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グラフトン家を訪れたリンジーは、家の前で馬車が着くのを待っているヒューイの姿を見て首を傾げた。
え?ヒューイ、私を迎えに出てるの?
馬車の扉が開くと、ヒューイが降りようとするリンジーへ手を差し出した。
「…どうしたの?」
訝し気なリンジーに「何がだ?」と言いながら、ヒューイはリンジーの手を握った。
「もしかして…私を出迎えに?」
「当たり前だろ」
「当たり前じゃないわ。むしろ初めてなんじゃ…?」
子供の頃はおばさまと一緒にお出迎え、とかもあったけど。
「そんな事は…」
そう言いながらヒューイは視線を上にあげて過去を思い出す。
「いや…まあ、初めて…かも知れないな」
迎えに出た例を思い出せなかったらしいヒューイは、馬車から降りたリンジーの手を握ったままで歩き出した。
エスコートと言うより、ただ手を繋いで歩いてるみたい。
どうしよう。妙に緊張する。
リンジーがチラッとヒューイを見ると、ヒューイは神妙な顔をしていた。
「あの…手、離して良いのよ…?」
神妙な顔が、何となく手を繋ぐのを嫌がっているように感じてリンジーがそう言うと、ヒューイは目を見開いてリンジーを見る。
「…離して欲しいのか?」
「え?ヒューイが無理してるんじゃないかと思って…」
「無理していない。離して欲しい訳ではないのか?」
「……まあ…別に…」
離して欲しい訳じゃ…ないけど、離して欲しくないって言うのも恥ずかしい。
「じゃあこのままだ」
そう言って、改めてぎゅっとリンジーの手を握ると、ヒューイは前を向いて階段を登り始めた。
一段遅れて階段を登るため、リンジーが視線を上げると、ヒューイの少し赤くなった耳が視界に入る。
…え?
もしかして、ヒューイが、ほんの少しだけど赤くなってる?
「ドレス、考えて来たか?」
階段を登り切ると、ヒューイは廊下を歩きながらリンジーに言った。
「舞踏会の時のドレスをアレンジすれば充分だと思うんだけど」
視線だけで横を歩くヒューイを見上げる。
表情は普通ね。でもやっぱり耳だけ少し赤い気がするけど…気のせい?
「それは駄目だ」
前にもグラフトン公爵家の婚約者として相応しい装いをって言われたものね。使い回しはやっぱり駄目か…
それとも、あのドレスはヒューイに返したから、もう手元にないとかかな?
「一応考えてみたけど、舞踏会のとそんなに変わらないの」
ヒューイの部屋へ入り、ソファに座ると、リンジーは小さなバッグから折り畳んだ紙を取り出した。
リンジーの隣にヒューイが座る。
今まで二人だけの時は、ヒューイは隣じゃなく向かい側に座ってたけど…隣に、座るんだ。
何となく座りが悪い気持ちで、リンジーはヒューイに紙を渡した。
「やっぱりリンジーが考えると修道服になるんだな」
紙を見て、笑いを堪えながら言うヒューイ。
「シンプルを追求するとそこに行き着くのよ」
リンジーが拗ねたように唇を尖らせて言うと、ヒューイはますますクスクスと笑う。
「俺も仕立屋に型録をもらっていくつか選んだんだが、見るか?」
ヒューイは立ち上がると、壁際のライティングデスクへ行き引き出しを開けた。
「ヒューイが?選んだの?」
「ああ」
年配の侍女が部屋に入って来て、お茶とお菓子をテーブルに並べる始める。
「え?これフリル多すぎない?これはリボンが大きすぎるし、こっちはレースが豪華すぎる」
仕立屋にもらったというドレスのデザイン画を何枚か見て声を上げるリンジー。
一言でいえば、かわいい。胸元のフリル、肩のリボン、シフォンレースのスカート。どれもドレスとしてはとってもかわいい。
でも自分が着るとなると……無理だわ。
「好みじゃないか?」
ヒューイは首を傾げた。
「自分以外の女性が着るなら好き。でも自分が着るのは無理」
「そういう物か」
折角ヒューイが考えてくれたけど、こういうドレスが好きな女性がヒューイの好みなら、やっぱり「私」を好きな訳じゃないんじゃないの?
侍女がお茶を淹れてリンジーとヒューイの前に置くと、部屋を出て行く。
「似合うと思うが…」
ヒューイはデザイン画を見ながら顎に手を当てて呟いた。
「誰に?」
「リンジーに」
「……絶対!似合わない、と思う」
「そうか?」
顎に手を当てたまま、リンジーを見て首を傾げる。
もしかして、本気でこの地味な私にこんなかわいいドレスが似合うと思って…る?
リンジーはテーブルの上の紅茶のカップに手を伸ばすと、一口飲む。
「…ヒューイ、もしかして目が悪いの?」
紅茶のカップを持ったまま、ヒューイを横目で見ると、ヒューイも紅茶のカップを手に取った。
「いや?」
「……」
リンジーは紅茶をまたゴクリと飲む。
うーん、目が悪くないなら、認知力の問題かしら?ドレスがかわいいのと、それが私に似合うかどうかの認知が歪んでるとか。
とりあえず、もっとシンプルなドレスにどうにか誘導しなくては……
……喉が、熱い?
リンジーの手からカップが離れ、膝の上に落ちた。
グラフトン家を訪れたリンジーは、家の前で馬車が着くのを待っているヒューイの姿を見て首を傾げた。
え?ヒューイ、私を迎えに出てるの?
馬車の扉が開くと、ヒューイが降りようとするリンジーへ手を差し出した。
「…どうしたの?」
訝し気なリンジーに「何がだ?」と言いながら、ヒューイはリンジーの手を握った。
「もしかして…私を出迎えに?」
「当たり前だろ」
「当たり前じゃないわ。むしろ初めてなんじゃ…?」
子供の頃はおばさまと一緒にお出迎え、とかもあったけど。
「そんな事は…」
そう言いながらヒューイは視線を上にあげて過去を思い出す。
「いや…まあ、初めて…かも知れないな」
迎えに出た例を思い出せなかったらしいヒューイは、馬車から降りたリンジーの手を握ったままで歩き出した。
エスコートと言うより、ただ手を繋いで歩いてるみたい。
どうしよう。妙に緊張する。
リンジーがチラッとヒューイを見ると、ヒューイは神妙な顔をしていた。
「あの…手、離して良いのよ…?」
神妙な顔が、何となく手を繋ぐのを嫌がっているように感じてリンジーがそう言うと、ヒューイは目を見開いてリンジーを見る。
「…離して欲しいのか?」
「え?ヒューイが無理してるんじゃないかと思って…」
「無理していない。離して欲しい訳ではないのか?」
「……まあ…別に…」
離して欲しい訳じゃ…ないけど、離して欲しくないって言うのも恥ずかしい。
「じゃあこのままだ」
そう言って、改めてぎゅっとリンジーの手を握ると、ヒューイは前を向いて階段を登り始めた。
一段遅れて階段を登るため、リンジーが視線を上げると、ヒューイの少し赤くなった耳が視界に入る。
…え?
もしかして、ヒューイが、ほんの少しだけど赤くなってる?
「ドレス、考えて来たか?」
階段を登り切ると、ヒューイは廊下を歩きながらリンジーに言った。
「舞踏会の時のドレスをアレンジすれば充分だと思うんだけど」
視線だけで横を歩くヒューイを見上げる。
表情は普通ね。でもやっぱり耳だけ少し赤い気がするけど…気のせい?
「それは駄目だ」
前にもグラフトン公爵家の婚約者として相応しい装いをって言われたものね。使い回しはやっぱり駄目か…
それとも、あのドレスはヒューイに返したから、もう手元にないとかかな?
「一応考えてみたけど、舞踏会のとそんなに変わらないの」
ヒューイの部屋へ入り、ソファに座ると、リンジーは小さなバッグから折り畳んだ紙を取り出した。
リンジーの隣にヒューイが座る。
今まで二人だけの時は、ヒューイは隣じゃなく向かい側に座ってたけど…隣に、座るんだ。
何となく座りが悪い気持ちで、リンジーはヒューイに紙を渡した。
「やっぱりリンジーが考えると修道服になるんだな」
紙を見て、笑いを堪えながら言うヒューイ。
「シンプルを追求するとそこに行き着くのよ」
リンジーが拗ねたように唇を尖らせて言うと、ヒューイはますますクスクスと笑う。
「俺も仕立屋に型録をもらっていくつか選んだんだが、見るか?」
ヒューイは立ち上がると、壁際のライティングデスクへ行き引き出しを開けた。
「ヒューイが?選んだの?」
「ああ」
年配の侍女が部屋に入って来て、お茶とお菓子をテーブルに並べる始める。
「え?これフリル多すぎない?これはリボンが大きすぎるし、こっちはレースが豪華すぎる」
仕立屋にもらったというドレスのデザイン画を何枚か見て声を上げるリンジー。
一言でいえば、かわいい。胸元のフリル、肩のリボン、シフォンレースのスカート。どれもドレスとしてはとってもかわいい。
でも自分が着るとなると……無理だわ。
「好みじゃないか?」
ヒューイは首を傾げた。
「自分以外の女性が着るなら好き。でも自分が着るのは無理」
「そういう物か」
折角ヒューイが考えてくれたけど、こういうドレスが好きな女性がヒューイの好みなら、やっぱり「私」を好きな訳じゃないんじゃないの?
侍女がお茶を淹れてリンジーとヒューイの前に置くと、部屋を出て行く。
「似合うと思うが…」
ヒューイはデザイン画を見ながら顎に手を当てて呟いた。
「誰に?」
「リンジーに」
「……絶対!似合わない、と思う」
「そうか?」
顎に手を当てたまま、リンジーを見て首を傾げる。
もしかして、本気でこの地味な私にこんなかわいいドレスが似合うと思って…る?
リンジーはテーブルの上の紅茶のカップに手を伸ばすと、一口飲む。
「…ヒューイ、もしかして目が悪いの?」
紅茶のカップを持ったまま、ヒューイを横目で見ると、ヒューイも紅茶のカップを手に取った。
「いや?」
「……」
リンジーは紅茶をまたゴクリと飲む。
うーん、目が悪くないなら、認知力の問題かしら?ドレスがかわいいのと、それが私に似合うかどうかの認知が歪んでるとか。
とりあえず、もっとシンプルなドレスにどうにか誘導しなくては……
……喉が、熱い?
リンジーの手からカップが離れ、膝の上に落ちた。
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