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ガシャンッと音を立てて、壁の上の方にある二つ並んだ大きくはない窓のガラスが割れ、閉じられていたカーテンが大きく揺れた。
二つの窓のカーテンの隙間からそれぞれ人影が飛び込んで来て、騎士に剣を突きつけられた男を素早く羽交締めにする。
「…護衛騎士だけではなく、諜報班まで出された…か。やはり殿下はこの女のためならばあらゆる手を尽くされるのだな」
男はは口角を上げて言うが、飛び込んで来た男の一人は黙ったまま男を羽交締めにし続け、もう一人は黙々と縄を掛けた。
「違う」
リンジーを抱きしめたままで、ヒューイは言う。
男がヒューイの方を見ると、ヒューイは男を睨みつけた。
「ケントが護衛騎士や諜報班を出したのは、攫われたのがリンジーだからと言うだけではない。それを頼んだのが俺だからだ」
「は?」
訝し気な男を睨んだままでヒューイは挑発的に言う。
「お前は第二王子派の割にケントの事を理解していないな」
「はあ?」
気色ばんで立ち上がろうとする男の肩を、手首を縛るために羽交締めを解いた男が手の平で軽く押さえた。
それだけで男は立ち上がる事ができなくなる。
「くっ…」
「ケントはな、王位に就きたいなどと、ただの一瞬たりとも考えた事はないんだ」
「…何故貴様がそう断言できる?」
男は憎々しい視線をヒューイに向ける。
「ケントはグラフトン家に預けられた時から両親や兄に心理的に一線引いている。それはそうだろう?まだ四歳だぞ?どんな事情があろうとも、幼い子供が親兄弟から遠ざけられたんだ。もちろん愛情もあるが、自分だけが両親とも兄とも会えなくなって、まったく知らない家に連れて来られた。陛下も王妃殿下も王太子殿下もケントも、誰も悪くはなくても多少のわだかまりが残るのも当然だ。だからこそ、家族同然に迎え入れたグラフトン家の人間に対して特別な情が生まれても不思議はないだろう?」
「……」
「ケントにとっての俺は実の兄よりも気安く遠慮のない存在なんだ。だからこそ、俺が本気で頼めばケントは動く。それが今回だ。だからと言って俺が何でもかんでもケントに頼んだりはしないのはケントもよく知っている。そう言う処もケントと俺の信頼関係だ」
「……」
男は黙ってヒューイを睨む。ヒューイも男を真っ直ぐに見据えていた。
「それもこれも兄王子の病いに乗じた第二王子派の行いの所為だ。ケントは口や態度に出したりは決してしないが、第二王子派を疎んじている。故に、第二王子派の思惑通りになど決してならない」
「なっ…」
「俺の言う事が出鱈目と思うなら、ケントに直接聞いてみれば良い」
ヒューイがそう言うと、男の肩を押さえていた諜報班の男二人が男を立たせた。
諜報班の男は、ケント殿下は王になる器だ、第二王子派の悲願が、と喚く男の口に布を押し込むと、手際よく手布で口元を押さえ頭の後ろでそれを縛る。
言葉にならない呻き声を上げる男の両脇を抱え諜報班の二人は出入口である扉があった床にぽっかりと空いた穴から出て行く。
その後を追う騎士は、穴の手前でヒューイの方を向いた。
「リンジー嬢をお連れするのに手をお貸しいたしましょうか?」
そう言う騎士に、ヒューイはリンジーを抱きしめたまま、口角を上げた。
「いや。俺が一人で連れて行く。ありがとう」
ヒューイがそう言うと、騎士はさもありなんと頷く。
「承知いたしました」
ニコリと笑って、騎士も穴から出て行った。
ヒューイとリンジーだけが残された屋根裏部屋で、ヒューイは抱きしめていた腕を緩めてリンジーの顔を覗き込む。
リンジーは眉間に皺を寄せて目を瞑っていた。
「リンジー?」
ヒューイが心配そうに声を掛けると、リンジーは目を瞑ったまま、ますます眉間に皺を寄せる。
「……い」
小声で呟く。
「リンジー?どこか痛いのか!?」
慌ててリンジーの顔を覗き込むヒューイ。
リンジーはすうーっと大きく息を吸うと、薄らと目を開けた。
「…力が強すぎて…息が…」
リンジーは、抱きしめる力が強すぎて息が苦しかったと大きく呼吸をしながら言う。
「すまん。力加減を間違えたな」
「……」
ヒューイがそう言うと、リンジーは俯く。伏せたその眼にみるみる内に涙が浮かんだ。
「リンジー!?」
「…離して」
驚くヒューイの胸をリンジーは押す。
「リンジー?」
「た…助けに来てくれてありがとう。もう大丈夫だから、離して」
俯いたまま言うリンジーの頬に涙が一筋流れた。グイグイとヒューイの胸を押して身体を離そうとする。
「駄目だ。リンジー」
ヒューイはリンジーの腕を掴むと、反対の手を背中に回して、またリンジーを抱きしめた。
「離して」
ヒューイの胸に額を付けてリンジーはイヤイヤと身体を捻る。
「駄目だ」
ヒューイはそんなリンジーの身体ごと、自分の腕の中に抱き込んだ。
「離して」
もぞもぞと抵抗するリンジー。
「好きなんだ。だから離さない」
ヒューイが言うと、リンジーの動きがピタリと止まった。
ガシャンッと音を立てて、壁の上の方にある二つ並んだ大きくはない窓のガラスが割れ、閉じられていたカーテンが大きく揺れた。
二つの窓のカーテンの隙間からそれぞれ人影が飛び込んで来て、騎士に剣を突きつけられた男を素早く羽交締めにする。
「…護衛騎士だけではなく、諜報班まで出された…か。やはり殿下はこの女のためならばあらゆる手を尽くされるのだな」
男はは口角を上げて言うが、飛び込んで来た男の一人は黙ったまま男を羽交締めにし続け、もう一人は黙々と縄を掛けた。
「違う」
リンジーを抱きしめたままで、ヒューイは言う。
男がヒューイの方を見ると、ヒューイは男を睨みつけた。
「ケントが護衛騎士や諜報班を出したのは、攫われたのがリンジーだからと言うだけではない。それを頼んだのが俺だからだ」
「は?」
訝し気な男を睨んだままでヒューイは挑発的に言う。
「お前は第二王子派の割にケントの事を理解していないな」
「はあ?」
気色ばんで立ち上がろうとする男の肩を、手首を縛るために羽交締めを解いた男が手の平で軽く押さえた。
それだけで男は立ち上がる事ができなくなる。
「くっ…」
「ケントはな、王位に就きたいなどと、ただの一瞬たりとも考えた事はないんだ」
「…何故貴様がそう断言できる?」
男は憎々しい視線をヒューイに向ける。
「ケントはグラフトン家に預けられた時から両親や兄に心理的に一線引いている。それはそうだろう?まだ四歳だぞ?どんな事情があろうとも、幼い子供が親兄弟から遠ざけられたんだ。もちろん愛情もあるが、自分だけが両親とも兄とも会えなくなって、まったく知らない家に連れて来られた。陛下も王妃殿下も王太子殿下もケントも、誰も悪くはなくても多少のわだかまりが残るのも当然だ。だからこそ、家族同然に迎え入れたグラフトン家の人間に対して特別な情が生まれても不思議はないだろう?」
「……」
「ケントにとっての俺は実の兄よりも気安く遠慮のない存在なんだ。だからこそ、俺が本気で頼めばケントは動く。それが今回だ。だからと言って俺が何でもかんでもケントに頼んだりはしないのはケントもよく知っている。そう言う処もケントと俺の信頼関係だ」
「……」
男は黙ってヒューイを睨む。ヒューイも男を真っ直ぐに見据えていた。
「それもこれも兄王子の病いに乗じた第二王子派の行いの所為だ。ケントは口や態度に出したりは決してしないが、第二王子派を疎んじている。故に、第二王子派の思惑通りになど決してならない」
「なっ…」
「俺の言う事が出鱈目と思うなら、ケントに直接聞いてみれば良い」
ヒューイがそう言うと、男の肩を押さえていた諜報班の男二人が男を立たせた。
諜報班の男は、ケント殿下は王になる器だ、第二王子派の悲願が、と喚く男の口に布を押し込むと、手際よく手布で口元を押さえ頭の後ろでそれを縛る。
言葉にならない呻き声を上げる男の両脇を抱え諜報班の二人は出入口である扉があった床にぽっかりと空いた穴から出て行く。
その後を追う騎士は、穴の手前でヒューイの方を向いた。
「リンジー嬢をお連れするのに手をお貸しいたしましょうか?」
そう言う騎士に、ヒューイはリンジーを抱きしめたまま、口角を上げた。
「いや。俺が一人で連れて行く。ありがとう」
ヒューイがそう言うと、騎士はさもありなんと頷く。
「承知いたしました」
ニコリと笑って、騎士も穴から出て行った。
ヒューイとリンジーだけが残された屋根裏部屋で、ヒューイは抱きしめていた腕を緩めてリンジーの顔を覗き込む。
リンジーは眉間に皺を寄せて目を瞑っていた。
「リンジー?」
ヒューイが心配そうに声を掛けると、リンジーは目を瞑ったまま、ますます眉間に皺を寄せる。
「……い」
小声で呟く。
「リンジー?どこか痛いのか!?」
慌ててリンジーの顔を覗き込むヒューイ。
リンジーはすうーっと大きく息を吸うと、薄らと目を開けた。
「…力が強すぎて…息が…」
リンジーは、抱きしめる力が強すぎて息が苦しかったと大きく呼吸をしながら言う。
「すまん。力加減を間違えたな」
「……」
ヒューイがそう言うと、リンジーは俯く。伏せたその眼にみるみる内に涙が浮かんだ。
「リンジー!?」
「…離して」
驚くヒューイの胸をリンジーは押す。
「リンジー?」
「た…助けに来てくれてありがとう。もう大丈夫だから、離して」
俯いたまま言うリンジーの頬に涙が一筋流れた。グイグイとヒューイの胸を押して身体を離そうとする。
「駄目だ。リンジー」
ヒューイはリンジーの腕を掴むと、反対の手を背中に回して、またリンジーを抱きしめた。
「離して」
ヒューイの胸に額を付けてリンジーはイヤイヤと身体を捻る。
「駄目だ」
ヒューイはそんなリンジーの身体ごと、自分の腕の中に抱き込んだ。
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もぞもぞと抵抗するリンジー。
「好きなんだ。だから離さない」
ヒューイが言うと、リンジーの動きがピタリと止まった。
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