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リンジーとヒューイが卒業パーティーの会場である講堂へ入ると周囲から感嘆の声が漏れた。
ヒューイ、格好良いもん。わかるわ。
私は、それに引き換え…ってまた言われてるんだろうな。
「リンジー」
薄い黄色のドレス姿のユーニスが、リンジーの元へ駆け寄って来る。
「ユーニス」
「そのドレスすっごく似合ってるわ」
「ありがとう。ユーニスもとっても素敵」
「ふふ。ありがと」
ダンスが始まったらまた誘いに来ると言ってヒューイはリンジーとユーニスから離れて、ザインとケントの所へ行った。
「どう?今日の目的は果たせそう?」
ユーニスがリンジーに言う。
「…いざとなるとなかなか難しいけど、がんばるわ」
拳を握って言うリンジー。
「うん。がんばってね、リンジー」
-----
「ユーニス、俺と踊ってくれないか?」
「ユーニス、俺と踊ってください」
壁際のベンチに座っているユーニスの前に二本の手が差し出された。
「え?」
二本の手の主、ケントとザインが顔を見合わせる。
「あ、あの、では一瞬早かったので先にケント殿下と」
ユーニスはケントの手の平の上に指先を置くと、立ち上がった。
「悪いなザイン」
ユーニスの手を握りにっこりと笑うケント。
「いえ。じゃあユーニス、次は俺とね」
ザインもユーニスに笑顔を向けた。
何でこの二人に私がダンスを申し込まれてるんだろう?ケント殿下もザイン様も、踊りたい女子生徒が列なして待ってるのに。
ケントに手を引かれてフロアに出ながら、ユーニスは周りを見回すと、案の定複数の女生徒がユーニスに鋭い視線を送っていた。
「リンジーに振られたよ」
ダンスが始まると、ケントが言う。
「…ええ…と」
リンジーから聞いて知ってます。って言っても良いもの?何も知らない振りの方が良いのかしら?
「聞いてるんだな。まあそれはそうか」
苦笑いを浮かべるケント。
「『失恋』とは苦しく、辛いものなのだな。俺にはその気持ちを話せる相手がいなくてな…」
「あ…」
そうよね。リンジーに失恋した苦しいお気持ちは側近や侍従に迂闊に話せはしないし、友人であるヒューイ様やザイン様は当事者でもあるから言えないし…だから私に聞いて欲しかったのね。
確かにダンス中なら他の人に何を話しているか聞かれる心配はないもの。
「この苦しい気持ちを一人で耐えるのがまた苦しくて。ユーニスなら色々事情にも詳しいし…少し聞いてもらえないだろうか?」
「はい。いくらでも」
リンジーに刷り込みだと自分の気持ちを否定された事、リンジーが自分を選ぶ事はないと知りながらも言わずにいられなかった事、ヒューイへの親愛の情と嫉妬。
少しずつポツポツとケントは話し、ユーニスは頷きながらも黙って聞いた。
「言葉として吐き出すだけでも楽になるものだな」
ふっと息を吐くケント。
「良かったです」
「ユーニスは、こういう経験があるのか?」
「失恋ですか?」
「ああ。いや、すまん。個人的な事柄に踏み込んだな」
「いえ。かまいません。でも私の場合は、失恋と言っても幼い頃の初恋のお兄さんが結婚してしまった時くらいしかないのですが…」
「初恋のお兄さん?」
ケントは興味深そうに片眉を上げた。
「ええ。本当に幼い頃で…五歳くらいですかね。我が家の庭師のお兄さんにとても懐いていたんですけど、その人が結婚した時に、小さいながらも大泣きしましたね」
「泣いたのか」
「ええもう『いやだ~』ってワンワンと」
「ははは。微笑ましいな」
笑っているケントをユーニスは見上げる。
「殿下も、泣きましたか?」
「……」
じっとケントを見上げるユーニスにケントは無言で少し口角を上げた。
肯定も否定もしない、穏やかな紫の瞳。
やっぱりいくら王子でも失恋したら泣きたくなるわよね。
「もしも、また泣きたくなって、一人では淋しく思われたら呼んでください。何もできませんが、傍に居る事はできます」
ユーニスは言う。
「…傍に?」
思いも寄らぬ事を言われて少し戸惑いながらケントはユーニスを見た。
「王宮は無理ですけど、寮なら忍び込みますよ」
悪戯っぽく笑って言うユーニスに、ケントの胸が暖かくなる。
「ありがとう。ユーニス」
リンジーとヒューイが卒業パーティーの会場である講堂へ入ると周囲から感嘆の声が漏れた。
ヒューイ、格好良いもん。わかるわ。
私は、それに引き換え…ってまた言われてるんだろうな。
「リンジー」
薄い黄色のドレス姿のユーニスが、リンジーの元へ駆け寄って来る。
「ユーニス」
「そのドレスすっごく似合ってるわ」
「ありがとう。ユーニスもとっても素敵」
「ふふ。ありがと」
ダンスが始まったらまた誘いに来ると言ってヒューイはリンジーとユーニスから離れて、ザインとケントの所へ行った。
「どう?今日の目的は果たせそう?」
ユーニスがリンジーに言う。
「…いざとなるとなかなか難しいけど、がんばるわ」
拳を握って言うリンジー。
「うん。がんばってね、リンジー」
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「ユーニス、俺と踊ってくれないか?」
「ユーニス、俺と踊ってください」
壁際のベンチに座っているユーニスの前に二本の手が差し出された。
「え?」
二本の手の主、ケントとザインが顔を見合わせる。
「あ、あの、では一瞬早かったので先にケント殿下と」
ユーニスはケントの手の平の上に指先を置くと、立ち上がった。
「悪いなザイン」
ユーニスの手を握りにっこりと笑うケント。
「いえ。じゃあユーニス、次は俺とね」
ザインもユーニスに笑顔を向けた。
何でこの二人に私がダンスを申し込まれてるんだろう?ケント殿下もザイン様も、踊りたい女子生徒が列なして待ってるのに。
ケントに手を引かれてフロアに出ながら、ユーニスは周りを見回すと、案の定複数の女生徒がユーニスに鋭い視線を送っていた。
「リンジーに振られたよ」
ダンスが始まると、ケントが言う。
「…ええ…と」
リンジーから聞いて知ってます。って言っても良いもの?何も知らない振りの方が良いのかしら?
「聞いてるんだな。まあそれはそうか」
苦笑いを浮かべるケント。
「『失恋』とは苦しく、辛いものなのだな。俺にはその気持ちを話せる相手がいなくてな…」
「あ…」
そうよね。リンジーに失恋した苦しいお気持ちは側近や侍従に迂闊に話せはしないし、友人であるヒューイ様やザイン様は当事者でもあるから言えないし…だから私に聞いて欲しかったのね。
確かにダンス中なら他の人に何を話しているか聞かれる心配はないもの。
「この苦しい気持ちを一人で耐えるのがまた苦しくて。ユーニスなら色々事情にも詳しいし…少し聞いてもらえないだろうか?」
「はい。いくらでも」
リンジーに刷り込みだと自分の気持ちを否定された事、リンジーが自分を選ぶ事はないと知りながらも言わずにいられなかった事、ヒューイへの親愛の情と嫉妬。
少しずつポツポツとケントは話し、ユーニスは頷きながらも黙って聞いた。
「言葉として吐き出すだけでも楽になるものだな」
ふっと息を吐くケント。
「良かったです」
「ユーニスは、こういう経験があるのか?」
「失恋ですか?」
「ああ。いや、すまん。個人的な事柄に踏み込んだな」
「いえ。かまいません。でも私の場合は、失恋と言っても幼い頃の初恋のお兄さんが結婚してしまった時くらいしかないのですが…」
「初恋のお兄さん?」
ケントは興味深そうに片眉を上げた。
「ええ。本当に幼い頃で…五歳くらいですかね。我が家の庭師のお兄さんにとても懐いていたんですけど、その人が結婚した時に、小さいながらも大泣きしましたね」
「泣いたのか」
「ええもう『いやだ~』ってワンワンと」
「ははは。微笑ましいな」
笑っているケントをユーニスは見上げる。
「殿下も、泣きましたか?」
「……」
じっとケントを見上げるユーニスにケントは無言で少し口角を上げた。
肯定も否定もしない、穏やかな紫の瞳。
やっぱりいくら王子でも失恋したら泣きたくなるわよね。
「もしも、また泣きたくなって、一人では淋しく思われたら呼んでください。何もできませんが、傍に居る事はできます」
ユーニスは言う。
「…傍に?」
思いも寄らぬ事を言われて少し戸惑いながらケントはユーニスを見た。
「王宮は無理ですけど、寮なら忍び込みますよ」
悪戯っぽく笑って言うユーニスに、ケントの胸が暖かくなる。
「ありがとう。ユーニス」
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