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「ザイン様はあの人からもらった向精神薬でヒューイ様の気持ちを操っていたと…?」
ユーニスは眉を顰めて言った。
「正確には向精神薬ではなく、その薬が効いている時に考えた事や自分の発した言葉が自分自身に暗示を掛ける…という作用のある薬なんだ」
馬車の中で、ザインは膝に肘をつき、項垂れて話す。
「暗示?」
「本人の心の中に全くない方向へ誘導できる訳ではない」
「つまり、例えばその薬を使ったとしても、ヒューイ様に私を好きにならせるような事はできないって事?」
ユーニスは少し首を傾げて言った。
「ああ。ヒューイの心の中に少しでもユーニスへの好意があれば可能だが、好意が全くなければ不可能だ」
「なるほど…」
ザインの説明に、ユーニスは口元に手を当てて考える。
その薬で、ザイン様を好きだというヒューイ様の感情を増幅させていた、という事なのね。
ザイン様で心を占めさせて、リンジーへの気持ちを隅に追いやっていた、と。
「対価は何だ?」
暫く黙ってユーニスとザインの会話を聞いていたケントが言った。
「……」
ザインは目を泳がせるとまた俯く。
「そんな薬を無償提供しないだろう?」
ケント殿下がこういう聞き方をすると言う事は、単純にお金を払っていたとは考えていないという事ね。
そしてザイン様の様子を見ると、やっぱり対価はお金ではないんだわ。
ユーニスがそう思いながら二人を見ていると
ボンッ!
と図書室の方から鈍い音がした。
「何?」
ユーニスは窓から図書室を見るが、外観に特に変わった所は見られない。ザインも心配そうに窓の外を見ている。
「おそらくヒューイたちが屋根裏部屋へ突入したのだろう」
「そう…」
冷静な口調でケントが言うと、ユーニスはケントが落ち着いているならリンジーもヒューイも大丈夫なんだろうと少し息を吐いた。
しばらくすると、図書室の入り口から、四人の男性が出てきた。
諜報班の班長と、もう一人の男に両脇を抱えられた黒髪の男だ。そしてその後ろから騎士が一人、剣を黒髪の男の背中に向けている。
「!」
ザインがそれを見て馬車の扉を開けて、駆けるように出て行った。
-----
「ザインが気になる?」
馬車の窓から外を見ているユーニスに、ケントが声を掛ける。
「はい?」
ユーニスが振り向くとケントと目が合った。
「心配そうな顔をしている」
「そうですか?」
ユーニスは自分の表情を確かめるように頬に手を当てる。
「そう言えば、ケント殿下はザイン様があの人に薬の対価として何を渡したと思われているのですか?」
ユーニスの質問に、ケントは少し言い辛そうに
「…俗な言い方をすれば『身体で払う』かと」
と言った。
「か」
らだ。つまりザイン様とあの人が…
「それは恋人であるヒューイを裏切る行為でもあるだろう?」
「はい」
「そうだとすると、ヒューイはザインを許さないだろう。逆に言えば、対価が金銭ならヒューイはザインを許すかも知れないと思ったんだ。しかし中途半端に情を残すのはリンジーにとって良くない」
「……」
ユーニスは目を見開いてケントを見る。
「ヒューイがザインとの友人関係をどうするかはわからないけれど、恋人としての情を残す事は望ましくない…どうした?ユーニス」
ケントは、じっと自分を見るユーニスの視線に気付く。
「…ケント殿下…本当にリンジーを好きなんですね…」
ヒューイ様がザイン様に情を残すのは「リンジーにとって良くない」のね。本当にケント殿下はいつでもリンジーの事を一番優先して考えてるんだわ。
「そうだな」
ケントが苦笑いしながら俯く。
あれ?私…何て口調で、何て不敬な事を言ったの!?
「すっすみません!いえ、申し訳ありません!」
「ああ…気にする事はない。畏まられるのは苦手なんだ」
慌てて頭を下げるユーニスに、ケントは微笑んだ。
「こういう時に感情のままに動く事もできない、王子など損な立場でしかないよ」
ケントは苦笑いしながら言う。
「殿下…」
本当はヒューイ様より、誰よりも先にリンジーを助けに行きたかったのに、立場がそれを許さないのね…こんな言い方、本当に本当に不敬で畏れ多いけど、何だか…かわいそう…
両脇を抱えられ、猿ぐつわをされた男が、目の前に立つザインを見る。
「貴方は…ケント殿下の謂わば弱点であるリンジーとヒューイに近付くため、或いはその動向を知るために、二人の友人である俺を利用したのか?」
「……」
ザインの言葉に苦笑いを浮かべる男。
ザインにはその笑みが肯定なのか否定なのかもわからなかった。
「ザイン様はあの人からもらった向精神薬でヒューイ様の気持ちを操っていたと…?」
ユーニスは眉を顰めて言った。
「正確には向精神薬ではなく、その薬が効いている時に考えた事や自分の発した言葉が自分自身に暗示を掛ける…という作用のある薬なんだ」
馬車の中で、ザインは膝に肘をつき、項垂れて話す。
「暗示?」
「本人の心の中に全くない方向へ誘導できる訳ではない」
「つまり、例えばその薬を使ったとしても、ヒューイ様に私を好きにならせるような事はできないって事?」
ユーニスは少し首を傾げて言った。
「ああ。ヒューイの心の中に少しでもユーニスへの好意があれば可能だが、好意が全くなければ不可能だ」
「なるほど…」
ザインの説明に、ユーニスは口元に手を当てて考える。
その薬で、ザイン様を好きだというヒューイ様の感情を増幅させていた、という事なのね。
ザイン様で心を占めさせて、リンジーへの気持ちを隅に追いやっていた、と。
「対価は何だ?」
暫く黙ってユーニスとザインの会話を聞いていたケントが言った。
「……」
ザインは目を泳がせるとまた俯く。
「そんな薬を無償提供しないだろう?」
ケント殿下がこういう聞き方をすると言う事は、単純にお金を払っていたとは考えていないという事ね。
そしてザイン様の様子を見ると、やっぱり対価はお金ではないんだわ。
ユーニスがそう思いながら二人を見ていると
ボンッ!
と図書室の方から鈍い音がした。
「何?」
ユーニスは窓から図書室を見るが、外観に特に変わった所は見られない。ザインも心配そうに窓の外を見ている。
「おそらくヒューイたちが屋根裏部屋へ突入したのだろう」
「そう…」
冷静な口調でケントが言うと、ユーニスはケントが落ち着いているならリンジーもヒューイも大丈夫なんだろうと少し息を吐いた。
しばらくすると、図書室の入り口から、四人の男性が出てきた。
諜報班の班長と、もう一人の男に両脇を抱えられた黒髪の男だ。そしてその後ろから騎士が一人、剣を黒髪の男の背中に向けている。
「!」
ザインがそれを見て馬車の扉を開けて、駆けるように出て行った。
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「ザインが気になる?」
馬車の窓から外を見ているユーニスに、ケントが声を掛ける。
「はい?」
ユーニスが振り向くとケントと目が合った。
「心配そうな顔をしている」
「そうですか?」
ユーニスは自分の表情を確かめるように頬に手を当てる。
「そう言えば、ケント殿下はザイン様があの人に薬の対価として何を渡したと思われているのですか?」
ユーニスの質問に、ケントは少し言い辛そうに
「…俗な言い方をすれば『身体で払う』かと」
と言った。
「か」
らだ。つまりザイン様とあの人が…
「それは恋人であるヒューイを裏切る行為でもあるだろう?」
「はい」
「そうだとすると、ヒューイはザインを許さないだろう。逆に言えば、対価が金銭ならヒューイはザインを許すかも知れないと思ったんだ。しかし中途半端に情を残すのはリンジーにとって良くない」
「……」
ユーニスは目を見開いてケントを見る。
「ヒューイがザインとの友人関係をどうするかはわからないけれど、恋人としての情を残す事は望ましくない…どうした?ユーニス」
ケントは、じっと自分を見るユーニスの視線に気付く。
「…ケント殿下…本当にリンジーを好きなんですね…」
ヒューイ様がザイン様に情を残すのは「リンジーにとって良くない」のね。本当にケント殿下はいつでもリンジーの事を一番優先して考えてるんだわ。
「そうだな」
ケントが苦笑いしながら俯く。
あれ?私…何て口調で、何て不敬な事を言ったの!?
「すっすみません!いえ、申し訳ありません!」
「ああ…気にする事はない。畏まられるのは苦手なんだ」
慌てて頭を下げるユーニスに、ケントは微笑んだ。
「こういう時に感情のままに動く事もできない、王子など損な立場でしかないよ」
ケントは苦笑いしながら言う。
「殿下…」
本当はヒューイ様より、誰よりも先にリンジーを助けに行きたかったのに、立場がそれを許さないのね…こんな言い方、本当に本当に不敬で畏れ多いけど、何だか…かわいそう…
両脇を抱えられ、猿ぐつわをされた男が、目の前に立つザインを見る。
「貴方は…ケント殿下の謂わば弱点であるリンジーとヒューイに近付くため、或いはその動向を知るために、二人の友人である俺を利用したのか?」
「……」
ザインの言葉に苦笑いを浮かべる男。
ザインにはその笑みが肯定なのか否定なのかもわからなかった。
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