幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

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 ヒューイが、来てくれた。

 だけど、何で私ヒューイに抱きしめられてるの?

 息が…苦しい…
 ヒューイに抱きしめられて胸が痛い。だけどそれ以上に…力が強すぎる。
 あの男と話しているヒューイが声を発する度に頬が押し付けられた胸が上下して、ヒューイの呼吸と、鼓動を感じてしまう。
 助けに来てくれたのは嬉しいけど、こんなのは困る。
 ヒューイが好きなのは私じゃない。
 幼なじみだから助けに来てくれただけ。なのに、こんな密着して、息遣いや鼓動、腕の筋肉の感じとか、胸板の厚さとか、体温とか、きっと何もかも忘れられなくなってしまうのに。

 いっそこのまま窒息してしまえばいい。
 一生に一度のこの時間が、終わってしまう前に。

 ヒューイとリンジーだけが残された屋根裏部屋で、ヒューイは抱きしめていた腕を緩めてリンジーの顔を覗き込んだ。
「リンジー?」
 ああ、終わっちゃった。
「……い」
 腕が緩んで息がしやすくなったリンジーは小声で呟く。
「リンジー?どこか痛いのか!?」
 ヒューイが慌てた様子でリンジーの顔を覗き込んだ。
 リンジーはすうーっと大きく息を吸うと、薄らと目を開けた。
 わあ~顔が近い。
 心臓が痛くて違う意味で息が苦しい…
「…力が強すぎて…息が…」
 リンジーは、抱きしめる力が強すぎて息が苦しかったと大きく呼吸をしながら言った。
「すまん。力加減を間違えたな」
「……」
 …あ、そうか。
 普段ザインを抱きしめる時の力加減なんだわ。
 そう気付くとじんわりと目頭が熱くなって、リンジーは俯いた。
「リンジー!?」
「…離して」
 驚くヒューイの胸をリンジーは押す。
「リンジー?」
 泣くつもりなんかないのに。きっとこれは薬の影響よ。ちょっと情緒不安定になってるんだわ。
「た…助けに来てくれてありがとう。もう大丈夫だから、離して」
 俯いたまま言うリンジーの頬に涙が一筋流れた。
 泣いてるの、見られたくない。
 何で泣いてるのか、知られたくない。
 グイグイとヒューイの胸を押して身体を離そうとする。
「駄目だ。リンジー」
 ヒューイはリンジーの腕を掴むと、反対の手を背中に回して、またリンジーを抱きしめた。

 …どうして?
 どうしてヒューイはこんな事するの?
「離して」
 身体を捻るがヒューイの腕はびくともしない。
「駄目だ」
 ヒューイはそんなリンジーの身体ごと、ますます自分の腕の中に抱き込んだ。
「離して」
 何でヒューイは離してくれないの?
 振り回されて苦しいのに。
 なのに、嬉しい気持ちも心の中には確かにあって…浅ましい自分が…醜くて滑稽で、苦しい。

「好きなんだ。だから離さない」
 
 ………は?

 好きなんだって、何が?
 離さない?って何を?
「俺はリンジーが好きなんだ」
 リンジーの耳から入って来たヒューイの言葉は、上滑りして心には届かない。
「…何…言ってるの?」
「リンジーが好きなんだ」
 ?
 ??
 ???
「…誰が私を好きなの?」
「俺が」
 ぎゅうぎゅう抱きしめられて、リンジーの視界にはヒューイの着ているシャツしか見えない。
 この人、確かヒューイだったわよね?
 でもヒューイがこんな事言う訳ないし…
 実はあの男に飲まされた薬がまだ効いてて、この人がヒューイだって思い込んでるのかな?

 リンジーが小さく首を傾げると、ヒューイは少し腕を緩めた。
 顔を上げると、眉間に少し皺を寄せたヒューイの顔が見える。
 黒い髪、緑の瞳。
 あれえ?ヒューイだ。
 私の目がおかしいの?それともあの薬、幻覚も見せる薬だったの?
「ごめん。リンジー」
 眉間の皺を深くして言うヒューイ。
「?」

 きょとんとしているリンジーと目が合うと、ヒューイはリンジーの唇にキスをした。
 唇の傷にチリッと痛みが走る。
「っ!」
 痛いって事は…幻じゃない?
 え?でも。キス、したよね?今、ヒューイ。
 え?どう言う事?
「痛かったか?すまない。リンジーこの傷は…」
「噛まれたの」
 混乱したリンジーはあの男にされた事を素直に口にした。
「噛…」

 噛まれたと言う事は、あの男の歯が…つまり必然的にあの男の唇がリンジーの唇に触れたと言う事で…
「クソッ。やっぱり一発くらい殴れば良かった…」
 苦虫を噛み潰したような表情でヒューイが言うと、リンジーは目を見開いた。
「え?私を?」
「は?何でリンジーを?」
 ヒューイも目を見開いてリンジーを見ると、リンジーは首を傾げる。
「…何でだろ?」
「わかった。あの男に何か飲まされたんだろう?リンジー」
 ヒューイは小さくため息を吐くと、リンジーをまた抱きしめた。
「うん」
 素直に頷くリンジーの頭を撫でる。
「そうか。もう大丈夫だから、眠ってろ」
 頭撫でられるの気持ちいい…
 何だか包み込まれてるみたいで安心する…
「…ん」
 リンジーはコクンと頷くと目を閉じた。








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