幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

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「ヒューイ様!リンジーが攫われたんです!」
 ザインに背中を押され、部屋から出されようとしながらも、ユーニスは振り向いて叫んだ。
 ソファに仰向けになって眠っているヒューイの手がピクンと小さく動く。
「攫っ…え?リンジーが?」
 ザインもユーニスの背中を押す手を止めた。
「そうなんです!ヒューイ様からの贈り物だと花屋が花束を持って来て…その花束に薬が仕込んであったみたいで」
「ヒューイからの贈り物?…あ、とにかく出て!ユーニス」
「え、あの」
 ザインはユーニスを押して二人で廊下へ出ると、扉を閉めた。

「ザイン様、私はヒューイ様に知らせに来たんです!」
 扉を守るように前に立つザインの胸倉を掴まんばかりにユーニスは言う。
「ヒューイは関係ないよ」
「どうしてですか?あの花屋はヒューイ様の名を騙っているんです。ヒューイ様と何か繋がりがあるのか、ただ名前を使っただけなのか、ヒューイ様に聞いてみなければわからないではないですか!?」
「わかるよ。ヒューイはリンジーに花束など贈っていない。だからその花屋が婚約者であるヒューイの名を使っただけだ」
「……」
 淡々と言うザイン。
 そうよね。リンジーはヒューイ様からはカードすら届いてないって言ってたもの。
 リンジーの苦笑い。淋しそうな笑顔。ザイン様は見ていないから「ヒューイは関係ない」なんて簡単に言えるんだわ。

「せめてヒューイ様にお心当たりを聞かせてください」
 ユーニスはザインの身体の脇から扉の取手に手を伸ばすが、ザインがその手首を掴んだ。
「だめだ」

 ユーニスは涙を浮かべてザインを睨む。
「…何ですか。ヒューイ様もザイン様も!リンジーを捜す気もないんですか?」
「いや…」
 ザインが戸惑ったように言うと、ユーニスは踵を返して廊下を階段の方へと歩き出した。
「ユーニス」
 部屋から遠ざかるように廊下を歩くユーニスの後ろへザインが着いて行く。
「もういいです。時間が勿体ないわ。私はリンジーを捜しに行きますから」
ユーニスの頬に涙が伝う。

「捜すって、どこを…」
「どこだっていいじゃないですか!」
 階段の手前で、ユーニスは泣きながらザインの方へ振り返る。
「ユーニス…」
「ザイン様とヒューイ様がそういう関係なのはわかりました。リンジーと私を利用しようとしていたのも理解しました。それでもお二人にとってリンジーは大切な幼なじみなんだと思っていたのに…婚約が失くなって利用価値がなくなったから、リンジーが攫われようと、そのまま殺されようと、もうどうだって良いんでしょう!?」
 涙を流しながらザインを睨む。
「そんな…」
「だから、もういいです」
 手の甲で涙を拭いながらユーニスはまた向きを変え、階段を小走りに駆け降りた。

「待て!」
 階段の上に立ち竦むザインの横を、黒い影が横切る。
「…ヒューイ!」
 ザインが愕然とした表情で黒い影…ユーニスを追って階段を駆け降りるヒューイを見た。

 振り向かず玄関ホールを横切ろうとするユーニスの二の腕を、追い掛けて来たヒューイが掴む。

「急いでるんです。離してください」
 平坦な声でユーニスが言うと、ヒューイはゼイゼイと息を切らしながら首を横に振った。
「…リンジーが…攫れた…と?」
「だから急いでるん…」
 ふと、ユーニスは気付く。
 ザインの部屋から、廊下と階段と玄関ホール。全力疾走をしてもこんなに息が切れる筈はない。
 なのにヒューイは肩で息をしていた。
「ヒューイ様?」
「俺の…事はいい。リンジー…が攫われた…時の状況を…」
 ヒューイはユーニスの腕を引きながら玄関扉の方へ歩き出す。
 リンジーを捜しに行くつもりなのだと悟り、ユーニスは扉へと駆け出した。
「はい!玄関前に馬車を待たせています!詳しくは馬車の中で!」

 玄関扉をユーニスが開けて、ヒューイがユーニスに続いて出て行こうとしている様子をザインは階段の上から眺めていた。

 ヒューイ。
 薬の効き目を断ち切ったんだね。
「ああ…やっぱりリンジーには敵わないんだなあ…」
 ザインは天井を見上げて呟く。
 ほんの少しの間、目を閉じて、そしてまた開く。

「ヒューイ、ユーニス、待って!俺も行く!」
 ザインはそう言うと、階段を駆け降りた。



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