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 放課後の図書室へザインがやって来ると、本棚の間に居た黒髪を後ろで束ねた眼鏡の男が嬉しそうに微笑んだ。
「やあザイン君」
 ザインはキョロキョロと周りをみまわす。何人かの生徒が見えた。
「司書の控室へ行きましょうか」
 男がザインの手を取り、耳元に顔を近付けて小声で言う。
「…その前に本を返して、新しいのを借りて行く」
 ザインが男の手を外しながら言うと、男は笑って本棚から一冊の本を取ると、ザインに渡した。
 借りていた本を返却し、男に渡された本を借りる手続きをすると、男はザインを図書室の奥にある司書の控室へと促した。

 ザインと控室に入ると、男は後ろ手でドアに鍵を掛ける。
 控室には一組のテーブルと椅子、一つのソファとローテーブルがある。二人いる学園の司書が休憩や仮眠を取る場所なのだ。
 ザインはソファに座ると、今借りたばかりの本をテーブルに置く。表紙を捲ると、赤い色の薬包が挟んであった。
「…これが?」
 赤い薬包を手に取るとしげしげと眺める。
「そう。ザイン君ご所望の品です」
 男はそう言うと、ザインの隣に座った。
 男の手がザインの太腿に触れる。
「くれぐれも量には気をつけて」
「わかった」

「しかし、こうまでしないと繋ぎ止められないなら、その関係はもう破綻しているんじゃないですか?」
 太腿をゆっくりと撫でながらザインの耳元で言う。
「うるさい」
 ザインが憮然として言うと、男は笑った。
「まあそのおかげで私は美しいザイン君を抱けるんだから、役得ですけどね」
 ザインの肩に手を回し、耳に息を吹き掛けるように言うと、太腿を撫でていた手を脇腹から胸へと這わせ、シャツのボタンを外す。
「…ん」
 目を閉じて小さく身震いするザインに、男はニンマリと笑った。
「耳、弱いんですよね。ザイン君はかわいいなあ」

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「ユーニス、私…学園を辞めるかも知れないわ」
 夜、ユーニスの部屋を訪れたリンジーは神妙な面持ちで言った。
「え?」
 ユーニスは驚いてリンジーを見る。
「…ヒューイとの婚約がなくなれば経済的に学園に通うのは無理だと思うの。お父様は『何とかする』って言うけど、そのお金は私よりアンジーに掛けて欲しいし…」
 確かに学園を卒業していないと良い縁談は来ないって言うけど、どちらにせよグラフトン公爵家から婚約破棄された私に、良い縁談なんて来る筈もないし。
 それに今までの援助が丸々借金になるんだし、これからの援助もなくなる。私のせいで領地の復旧も遅れてしまうし、そんな中、私がぬくぬくと学園生活を送るのは違うと思うのよね。
「辞めて、リンジーはどうするの?」
「領地へ行って働くわ」
「……」
 ユーニスは何も言えずに眉を顰める。

「ただヒューイが何も言って来ないから、今の処、我が家としてもどうにも動きようがないのよね」
 リンジーは敢えて明るい口調で言うと肩を竦めた。
「あれから全くヒューイ様と会ってないの?」
「うん。全く」
 あれからは一か月と少し経っている。
 ヒューイともだけど、ザインともケントとも、学園で遠くから見かける事はあるけど、話しはしてないなあ。
 ヒューイからは家にも個人的にも連絡はないし。
 この間のザインの誕生日にはカードだけ贈っておいたけど、ザインからも特に何もないし…もうすぐケントの誕生日だけど…ザインにカードだけなら、ケントにもカードだけにするべきよね。

「こちらから『婚約破棄はまだか』って言うのも何だかおかしいし、待つしかないんだけど」
「そうね…でも婚約破棄されたらリンジーが学園を辞めちゃうなんて…何だが淋しいわ」
 眉を下げてユーニスが言う。
「ありがと。そういえば、私とヒューイの婚約がなくなったら、ユーニスとザインの婚約はどうなるのかしら?
 ユーニスとザインの婚約の話は「互いを知り合う期間も設けよう」と言う事で、まだ本決まりにはなっていないのだ。
「ヒューイ様がリンジーと結婚しないなら、ザイン様が私と結婚する意味もなくなるから、この話は流れるんじゃないかしら?」
 ケロリとした様子でユーニスは言った。
「ユーニスは…ザインの事…好ましく思ってたり、しないの?」
 もしそうなら、私の婚約破棄とユーニスの婚約話が一蓮托生なの、申し訳ない気持ちになるけど…
「格別好ましく思ってはいないわ。格別嫌いでもないけれど」
 ユーニスは首を傾げて言う。
「そうなの?」
「うん。ザイン様からも特に積極的に私と結婚したいって感じは受けないし、私の婚約の事はリンジーが気に病む事はないわよ。それに『白の貴公子』なんて私には不釣り合いだから、この話しが流れたらむしろホッとするもの」
 あっけらかんと言うユーニスに、リンジーは心の中で安堵のため息を吐いた。



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