幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

文字の大きさ
66 / 84

65

しおりを挟む
65

 あ、これ、型録でヒューイが選んだドレスに似てるわ。
 卒業パーティーの日、グラフトン家の侍女が寮へと持って来たドレスを見て、リンジーはあんぐりと口を開けた。

 型録で見たデザインよりシンプルな、スカートに重ねたシフォンレースが美しいドレス。
 デザインも好みだし、レースがとっても綺麗だわ。綺麗だけど…
「何でピンク…?」
 桃色の生地に薄桃色のレース。
「お色はヒューイ様が指定されていましたよ?」
 リンジーにドレスを着せながら侍女が言う。
 ヒューイの十二歳の誕生日以来リンジーがピンクを避け始めた事をヒューイが知ったのはついこの間。ドレスを発注した時にはまだ知らなかった筈だ。
 それなのにピンクのドレスを作るなんて、ヒューイ何考えてるんだろう?
 本当にこういうドレスが私に似合うと思っているのか、それともやっぱりこういうドレスが似合う女性ひとが好みなのか…
 ううん。もうそういう事は考えないって決めたじゃない。
 リンジーは首を横にぶんぶんと振った。
「リンジー様?」
 侍女が不思議そうに鏡越しのリンジーを見る。
「あ、ちょっと頭をスッキリさせようと思って」
 グラフトン家のお仕着せを見て、あの侍女の事を思い出した。

 あの兄とあの妹の父である子爵は貿易に携わる第二王子派で、ケントの側近に兄を、ケントの第二の家族であるグラフトン公爵家に妹を、それぞれ偵察も兼ねて送り込んでいた。
 とは言え、父子爵は穏健派で、第二王子に王位を簒奪させるような謀計をめぐらせる事はなく、兄がケントの側近として勤める内にケントを王位に就かせたいと希うようになったのだ。
 第二王子派の家の者がケントの側近となっている以上、通常ならその同じ家の者をグラフトン公爵家が雇う筈がない。第二王子が特定の第二王子派の家と接近しすぎるのは望まれる事ではないからだ。
 妹がグラフトン公爵家に雇われたのは、妹が子爵の庶子であり、子爵家の籍に入っていなかったからに他ならない。
 妹がグラフトン公爵家に雇われた当時、ヒューイは十歳、妹は十八歳、子供と大人の年齢ではあったが、妹はヒューイに恋をしてしまった。
 子爵家の令嬢であっても公爵家に嫁ぐのはほぼ無理だ。それでもヒューイ当人が強く望めば第二夫人にはなれたかも知れない。しかし子爵家の籍に入っていない自分にはそれすらも望めない。
 愛人として側に置いてもらうしかない。それでも愛されていれば充分だ。
 妹はそう考えたが、邪魔な存在がいた。
 リンジーだ。

 リンジーの家、オルディス伯爵家もグラフトン公爵家には釣り合わない家格だが、何しろヒューイにとってリンジーは「特別」なのだ。ヒューイ当人が望み、リンジーはいずれ公爵夫人になるだろう。そうなればヒューイは第二夫人も愛人も持たない。何とかしてリンジーをヒューイから引き離さなければ。
 ヒューイがリンジーへの想いとは違う気持ちでザインに惹かれているのを察知すると、ザインと、ヒューイを焚き付けた。
 ザインなら、結婚する事はできない。ザインと「恋愛」をしている間にヒューイが他の令嬢と偽装結婚する事を決めるか、リンジーが他の令息と婚約してしまえば良い。
 そしてヒューイとザインがケントの元を訪れた時にザインを見て気に入っていた兄が、ザインがヒューイを繋ぎ止める助けになる事を期待し、兄にザインを引き合わせる。
 ザインには兄は同性愛者なので相談をすれば良いと言い、兄には第二王子派としてケントの友人であるヒューイ、想い人であるリンジーの動向を探るため、とザインと親密になるメリットを説いたのだった。

「出来ましたよ。リンジー様」
 侍女に声を掛けられて、リンジーはハッとして鏡を見る。
 髪も化粧も整えられて、ピンクの石のネックレスとピアス、同じくピンクのドレスを纏った自分をしげしげと眺めた。
「…悪くは、ない?のかしら?」
 小声で呟く。
 想像していた程、浮いてはいない…ような気がする。侍女の腕が良かったから?
「とてもお似合いですわ」
 侍女がニッコリと微笑んで言った。
「ありがとう」
 少し照れながらリンジーがお礼を言った時、部屋のドアがノックされる。

「リン、綺麗だ」
 部屋に入って来たヒューイがドレス姿のリンジーを見て笑顔で言った。
「ドレスがね」
 恥ずかしくて俯いて言うリンジー。
 ああ、また素直じゃない事言っちゃったわ。さっき侍女に言ったみたいに「ありがとう」で良かったのに。
「ドレスも、リンもだ」
 笑って言うヒューイを上目遣いで見た。
 黒髪を後ろに流し、リンジーのドレスと同じピンクのシフォンレースのクラバット、ピンクのポケットチーフを差し色にした黒の夜会服姿のヒューイ。
 悔しいけど、正に「黒の貴公子」だわ。
 直視できないくらい格好良い…
「ん?」
 ヒューイが俯いたリンジーの顔を覗き込む。
「…ありがと」
 頬を赤くして今にも消えそうな声でリンジーが言うと、ヒューイは満足そうに笑って頷いた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...