
 俺が好きなのはザインだ。リンジーが浮気しようと婚約解消を企もうと関係ない。
 関係ない。が。
「…リンジーの相手がどんな男か見たい。もちろん邪魔などしない。俺よりなのか確認したいだけだ」
 リンジーの決めた「条件」がどんなものかわからないが、この俺との婚約を解消する程の相手なのか、気になるのは当然だろう。
「リンジーのデートを見に行くって事?」
 ザインが目を見開いて言った。
「…確認だ」
 ヒューイは自分の腕に置かれたザインの白くて綺麗な手を、反対の手でぎゅっと握る。
「いいよ。俺も一緒に行く」
 ザインは口角を上げてそう言った。

 放課後、ザインは借りていた本を返却しに図書室へと向かう。
「やっぱり手強いな…」
 誰にも聞こえない、小さな声で呟いた。

 図書室に入ると、他の本を手に取ると受付台の前に立つ。
「ああ、ザイン君」
 受付の奥から司書の男が顔を出した。
 伸ばしたと言うより伸びてしまったと言うような整えていない黒髪を後ろで束ねた眼鏡の男は、ザインを見て嬉しそうに笑う。
「返却と、貸出を」
 ザインが二冊の本を差し出すと、男は受付台の向こうの椅子に腰掛けると、本のタイトルを書類へサラサラと書き込んだ。
「…もう少し強いものはないのか?」
 ザインが小声で言うと、男はザインを見上げる。
「ありますが、駄目です」
 そう小声で言うと、受付台の上に置いたザインの手の甲に顔を近付けて、チュッと音を立ててキスをした。
「こんな所で」
 咎めるように言い、ザインが手を引こうとすると、男はすかさず手を伸ばし、ザインの手を握った。
「対価を」
 男は、上目遣いでザインを見る。
「今?」
「誰も居ません」
 男はザインの手を握ったまま、立ち上がった。



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