幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

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 ガシャンッ!
 ガタガタッ!

 試着室の外で大きな音がする。
「何の音だ?」
 ルイスが試着室のドアの方へ顔を向けた時、

 バアンッ!

 と音を立ててドアが開いた。

「リン!」
 ヒューイが試着室に飛び込んで来る。
「だ」
 おそらく「誰だ!?」と言い掛けたルイスの胸倉を掴むと、ヒューイは振り上げた拳をルイスの頬に叩き付けた。
 リンジーの顎を掴んだ手が外れ、ルイスは吹っ飛ぶように壁に頭からぶつかる。
 鈍い音がして、ルイスは気を失った。

「リン!大丈夫か!?」
 ヒューイはリンジーの背中へ手を差し入れ抱き起こす。
「…ヒュー……」
 強く顎を掴まれていたせいで、声が出にくいリンジーは涙で濡れた眼でヒューイを見た。
「リン…」
 心配そうな表情でリンジーを見るヒューイに、リンジーはハッとする。

 ヒューイの腕から逃れるように身を起こすと、急いでボタンが飛んで千切れたブラウスの前を両手で合わせ、前屈みになってブラウスをギュッと握りしめる。
「リンジー?」
「…や……」

 嫌だ。

 ピンクのブラウス、レースとフリル。
「ピンクとかフリルとか好きだけど、見た目地味だから似合ってないしさ」
 いつかのヒューイの声が頭に響く。
 こんな格好して、条件を満たすための相手に会いに行って、自分が浅はかなせいで…
 なんて馬鹿なの。

 見られたくない。ヒューイにだけは、こんな私を見られたくなかった。

「リン?」
 困惑した表情でリンジーの方へ手を伸ばすヒューイ。
 リンジーは身を捩ってその手をかわす。

「…触らないで」
 うずくまって震えながらリンジーは言う。
「どうして…」
 丸まったリンジーの背中にヒューイの手が触れると、リンジーはビクッと震えた。
「……」
「…う…ぅ…」
 リンジーの泣き声が試着室に響く。

「はあ…」
 ヒューイが息を吐くと、リンジーは絶望的な気持ちになった。
 呆れてる。
 似合いもしない格好で、自分の浅はかさが招いた状況で、助けに来てくれた人に感謝どころか「触らないで」なんて言って泣いている私に呆れてるんだわ。
 ぎゅっと目を瞑る。
 ブラウスを握った手に力を入れると、フワッと身体が浮いた。
「!?」
 驚いて目を開けると、目の前にヒューイの顔が見える。

 ヒューイはリンジーを抱き上げていた。
「なっ!」
「触るなと言われても、聞けないな」
 憮然として言うヒューイ。

 リンジーを抱いたまま、店の外へ出ると、そこにザインが立っていた。
「リンジー大丈夫?」
 ザインの心配そうな表情に涙がボロボロと溢れる。
「…ん」
 小さく頷いたリンジーにザインは自分の上着を掛けて引き裂かれたブラウスを隠してくれた。
「ヒューイ、辻馬車を通りに停めてある。店員は警察に引き渡したよ。中の男はどうする?」
 ザインが言う。
「あの男も警察に…」
「駄目!」
 ヒューイの言葉を遮るようにリンジーは言った。

「リンジー?」
 ヒューイがリンジーの顔を覗き込む。
「警察なんて駄目…」
 目を見開いてリンジーを見るヒューイ。

 だって、私が間違えたせいだもの。
 私が巻き込んだんだから、そのせいでルイス様が犯罪者になってしまうなんて、絶対に駄目だ。
 チッと舌打ちをすると、ヒューイは通りに停めてある辻馬車に向かって歩き出す。

 辻馬車の御者が馬車の扉を開けると、ヒューイはリンジーを抱いたまま乗り込むと、そのまま座席に座った。
「?」
 当然座席に降ろされると思っていたリンジーは、ヒューイの膝の上に横抱きされている自分の状態に戸惑う。

「リンジー、お前、あの男を庇うのか?」
「え?」
 リンジーが顔を上げると、ヒューイと目が合った。
「まさかあんな男が俺より条件の良い男だと言うつもりじゃないだろうな?」
 ヒューイは眉を顰めて言う。
「…あんな男なんて言い方しないで」
 ルイス様は巻き込まれただけ。悪いのは私なんだから。
 リンジーが小さな声で呟くと、ヒューイは吃驚の表情を浮かべた。
「まさか…」

 馬車が停まる。

 ヒューイはリンジーを抱き直すと、飛び降りる勢いで馬車を降りた。








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