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春期休暇中に王宮に赴いたリンジーとヒューイは、ケントの私室でケントと相対していた。
「と、言う訳で、今度こそ名実共にリンと婚約する」
ヒューイがそう言うと、ケントは少し微笑んでリンジーを見る。
「そうか。リンジー、恋愛と情については折り合いがついたのか?」
ヒューイの隣に座ったリンジーはコクンと頷いた。
「私ね、もしもいつか刷り込みが恋愛じゃなかったと気付いたら、後悔すると思ってた」
「ああ。そう言っていたな」
「…今でも後悔すると思ってるんだけど、じゃあ逆に刷り込みは恋愛じゃないって決め付けて別の相手と結婚したとしたら、それはそれでいつか後悔するんだと気付いたの」
「そうだな」
ケントが頷く。
「俺は、将来誰と出逢おうともリンと結婚した事を後悔したりしないんだが」
ヒューイがリンジーの方を見ながら言うと、リンジーは唇を少し尖らせた。
「でも先の事はわからないわ」
「いや。俺はザインを好きになったが、それはリンに対する気持ちとは似て非なる物だ。あの気持ちが恋愛感情ならば、それがリンを好きな気持ちを上回る事はないと断言できる」
キッパリと言うヒューイに、ケントは訝し気な視線を向ける。
「断言できるのか?」
「ああ」
「もしも…ザインにそっくりな人が現れたら…?」
頷くヒューイを見ながら唇を尖らせるリンジーの少し不安そうな瞳に、ヒューイは破顔する。
リンジーの肩を抱くとチュッと頬に口付けた。
「なっ!ヒューイ!」
リンジーは赤くなった頬を手で押さえる。
「確かにザインの見た目は俺の好みにかなり合致しているが、決して見た目だけを好きになった訳ではない。だから大丈夫だ」
「そ、そう…」
ニッコリと笑って言うヒューイに、リンジーは赤くなったままボソボソと言う。
ケントの前で頬とは言えキスするのは…ヒューイったら、ちょっと無神経じゃない?
「リンジー、ヒューイはわざと見せているんだ」
ケントが苦笑いしながら言う。
「わざと?」
「そう。リンと婚約して、いずれ結婚してもケントとの縁は切れないんだから、慣れてもらわないとな」
ヒューイが当たり前のように言うと、ケントも苦笑いしながら頷いた。
「慣れる…って、でも何も今じゃなくて良かったんじゃないの?」
所謂「両想い」になってから、ケントに会うの今日が初めてなのに。
「ケントとは、そんな気を遣わなくてはならないような仲になりたくないんだ」
「それは、そうかも知れないけど」
「上手く言い訳をしているが、ヒューイは自分のやりたいようにやっているだけだろう?」
呆れたようにケントが言う。
「その通りだな」
ヒューイはニヤリと笑った。
「俺は大丈夫だからリンジーは気を遣わなくて良いよ」
「ケント…」
「本当に何だか吹っ切れたような表情をしているな。何かあったのか?」
ヒューイがそう言うと、ケントは顎に手を当てて考える。
「そうだな…」
卒業パーティーでのユーニスの言葉を思い出す。
「もしも、また泣きたくなって、一人では淋しく思われたら呼んでください。何もできませんが、傍に居る事はできます」
そう言ってくれる人が居て、何だか静かな心境になったのは確かだ。
先程、ヒューイがリンジーの頬にキスをした場面を思い出す。
チリッと指先が痺れる感覚。
表には出せない嫉妬。
それでも、ユーニスにあの言葉をもらう前よりは随分と軽くなった。
「そういえば、ザインにキスをされていたな…」
呟くように言うと、リンジーが
「あ、ユーニスでしょ?ケントは見てたの?」
と少し身を乗り出して言った。
「ああ」
「私は講堂の外に出ていたから見てないんだけど、その後ユーニス、ザインのファンの女生徒たちに囲まれちゃって、どうにかこうにか逃げたって言ってたわ」
「そうか」
「…ザイン、この間ヒューイに会いに来て『ユーニスと結婚したい』って言ったんだって」
リンジーが隣のヒューイを横目で見ながら言うと、ヒューイは無言で頷いた。
「結婚?」
「ああ。ユーニスとなら結婚できそうな気がする、と」
ヒューイが言う。
「それを何故ヒューイに言うんだ?」
ヒューイにそう話す事で、嫉妬をさせようとか、結婚を止めさせようとかか?
いや、ザインも今更そんな事はしないだろうとは思うが。
「相談、だな。元恋人としてではなく、友人として。ユーニスはリンジーの友人だしあの二人が見合いをするよう仕向けたのは俺だしな」
「そうか」
ヒューイの表情にもリンジーの表情にもザインへのわだかまりは見えない。
ヒューイとザインが友人として付き合っていけるのなら、そしてそれをリンジーが気にしないなら、それはそれで良いが。
「では、ユーニスはザインと婚約するのか…」
もちろん本当に呼ぶつもりはなかったが、婚約者がいるなら尚更淋しいから来てくれなどとは言えないな…
ケントがそう思っていると、リンジーが首を振って言った。
「ううん。それが、婚約するかどうか結論が出るのは三か月後なのよ」
春期休暇中に王宮に赴いたリンジーとヒューイは、ケントの私室でケントと相対していた。
「と、言う訳で、今度こそ名実共にリンと婚約する」
ヒューイがそう言うと、ケントは少し微笑んでリンジーを見る。
「そうか。リンジー、恋愛と情については折り合いがついたのか?」
ヒューイの隣に座ったリンジーはコクンと頷いた。
「私ね、もしもいつか刷り込みが恋愛じゃなかったと気付いたら、後悔すると思ってた」
「ああ。そう言っていたな」
「…今でも後悔すると思ってるんだけど、じゃあ逆に刷り込みは恋愛じゃないって決め付けて別の相手と結婚したとしたら、それはそれでいつか後悔するんだと気付いたの」
「そうだな」
ケントが頷く。
「俺は、将来誰と出逢おうともリンと結婚した事を後悔したりしないんだが」
ヒューイがリンジーの方を見ながら言うと、リンジーは唇を少し尖らせた。
「でも先の事はわからないわ」
「いや。俺はザインを好きになったが、それはリンに対する気持ちとは似て非なる物だ。あの気持ちが恋愛感情ならば、それがリンを好きな気持ちを上回る事はないと断言できる」
キッパリと言うヒューイに、ケントは訝し気な視線を向ける。
「断言できるのか?」
「ああ」
「もしも…ザインにそっくりな人が現れたら…?」
頷くヒューイを見ながら唇を尖らせるリンジーの少し不安そうな瞳に、ヒューイは破顔する。
リンジーの肩を抱くとチュッと頬に口付けた。
「なっ!ヒューイ!」
リンジーは赤くなった頬を手で押さえる。
「確かにザインの見た目は俺の好みにかなり合致しているが、決して見た目だけを好きになった訳ではない。だから大丈夫だ」
「そ、そう…」
ニッコリと笑って言うヒューイに、リンジーは赤くなったままボソボソと言う。
ケントの前で頬とは言えキスするのは…ヒューイったら、ちょっと無神経じゃない?
「リンジー、ヒューイはわざと見せているんだ」
ケントが苦笑いしながら言う。
「わざと?」
「そう。リンと婚約して、いずれ結婚してもケントとの縁は切れないんだから、慣れてもらわないとな」
ヒューイが当たり前のように言うと、ケントも苦笑いしながら頷いた。
「慣れる…って、でも何も今じゃなくて良かったんじゃないの?」
所謂「両想い」になってから、ケントに会うの今日が初めてなのに。
「ケントとは、そんな気を遣わなくてはならないような仲になりたくないんだ」
「それは、そうかも知れないけど」
「上手く言い訳をしているが、ヒューイは自分のやりたいようにやっているだけだろう?」
呆れたようにケントが言う。
「その通りだな」
ヒューイはニヤリと笑った。
「俺は大丈夫だからリンジーは気を遣わなくて良いよ」
「ケント…」
「本当に何だか吹っ切れたような表情をしているな。何かあったのか?」
ヒューイがそう言うと、ケントは顎に手を当てて考える。
「そうだな…」
卒業パーティーでのユーニスの言葉を思い出す。
「もしも、また泣きたくなって、一人では淋しく思われたら呼んでください。何もできませんが、傍に居る事はできます」
そう言ってくれる人が居て、何だか静かな心境になったのは確かだ。
先程、ヒューイがリンジーの頬にキスをした場面を思い出す。
チリッと指先が痺れる感覚。
表には出せない嫉妬。
それでも、ユーニスにあの言葉をもらう前よりは随分と軽くなった。
「そういえば、ザインにキスをされていたな…」
呟くように言うと、リンジーが
「あ、ユーニスでしょ?ケントは見てたの?」
と少し身を乗り出して言った。
「ああ」
「私は講堂の外に出ていたから見てないんだけど、その後ユーニス、ザインのファンの女生徒たちに囲まれちゃって、どうにかこうにか逃げたって言ってたわ」
「そうか」
「…ザイン、この間ヒューイに会いに来て『ユーニスと結婚したい』って言ったんだって」
リンジーが隣のヒューイを横目で見ながら言うと、ヒューイは無言で頷いた。
「結婚?」
「ああ。ユーニスとなら結婚できそうな気がする、と」
ヒューイが言う。
「それを何故ヒューイに言うんだ?」
ヒューイにそう話す事で、嫉妬をさせようとか、結婚を止めさせようとかか?
いや、ザインも今更そんな事はしないだろうとは思うが。
「相談、だな。元恋人としてではなく、友人として。ユーニスはリンジーの友人だしあの二人が見合いをするよう仕向けたのは俺だしな」
「そうか」
ヒューイの表情にもリンジーの表情にもザインへのわだかまりは見えない。
ヒューイとザインが友人として付き合っていけるのなら、そしてそれをリンジーが気にしないなら、それはそれで良いが。
「では、ユーニスはザインと婚約するのか…」
もちろん本当に呼ぶつもりはなかったが、婚約者がいるなら尚更淋しいから来てくれなどとは言えないな…
ケントがそう思っていると、リンジーが首を振って言った。
「ううん。それが、婚約するかどうか結論が出るのは三か月後なのよ」
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