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 オルディス家を訪れてリンジーの部屋でお茶を飲みながらヒューイが言う。
「今年の舞踏会のドレスだが」
「ピンクは嫌だからね」
 ソファに向かい合って座るリンジーが食い気味に言うと、ヒューイは笑った。
「似合うのに」
「その気持ちはありがたいけど、嫌」
「じゃあ俺がリンに着て欲しい色で良いか?」
「え?何色?」
翠色すいしょくだ。『飛ぶ宝石』と言われるカワセミの色」
「少し青みがかった緑色よね?」
「そうだな」
「去年の舞踏会も翡翠色だったけど、緑が好きなの?」
「好きなのはリンだ」
「はい?」
 緑色が好きなのは私って事?
「リンが好きだから緑のドレスを着せたいんだ。緑は俺のの色だから」
 微笑みながら言うヒューイに、リンジーはきょとんとした表情で応える。
 つまり、好きな相手に自分を象徴する色を纏わせたいって事よね?それって独占欲の現れじゃあ…?

「あれ?じゃあ去年の翡翠色のドレスは…」
 私の描いた修道服みたいなデザイン画にヒューイがフリルとかを足して行った、あのドレスの色もヒューイが決めた、よね?
 それはつまり…?
「去年の俺も、実はリンに俺の色を着せたいと思っていたようだな」
 ニッコリ笑ってリンジーを見るヒューイ。
「……そ、そう」
 それって、その時にはもう無意識に、ヒューイは私の事を独占したいと思ってた。と…?

 かあっと頬が上気するのを感じた。
「翡翠より、翠色の方がより俺の瞳の色に近い」
 頬を赤くするリンジーを見つめて、笑いながらヒューイが言う。
「そう?」
 翠色の方が翡翠色より少し青みが強いんだったかな?
 リンジーは頬を押さえて、翠色を頭に思い浮かべながらヒューイの顔を見た。
「良く見るか?」
 ソファから腰を浮かせると、テーブルに手をついてリンジーへ顔を近付ける。
 目の前に緑の瞳。エメラルドみたいだけど、青みが…ある…かなあ?
「ヒューイ近すぎてよく見えな…」

 チュッ。
 そのまま小さな音を立ててキスをした。
「!」
「見えたか?」
 少し顔を離してニッコリと笑うヒューイ。
「もう」
 リンジーは赤くなりながらペチンッとヒューイの頬を軽く叩く。
「リン、おいで」
 頬を叩いた手を握ったヒューイはソファの自分の隣を視線で示す。
「やだ」
 拗ねた口調で言うと、ヒューイは笑う。
「では俺が行く」
 そう言って立ち上がると、テーブルを挟んだリンジーの座る一人掛けのソファの方へ回り込んだ。
 ヒューイがイチャイチャしたいから三人掛けの方へ座ったのはわかってるわ。だから敢えて一人掛けの方へ座ったの。
 だって自分の家でイチャイチャするのって、何だか恥ずかしいんだもん。

「ひゃあっ!」
 ヒューイはリンジーを抱き上げると、リンジーが座っていたソファに自分が座るとそのままリンジーを膝の上に乗せる。
「ちょっ…」
 だっ、抱っこされてる!
 これならソファで隣に座った方がマシだったかも!?
「リン」
 少しリンジーを見上げる形になるヒューイは、リンジーの頬に触れ、そのまま髪を掻き上げるように指を滑らせた。
「か、髪、硬いでしょ?」
 今日は下ろしてるけど、フワフワには遠い、ゴワゴワした癖毛。色だって燻んだ金髪で全然綺麗じゃない。ザインは真っ直ぐでサラサラの銀髪で…だからこそ比べられたくないのに…
「そうか?」
 本当に硬いとは思っていなさそうな表情、に見える。
 昨夜侍女に香油をたっぷり塗ってもらっておいて良かった。
「俺はリンの髪の毛好きだぞ?存在感があるし、色もミルクティーみたいだし」
 存在感。
 それは褒め言葉なのか?とリンジーは思うが、ヒューイが好きだと言うなら、と思い直す。
「普段の結えているのも良いが、下ろしているのも良いな」
 楽しそうにリンジーの髪を撫でた。

「……」
 リンジーは無言でヒューイの首に抱き付く。
「リン?」
 ヒューイはリンジーの頭をゆっくりと撫でた。
「……いで…」
「ん?」

「ザインやあの侍女と、比べないで…」
「比べる?」
「…だって、勝る所がないから」
 ヒューイの肩に顔を埋めて、小さな声で言う。
「リン」
 リンジーはヒューイの肩に両手を置いて顔を上げた。
「『そんな事ない』って言って欲しいんじゃないの。自分が一番良くわかってるから。ただ心の中で比べるのは良いけど、口には出さないで欲しい」
 ぎゅっと目を閉じて一気に言うリンジーに、ヒューイは苦笑いを浮かべる。
「参ったな」
「え?」
 リンジーが目を開けると、ヒューイは両手でリンジーの頬を包み、唇を重ねた。
「…ちょ…ヒュ……イ…」
 頬から髪を梳くように指を滑らせ、後ろ頭を押さえて角度を変えて何度も口付ける。

「リン…あんまりかわいい事を言うな。我慢が効かなくなる」
 唇を離し、リンジーを抱きしめてヒューイが言った。
「我慢…?」
 してるの?これで?
「ここが俺の部屋ならこんなものでは済まないからな」
 リンジーの心中を見透かすように、耳元で囁いた。








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