幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

文字の大きさ
72 / 84

71

しおりを挟む
71

「そうだリンジー、これを返しておく」
 ケントが机の引き出しから白い封筒を取り出して来てリンジーの前に差し出した。
「これ…」
 王家の封筒に蝋封にはケントの印璽。
 封筒には蝋封を剥がした跡がある。
「そう。あの男が差し替えたリンジーの『婚約解消の条件』だ。あの男が開封してしまったが、中身はそのまま入っている」
「もう無効なんだから捨てても良かったのに」
「しかし、仮にもリンジーの人生が掛かっていた物だからな」
「そうね。ありがとうケント」
「見てもいいか?」
 ヒューイがリンジーが持つ封筒を指差す。
「いいけど…何書いてたか、知ってるわよね?」
 封筒をヒューイの方に差出す。
「ああ」
 ヒューイは封筒を少しの間見た後、中から便箋を取り出して開いた。
【私のために何もかもを捨てる覚悟】
 そう書かれた便箋をヒューイはじっと見つめる。

「リン、これを俺にくれないか?」
「え?いいけど…そんな物どうするの?」
 ヒューイは便箋を封筒に入れると、胸ポケットにそれを収めた。
「戒めに持っておく」
 微笑んで言う。
「戒め?」
「ああ。俺がリンの気持ちを蔑ろにした事を忘れないように」
「ヒューイ…」

「コホン」
 見つめ合うリンジーとヒューイ。向かいに座るケントは咳払いをした。
「あ…」
 いくら気にするなって言われたからってケントの前で…ダメダメ。
 リンジーはヒューイの方に向けていた顔を正面に戻し、居住いを正す。
「リンジーは気遣わなくて良いが、ヒューイはもう少し俺に気を遣え」
 呆れた口調でケントが言うと、ヒューイは「ははは」と笑った。

-----

 春期が始まった学園の中庭で、リンジーとユーニスがベンチで昼食を摂っていると、ケントがやって来る。
「ヒューイとザインは?」
「後で来るわ」
「そうか」
 ケントはリンジーの隣に座った。

「ユーニスは春期休暇中にザインとデートをしたのか?」
 ケントに話し掛けられると思っていなかったユーニスは、少し驚いた様子でケントを見る。
「え、あ、はい。でもデートと言っても、カフェでお茶を飲んで、少し街を歩いたくらいですけど」
「そうか」
 ケントはそれ以上何も言わずに昼食を食べ始めた。

 リンジーはケントとユーニスを視線だけで交互に見る。
 ユーニスはケントと踊った時にどんな話しをしたのか、私には言わないけど、この間ユーニスがザインにキスされた事を話した時の感じとか、今とか…恋愛なのかはわからないけど、ケントの方はユーニスを少し気にしてるのかしら?
 少しすると、ヒューイとザインがやって来て、それきりケントとユーニスが会話を交わす事はなかった。

「ねえ、ヒューイ」
 ケントとザイン、ユーニスが中庭から去り、ヒューイと二人でベンチに並んで座ったリンジーが言う。
「うん?」
「ザインはユーニスを好きになれそうなの?」
「さあどうだろうな。今はまだわからないんじゃないか?」
「そう…」
「何か気になるのか?」
「……」
 リンジーは周りに視線を巡らせた。
 いつものように生徒たちが何組か、遠巻きにリンジーとヒューイを見ている。
 多分話の内容までは聞こえてないと思うけど…ユーニスとザインの事だけでも聞かれたくはないけど、ケントは王子だから余計に周りに聞かれたら不味い気がするわ。
 ジロリ。
 ヒューイが周りを睨むように見回すと、遠巻きにしている生徒たちが数歩後ずさった。
 ひええ。黒の貴公子の眼力は無駄に迫力があり過ぎるわ。
「これで聞こえないだろう?」
 リンジーにニッコリと微笑みかけるヒューイ。
「うん。あ、でも念のため」
 リンジーはヒューイに向かって小さく手招きをすると、口の横に内緒話をするよう手を当てた。
 ヒューイは嬉しそうに笑うと、リンジーの口元に自分の耳を近付ける。
「あのね、ケントが……」
 小声で、ケントがユーニスを気にかけているんじゃないかと言うと、ヒューイは少し考える。

「どう思う?」
「気にはなっているのかもな。しかし、おそらくザインとユーニスが婚約する事になれば、ケントは何も言わずに自分に蓋をするだろう」
「そう…ね」
 私とヒューイの婚約の時も、私がすんなり婚約を受け入れてたらケントは何も言わなかった筈だもの。
 だからと言ってケント自身が何も言わないなら、周りがどうにかできるものじゃないし…ユーニスを気にしてても、それが恋愛感情なのかどうかもわからないものね。
「俺としてはケントの味方をしたい気持ちも強いが、ザインも…異性と普通に結婚できる、そんな相手に出会えたなら、それも応援してやりたいとも思う」
「そうよね…」
 ヒューイにとっては兄弟と元恋人の友人だもの。どっちにも幸せになって欲しいわよね。
「あの三人に関しては、俺たちは見守っている事しかできないんじゃないか?」
「そうね」
 リンジーは大きく頷いた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...