幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

文字の大きさ
53 / 84

52

しおりを挟む
52

「グラフトン公爵夫妻に子供が一人ヒューイしかいないのは、俺のせいだと知っているか?」
 地下の鉄格子の前に置かれた不似合いに豪奢な椅子に座り、肘掛けに肘をつき、脚を組んで、鉄格子の中へと無機質を発するケント。
「……」
 鉄格子の向こう側に後ろ手で縛られた男が無言で顔を上げる。

 ケントの側近で学園の司書の男が拘禁されている王城の地下牢を訪れたケントは開口一番そう言ったのだ。

「俺を預かる際、我が子と同じように接すると決めたとグラフトンのは言っていた。そしてこれは当人からは何も聞いてはいないが、その為に、ヒューイの弟妹の誕生を諦めた」
「……」
 ケントは淡々とした口調で、男とは目を合わせずに言う。
 男も黙ってケントを見つめていた。
「本当の弟妹ができれば、俺との接し方の違いがどうしても出てしまうと父母は考えた。俺にとってもヒューイは双子の兄のような存在だが、そのヒューイに実の弟妹がいれば、父母やヒューイがいくら俺に気遣っても、むしろ気遣われれば気遣われるほど、疎外感を覚えただろうな」
「……」
「あの頃のグラフトン家に預けられた事情、それが最善手だと考えたのもわかる。その時の幼い頭でもわかっていた。しかし王子としてではない、ただの子供の気持ちとなれば…どうして、どうにか家族が離れなくても済む方法を探ってくれなかったのかと思うのも、あるいは、兄上さえ快癒すれば俺はもう王宮に呼び戻される事もないのではないかと淋しく情けなく不安になるのも…無理はないと思わないか?」
 ケントは男に視線をやり、初めて目を合わせる。
「……っ」
 無表情なケントの瞳の中に憤りを見て、男は息を呑んだ。

「リンジーは確かに俺にとって特別な異性だ。俺を王族ではなく、幼なじみの友人として扱ってくれる唯一の女性だからな」
 ケントはじっと男を見つめる。
「俺が何もかもを捨てればリンジーが手に入るなら、そうしても良いと今も思っている。だがヒューイがリンジーになら、それは叶わない願いだろうな」
「…気が…?」
 男が言葉を発したので、ケントは片眉を上げた。
「お前がザインに協力して、ヒューイがよう計らっていたんだろう?リンジーがヒューイにとってもな存在だと」
「…ザイン君は…ヒューイ・グラフトンを繋ぎ止めるため…としか」
 呟くように言う男。ケントは顎に手を当てて頷いた。
「ああ…そうなのか。まあザインにとっては同じ事か」
 ヒューイが「自分はリンジーを好きなのだ」と気付けば、ザインとの関係は終わるのだろうから。

「お前が俺がリンジーのために何もかもを捨てるのではと危惧したのは満更見当違いではない。ただ、俺がリンジーのためではなくても、機会があれば王子の立場を捨てたいと考えていたのは知らないだろう?」
 ケントは肘掛けについた手を顎に当てて男に言う。
「……」
「それはお前たちのような第二王子派の存在のせいだ」
「!」
 男が目を見開いてケントを見た。

「お前たちは、第二王子派と謳いながら、当の俺の望まない事しかしないではないか」
「それは…」
「まあそれも、継承権二位の王子の責任と思い、心算を表明せず立場を甘受していた俺のせいでもあるんだろうな」
 自嘲気味に笑うと、ケントは椅子から立ち上がった。
「殿下」
 ケントを見上げる男に、ケントはキッパリと言った。

「俺は臣籍降下し、王位継承権を返上する。そして王宮を出る」

「殿下!」
「貴族の地位は保持するんだ。到底『何もかもを捨てる』には足りない決意だが、元々、兄上が婚姻され男子がお生まれになればと考えていた。しかし兄上の状況に関わらず学園を卒業したらそうする事にする。だがもし第二王子派が学園卒業までにそれを阻止すべく動くならば、その時は…」
 ケントは男を冷たい眼で見下ろした。
「第二王子派を粛清する」

「…っ!」
 男はケントの言葉と、瞳の冷徹さに言葉を失う。
「せいぜい今の内に継承権が繰り上がる王弟派にでも鞍替えする事だな。ああ、但し、俺は臣下として兄上の治世を支えて行くつもりだから、くれぐれも兄上と俺の邪魔はしないでくれ」

 ケントはそう言うと、地下牢を出て行った。
 




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした

ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。 彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。 そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。 しかし、公爵にもディアにも秘密があった。 その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。 ※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています ※表紙画像はAIで作成したものです

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...