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学園に入ると、ザインともリンジーともクラスは離れ、ケントとは同じクラスになった。
リンジーとは学園でたまに顔を合わせる程度、ヒューイはほぼ毎日ザインと過ごしていた。
学園二年生になった頃には、休みに家に帰る度に父母から「そろそろヒューイの結婚相手を決めなくては」「ほらこの絵姿を見て。お綺麗でしょ?侯爵家のお嬢様よ」とせっつかれ、うんざりしていた。
結婚は、最終的には誰かとしなくてはならない事はわかっているが、父母から勧められた縁談は全て断った。
たまに俺の前にあの侍女が現れて迫られるのも煩わしい。
「俺はいずれ公爵家の嫡男として結婚をして子をもうけなければならない。それまで俺はザインの事以外考えたくないんだ」
ザインの事以外。つまり侍女の事も考えたくない、と言ったつもりだったが、侍女からの口からは意外な言葉が放たれた。
「では、傀儡の妻を娶られたら?」
侍女がニッコリと笑って言う。
「は?」
「形だけの妻…ああでも嫡子が必要なんですよね?その子を生んでいただくためだけの妻ですよ。ああ、そう。言うなれば『契約結婚』です」
契約結婚?
「愛などより、公爵家に嫁げて、いずれ女主人になれて、自分の子供が後継者になる。そういうのを重要視する女性は少なからず居ますよ」
侍女は口角を上げた。
「嫡男が生まれたら、奥方様も恋愛でも何でも自由にして良いと。そう言う条件はどうですか?そうしたら、ヒューイ様がザイン様とお別れする必要もないですし」
ザインと別れなくても良い。
その言葉が胸に刺さった。
「契約結婚ですから、ヒューイ様が全然知らない令嬢が良いと思います。下手に情が絡む相手だと奥方様がヒューイ様に執着されたり、愛人の存在が許せなかったりするかも知れませんし」
家格は同じくらいの相手が良いだとか、意外と没落貴族が狙い目かもだとか、侍女は色々話しているが、俺は途中から侍女の言う事は余り聞いてはいなかった。
契約結婚、か。
しかしその相手をどう探すか…
ある日、教室のケントの机の上に置かれた紫色の軸の万年筆に気が付いた。
ザインが同じような万年筆を使っていなかったか?
何気なくその万年筆を手に取ると「触るな」とばかりにすぐにケントに取り返された。
「それ…」
「誕生日にリンジーに貰った物だ」
そう言いながら大切そうに筆入れにそれを入れるケント。
「ザインが同じ…いや色違いの物を持っていた」
「ああ。ザインのは銀色だとリンジーが言っていたな」
リンジーは、ケントとザインには誕生日の贈り物をしていたのか。俺にはカードしかなかったのに。
リンジーと一番近しいのは俺ではなかったのか?
モヤモヤとした物がヒューイの胸に広がった。
そんな頃、リンジーの家の領地が台風や大雨で甚大な被害を受けたという話しを父と母がしているのを耳にした。
「復旧にもかなりの時間と…お金も掛かるし大変みたいなの。援助したいけど、友達同士で施すみたいなのは違うわって言われたし、借りても返せないからって…何かしてあげられる事はないのかしら」
夜更けのサロンから母の声が、たまたま廊下を歩いていたヒューイの耳に届く。
「そうだな。オルディス家の領地でできる作物を我が家が買い上げる事にしよう」
リンジーの家の話しか?
ヒューイは父と母の会話を聞くために立ち止まった。
「後は…リンジーとアンジーに良い縁談を紹介しようか」
「そうね。アンジーくんはまだ幼いけれど、リンジーちゃんはもう婚約していてもおかしくない歳だし」
…リンジーに、縁談?
今の今までリンジーの事など頭になかったのに、何故か胸が苦しくなった。
リンが、誰かと、結婚?
リンが、俺ではない、誰かと。
ガンガンと痛み出した頭を押さえながら、ヒューイは自分の部屋に戻った。
このままでは父上がリンジーに「良い縁談」を持って行ってしまう。裕福な伯爵家辺りの令息か。それとも羽振りの良い商家の息子だろうか。
「リン、ヒューイのおよめさんになる」
「うん。ぼくリンをおよめさんにする」
周りは微笑ましく幼い二人を見ている。
そんな情景が何度もあったにも関わらず、今までどんな縁談を持って来られてもそこにリンジーの名前はなかったし、こう言う場面でもリンジーへの「良い縁談」の相手はヒューイではない。
いくら家族ぐるみで仲が良くても、貴族の婚姻としてグラフトン公爵家とオルディス伯爵家では到底釣り合いが取れないと言う事なのだろう。
だが、俺が望めばどうだろう?
俺が「リンジーと結婚したい」と言えば、それは通るんじゃないのか?
そう考えた時、ガンガンとした頭痛がすうっと消えた。
学園に入ると、ザインともリンジーともクラスは離れ、ケントとは同じクラスになった。
リンジーとは学園でたまに顔を合わせる程度、ヒューイはほぼ毎日ザインと過ごしていた。
学園二年生になった頃には、休みに家に帰る度に父母から「そろそろヒューイの結婚相手を決めなくては」「ほらこの絵姿を見て。お綺麗でしょ?侯爵家のお嬢様よ」とせっつかれ、うんざりしていた。
結婚は、最終的には誰かとしなくてはならない事はわかっているが、父母から勧められた縁談は全て断った。
たまに俺の前にあの侍女が現れて迫られるのも煩わしい。
「俺はいずれ公爵家の嫡男として結婚をして子をもうけなければならない。それまで俺はザインの事以外考えたくないんだ」
ザインの事以外。つまり侍女の事も考えたくない、と言ったつもりだったが、侍女からの口からは意外な言葉が放たれた。
「では、傀儡の妻を娶られたら?」
侍女がニッコリと笑って言う。
「は?」
「形だけの妻…ああでも嫡子が必要なんですよね?その子を生んでいただくためだけの妻ですよ。ああ、そう。言うなれば『契約結婚』です」
契約結婚?
「愛などより、公爵家に嫁げて、いずれ女主人になれて、自分の子供が後継者になる。そういうのを重要視する女性は少なからず居ますよ」
侍女は口角を上げた。
「嫡男が生まれたら、奥方様も恋愛でも何でも自由にして良いと。そう言う条件はどうですか?そうしたら、ヒューイ様がザイン様とお別れする必要もないですし」
ザインと別れなくても良い。
その言葉が胸に刺さった。
「契約結婚ですから、ヒューイ様が全然知らない令嬢が良いと思います。下手に情が絡む相手だと奥方様がヒューイ様に執着されたり、愛人の存在が許せなかったりするかも知れませんし」
家格は同じくらいの相手が良いだとか、意外と没落貴族が狙い目かもだとか、侍女は色々話しているが、俺は途中から侍女の言う事は余り聞いてはいなかった。
契約結婚、か。
しかしその相手をどう探すか…
ある日、教室のケントの机の上に置かれた紫色の軸の万年筆に気が付いた。
ザインが同じような万年筆を使っていなかったか?
何気なくその万年筆を手に取ると「触るな」とばかりにすぐにケントに取り返された。
「それ…」
「誕生日にリンジーに貰った物だ」
そう言いながら大切そうに筆入れにそれを入れるケント。
「ザインが同じ…いや色違いの物を持っていた」
「ああ。ザインのは銀色だとリンジーが言っていたな」
リンジーは、ケントとザインには誕生日の贈り物をしていたのか。俺にはカードしかなかったのに。
リンジーと一番近しいのは俺ではなかったのか?
モヤモヤとした物がヒューイの胸に広がった。
そんな頃、リンジーの家の領地が台風や大雨で甚大な被害を受けたという話しを父と母がしているのを耳にした。
「復旧にもかなりの時間と…お金も掛かるし大変みたいなの。援助したいけど、友達同士で施すみたいなのは違うわって言われたし、借りても返せないからって…何かしてあげられる事はないのかしら」
夜更けのサロンから母の声が、たまたま廊下を歩いていたヒューイの耳に届く。
「そうだな。オルディス家の領地でできる作物を我が家が買い上げる事にしよう」
リンジーの家の話しか?
ヒューイは父と母の会話を聞くために立ち止まった。
「後は…リンジーとアンジーに良い縁談を紹介しようか」
「そうね。アンジーくんはまだ幼いけれど、リンジーちゃんはもう婚約していてもおかしくない歳だし」
…リンジーに、縁談?
今の今までリンジーの事など頭になかったのに、何故か胸が苦しくなった。
リンが、誰かと、結婚?
リンが、俺ではない、誰かと。
ガンガンと痛み出した頭を押さえながら、ヒューイは自分の部屋に戻った。
このままでは父上がリンジーに「良い縁談」を持って行ってしまう。裕福な伯爵家辺りの令息か。それとも羽振りの良い商家の息子だろうか。
「リン、ヒューイのおよめさんになる」
「うん。ぼくリンをおよめさんにする」
周りは微笑ましく幼い二人を見ている。
そんな情景が何度もあったにも関わらず、今までどんな縁談を持って来られてもそこにリンジーの名前はなかったし、こう言う場面でもリンジーへの「良い縁談」の相手はヒューイではない。
いくら家族ぐるみで仲が良くても、貴族の婚姻としてグラフトン公爵家とオルディス伯爵家では到底釣り合いが取れないと言う事なのだろう。
だが、俺が望めばどうだろう?
俺が「リンジーと結婚したい」と言えば、それは通るんじゃないのか?
そう考えた時、ガンガンとした頭痛がすうっと消えた。
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