幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

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 ヒューイの父と母が応接室から出て行き、ヒューイとリンジーの父の二人だけになる。
「本当に済まない。ヒューイ君」
 ソファで向かい合い、改めて頭を下げるリンジーの父。
「やめてください。おじ上。それより何故ですか?リンジーが何か言いましたか?」
 頭を上げた父は、言いにくそうに言う。
「その…ヒューイ君と結婚したくなくて、他の男性と会った、と…その相手の家に累が及ばないようにして欲しい、と」

 リンジーがあの男に、累が及ばないように…と?
「それに、私はリンジーはヒューイ君を…その、好きなんだと、幼い頃から…そう思っていたから、家格から言っても我が家の娘がグラフトン公爵家に嫁ぐなどあり得ないと考えていたが、ヒューイ君がリンジーを望んでくれるなら、これ以上の縁はないかと…」
「……」
「しかしリンジーはヒューイ君との結婚はどうしても嫌だと言うし」
 どうしても嫌。
 ズクンッと胸の奥が痛んだ。
「……」
「もちろん、オルディス家への支援金は打ち切ってくれ。今までの分は一生掛けてでも返金する」
 リンジーの父は、強く決意した瞳をヒューイに向ける。
 ああ、親子だな。
 とヒューイは思う。
 リンジーも一生掛けても返すと言っていたな。
 ああ、そうだ。あの時のリンジーのを見て、実はリンジーは俺を嫌いなんじゃないかと思ったじゃないか。それは間違っていなかったと言う事か…

「…婚約破棄と言う事になりますが、良いのですか?」
 ヒューイは低い声で言う。
 婚約解消と婚約破棄では、その後の縁談への影響が全く違う。円満な婚約解消であれば、原因について多少周りから詮索されたとしてもそう支障はないが、婚約破棄となると、どちらかに明確な非がある事が広く知られるため、その原因となった令嬢令息は「傷物」と扱われるのだ。
「ああ。もちろん。我が家の有責だ」
「リンジーも、アンジーももう結婚できないかも知れませんよ?」
 王家にも近いグラフトン公爵家から婚約破棄された伯爵令嬢。そしてその弟の縁談がそう簡単に纏まるとは思えない。それでも?
「…アンジーには申し訳ないが、仕方がない」
「そうですか」

 頷けば良い。「わかりました」と言えば。
 ザインも言っていたように、リンジーとの契約結婚はやめにして、他の令嬢を探せば良い。
 リンジーもそう言ったじゃないか。他の女性ひとを探せと。
 ズキンッ。
 心臓と、頭が痛む。

「少し…考えさせてください」
 ヒューイは拳で胸を押さえながら言った。

-----

「どうしたの?リンジー、元気ないわね」
 昼休憩に寮に戻って来たリンジーとユーニス。
 中庭や食堂へ行くより移動時間が掛かる分休憩時間は短くなるが、ケントにもヒューイやザインにも会わなくて済むし、会話を聞かれる心配がない。
 スミスとのデート事件の後から二週間経つ。あれからリンジーとユーニスは中庭には行かず寮で昼食を摂っていた。
「うん…これ見て」
 今日はリンジーの部屋なので、リンジーは机の上に置いてあった封筒を持って来てユーニスに渡す。
「手紙?」
「そう。スミス様から」
「え!?」
 スミスは一旦警察には引き渡されたが、リンジーが被害を届け出なかったため数日後に釈放される事になった。
 ヒューイが身元引き受けに訪れて「リンジーに二度と近付くな。近付いたらグラフトン公爵家の名に掛けてお前の家を叩き潰してやる」と脅して領地へ帰らせたのだ。
「手紙って近付いた事にはならないのかしら?」
 ユーニスが封筒をじっと見ながら言う。
「物理的に近付いた訳じゃないし、私が言わなきゃわからないわ」
「そうね。それで、何が書いてあったの?」
「怖い目に遭わせてごめんって。それからもう近付かないから安心してって。私が浅はかだったせいでスミス様を巻き込んだんだから、謝罪するのは私の方なのに」
「リンジー…」
「ヒューイに知られたら不味いから返事はいらないって。この手紙も読んだらすぐ処分して欲しいって書いてあったの」
 リンジーは苦笑いを浮かべる。
 だから週末にはこの手紙を家に持ち帰り、焼却するつもりだ。
 手紙の最後に「リンジーの婚約者はリンジーをとても大切に思っているんだね。お幸せに」なんて書いてあって思わず笑ってしまったわ。婚約破棄寸前なのにね。

 グラフトン公爵家ではリンジーとヒューイの婚約についてはヒューイにどうするかを任せる事にしたらしい。
 リンジーもあれからヒューイと顔を合わせていないので、ヒューイがどうするのつもりなかも知らないのだ。



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