幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

文字の大きさ
60 / 84

59

しおりを挟む
59

 喉が乾く。
「…みず……」

「リン、目が覚めたか?」
 目を開けると、ヒューイの顔が見えた。
「…ヒューイ?」
 喋ると喉がチリチリと痛む。
「喉が軽く火傷をしたような状態なんだ。あまり喋らない方が良い。水だな?」
 あ、そうか。ヒューイの部屋で紅茶を飲んで…
 つまり、何か、紅茶に入ってたのね。
「ヒューイ…は…」
「ん?」
 ヒューイはベッドの側に置いた椅子から立ち上がると、サイドテーブルの水差しからコップに水を注いで、リンジーの手に持たせ、サイドテーブルの上に置いてあったメモ用紙とペンを手に取った。
 こくんと水を飲むと、ピリピリとした痛みが走る。
「痛いのか?」
 心配そうなヒューイに、リンジーは首を横に振った。

 メモ用紙とペンを渡されたので、そこに文字を書きながら、こんな短期間に二回も筆談が必要になるなんてね。とリンジーは思う。
【ヒューイは紅茶飲まなかったの?】
「ああ。俺は飲んでいない」
 そっか。良かった。
「リン、ごめんな」
「?」
【何?】
「命に関わるような物ではなかったとは言え、リンに毒を盛るような者がいる我が家ところにリンを置いておけなかった。奸物に心当たりはあるんだ。俺がきちんと対処するからリンは心配するな」
 そういえば、ここ、私の部屋だわ。
【心当たりって】
 リンジーは小さく息を飲んで続きを書く。
【ヒューイの愛人?】
「なっ!?」
 椅子から立ち上がるヒューイ。
 ああ、やっぱりそうなのね。
「リン、あの侍女を知っているのか?いや、その前に愛人とは何だ?」
「…んー」
 リンジーは慌てるヒューイを見ながら唸る。
 あの侍女に結婚してからも愛人としてヒューイに侍るのを認めろって言われた。って書くの長いわね。
【愛人だって言ってた】
「違う!あの女はそういう相手ではないんだ」
 そういう相手ではないって…でも関係なのには間違いないのよね?
 って書くのも長いし、何より、あんなにかわいい人とそういう関係な事、ヒューイの口からは聞きたくないな…
「……」
 俯くリンジーの両肩をヒューイが掴む。
「リン、俺が好きなのはリンだ。あの女はとうに俺の傍から遠ざけているし、今後関わりを持つつもりもない。クソッ!あの女…やはりもっと早くに辞めさせておくべきだった」
 本当に?
 あの侍女の人の言い方だと現在進行形だったけど、多分今ヒューイは私に嘘は吐かないんじゃないかと思うし…

【お兄さんに薬をもらったのかな?】
 少し話題を逸らすためにリンジーがそう書くと、ヒューイは眉を顰めた。
「兄?」
「?」
 あれ?
【側近兼司書の人の妹】
「は…?」
 心底意外そうな顔だわ。ヒューイはあの二人が兄妹だと知らなかったのね。
「…あの女があの男の妹?」
「ん」
 リンジーが頷くと、ヒューイは顎に手を当てて考え込む。

【妹にザインを紹介されたって言ってた】
 ヒューイはリンジーがそう書いた紙を見て眉を顰めた。
「…あの女があの男にザインを紹介したのか」
「ん」
「あの男が第二王子派だから、ケントの友人であるザインに?」
「…ん」
 それもあるけど、あの人も同性が恋愛対象みたいだし、黒髪がヒューイに似ていたから、ザインがヒューイにのめり込み過ぎないように…とか、あわよくばザインがお兄さんに乗り換えれば…とか考えてたんじゃないかしら?
 それとも、ザインがヒューイを繋ぎ止めるのにお兄さんが協力するのを見越して?
 もしかして、最初からお兄さんへザインに協力するように頼んであったのかも知れないわ。あの侍女ひと「ザイン様はいいんです。男性同士なら子供もできないし、結婚もできないし」って言ってたし、ヒューイがザインと付き合っていた方が都合が良かったのかも知れない。
「ザインはあの二人が兄妹だと知っていたんだろうか?」
 紹介された時聞いていてもおかしくないけど、どうだろう?
 わからない、という風に首を傾げるリンジー。

「…ザインは…俺に飲ませる薬の見返りとしてあの男に身体を差し出していたんだ」
 少し俯いてヒューイが言う。
「え?」
 思わず声が出て、ヒューイは驚いた顔のリンジーに微笑んだ。
「あの男からリンを助け出した後、まだリンの目が覚めない間に泣きながらそう話してくれた。ザインが俺の事を本当に恋慕っていた事は疑わないが…やはり裏切られた思いがある」
 それは…無理もないけど…

「そのせいか、薬の効果が切れたせいかわからないが、今はザインに対して以前のような恋情は沸かない」
「……」
「リン」
 ヒューイが真っ直ぐにリンジーを見た。
 ドキンッ。
「…な…に?」
「俺は例えばリンが婚約解消したいと言って、他の誰かと結婚したとしても、俺が他の誰かと結婚したとしても、俺はずっとリンが好きだ」
 だからそれは刷り込みでしょう?
 そう、紙に書こうとしたが、リンジーの手は動かなかった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。

【完結】お嬢様だけがそれを知らない

春風由実
恋愛
公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者でもあるお嬢様には秘密があった。 しかしそれはあっという間に公然の秘密となっていて? それを知らないお嬢様は、日々あれこれと悩んでいる模様。 「この子たちと離れるくらいなら。いっそこの子たちを連れて国外に逃げ──」 王太子殿下、サプライズとか言っている場合ではなくなりました! 今すぐ、対応してください!今すぐです! ※ゆるゆると不定期更新予定です。 ※2022.2.22のスペシャルな猫の日にどうしても投稿したかっただけ。 ※カクヨムにも投稿しています。 世界中の猫が幸せでありますように。 にゃん。にゃんにゃん。にゃん。にゃんにゃん。にゃ~。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

先生

藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。 町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。 ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。 だけど薫は恋愛初心者。 どうすればいいのかわからなくて…… ※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...