75 / 84
74
しおりを挟む
74
春期の終わりの舞踏会まであと一か月となった頃。
「ユーニス、少し時間をもらえるかな?」
左頬に大きな絆創膏を貼ったザインが週始めの昼休憩の中庭に現れ、ベンチに座ったリンジーとユーニスの前に立って言った。
「どうしたんですか?」
「どうしたの?その頬…」
ユーニスとリンジーは共に自分の左頬を指差しながら言う。
「先ずはユーニスと話して、その辺りの事はその後で」
ザインは苦笑いしながら言った。
昼休憩の中庭には他の生徒たちも居るので、個人的な話しをするには向かない。週末休みまでにはまだ日にちもあるので、その日の放課後の図書室にザインとヒューイ、ユーニスとリンジーが訪れ、リンジーとヒューイから少し離れた場所でユーニスとザインが話しをする事になった。
「ヒューイはザインから何か聞いてるの?」
図書室のテーブルに座り、本を開いて置いてリンジーが聞くと、リンジーの隣に座り本を持ったヒューイは首を横に振る。
「いや。とにかくユーニスに一番に話すと」
「と、言う事はユーニスとの婚約に関係する件なのかしら?」
「そうだろうな」
「あの絆創膏は?」
リンジーとヒューイの座る場所から、声が聞こえない程度に離れたテーブルに向かい合わせで座っているザインとユーニスを見つつ、自分の頬を指差すリンジー。
「それも聞いてはいないが…多分」
ヒューイは右手を頭の横に上げて、そのまま斜め下に振り下ろす。
「平手打ち?」
「おそらく」
ザインが叩かれて、ユーニスとの婚約に関わるって、一体どんな話しなんだろ?
しばらく話した後、ザインが立ち上がり、ユーニスに頭を下げた。座ってザインを身上げるユーニスが両手を横に振っている。
うーん「ごめん」…って軽い感じじゃないわね。「申し訳ない」「いえいえ」かしら。
「あの様子だと、ザインとユーニスの婚約はなくなったようだな」
パタンと本を閉じてヒューイが言う。
「…そうね」
ユーニスも立ち上がり、ザインの後ろに付いて歩き出した。
リンジーとヒューイの傍まで来ると、ヒューイが自分の向かい側の席を指差す。
「ユーニスはこっち」
リンジーがユーニスに手招きをし、自分の隣へと座らせた。
三対一で変な座り方だけど、ユーニスとザインの婚約がなくなったのが本当なら二人が並んで座るのも変だものね。
リンジーは自分の隣へ座るユーニスの顔を横目で見る。ユーニスの表情からは特に悲しい嬉しいなどの感情は読み取れなかった。
「兄上が帰って来たんだ」
ザインがそう言うと、ヒューイは瞠目する。
「メイナード兄さんが?」
「そう。一昨日。恋人とは別れたらしい」
ザインのお兄様…同性愛者なのを隠して結婚したけど、結局露見して、恋人だったハウザント家の使用人と駆け落ちしたんだったわよね?
それで次男のザインが伯爵家を継がなくちゃいけなくなってユーニスとのお見合い話になった筈。
という事はお兄様が帰って来たから、ザインが後を継ぐ必要がなくなってユーニスとの婚約がなくなったと言う事?
「ハウザント家はメイナード兄さんが継ぐのか?それでザインが結婚する必要がなくなったのか?」
ヒューイがそう言うと、ザインは頷く。
「しかし次の代はどうするんだ?メイナード兄さんがまた結婚して子をもうけるのか?前の結婚でそれは無理だとわかった筈だろう?」
「そうなんだけど…父上が……」
言い淀みながら、ザインはリンジーとユーニスを見た。
私たちが居ると言い辛い事?
リンジーは同じように感じたらしいユーニスと顔を見合わせると、席を立とうとする。
「待って。リンジーとユーニスには色々迷惑や心配も掛けたし、特にユーニスは婚約の件で俺の都合で振り回したし、偽りなく全てを説明したいんだ」
だから座って。とザインが言うので、リンジーとユーニスはまた椅子に座り直した。
「父上の言葉は、兄上と俺以外の者に聞かせるつもりはなかった言葉なんだ。言い訳にしかならないが…」
ザインはそう言うと、少し息を吸う。
「父上は『子を成すために少しだけ我慢すれば良い。目を瞑り、愛しい男を思い浮かべて妻を抱け』と言った。そして『私にもできたのだから、お前たちにもできる』と」
俯き、視線を落としてザインは言った。
それは…ザインのお父様も同性しか愛せない人で、我慢して……
それで、お兄様とザインを授かったって…事…よね?
「…それを母上に聞かれた」
苦渋の表情でザインが言う。
「それは…」
ヒューイはそう呟くが、次の言葉が出て来ない。
リンジーとユーニスも言葉もなく息を飲んだ。
春期の終わりの舞踏会まであと一か月となった頃。
「ユーニス、少し時間をもらえるかな?」
左頬に大きな絆創膏を貼ったザインが週始めの昼休憩の中庭に現れ、ベンチに座ったリンジーとユーニスの前に立って言った。
「どうしたんですか?」
「どうしたの?その頬…」
ユーニスとリンジーは共に自分の左頬を指差しながら言う。
「先ずはユーニスと話して、その辺りの事はその後で」
ザインは苦笑いしながら言った。
昼休憩の中庭には他の生徒たちも居るので、個人的な話しをするには向かない。週末休みまでにはまだ日にちもあるので、その日の放課後の図書室にザインとヒューイ、ユーニスとリンジーが訪れ、リンジーとヒューイから少し離れた場所でユーニスとザインが話しをする事になった。
「ヒューイはザインから何か聞いてるの?」
図書室のテーブルに座り、本を開いて置いてリンジーが聞くと、リンジーの隣に座り本を持ったヒューイは首を横に振る。
「いや。とにかくユーニスに一番に話すと」
「と、言う事はユーニスとの婚約に関係する件なのかしら?」
「そうだろうな」
「あの絆創膏は?」
リンジーとヒューイの座る場所から、声が聞こえない程度に離れたテーブルに向かい合わせで座っているザインとユーニスを見つつ、自分の頬を指差すリンジー。
「それも聞いてはいないが…多分」
ヒューイは右手を頭の横に上げて、そのまま斜め下に振り下ろす。
「平手打ち?」
「おそらく」
ザインが叩かれて、ユーニスとの婚約に関わるって、一体どんな話しなんだろ?
しばらく話した後、ザインが立ち上がり、ユーニスに頭を下げた。座ってザインを身上げるユーニスが両手を横に振っている。
うーん「ごめん」…って軽い感じじゃないわね。「申し訳ない」「いえいえ」かしら。
「あの様子だと、ザインとユーニスの婚約はなくなったようだな」
パタンと本を閉じてヒューイが言う。
「…そうね」
ユーニスも立ち上がり、ザインの後ろに付いて歩き出した。
リンジーとヒューイの傍まで来ると、ヒューイが自分の向かい側の席を指差す。
「ユーニスはこっち」
リンジーがユーニスに手招きをし、自分の隣へと座らせた。
三対一で変な座り方だけど、ユーニスとザインの婚約がなくなったのが本当なら二人が並んで座るのも変だものね。
リンジーは自分の隣へ座るユーニスの顔を横目で見る。ユーニスの表情からは特に悲しい嬉しいなどの感情は読み取れなかった。
「兄上が帰って来たんだ」
ザインがそう言うと、ヒューイは瞠目する。
「メイナード兄さんが?」
「そう。一昨日。恋人とは別れたらしい」
ザインのお兄様…同性愛者なのを隠して結婚したけど、結局露見して、恋人だったハウザント家の使用人と駆け落ちしたんだったわよね?
それで次男のザインが伯爵家を継がなくちゃいけなくなってユーニスとのお見合い話になった筈。
という事はお兄様が帰って来たから、ザインが後を継ぐ必要がなくなってユーニスとの婚約がなくなったと言う事?
「ハウザント家はメイナード兄さんが継ぐのか?それでザインが結婚する必要がなくなったのか?」
ヒューイがそう言うと、ザインは頷く。
「しかし次の代はどうするんだ?メイナード兄さんがまた結婚して子をもうけるのか?前の結婚でそれは無理だとわかった筈だろう?」
「そうなんだけど…父上が……」
言い淀みながら、ザインはリンジーとユーニスを見た。
私たちが居ると言い辛い事?
リンジーは同じように感じたらしいユーニスと顔を見合わせると、席を立とうとする。
「待って。リンジーとユーニスには色々迷惑や心配も掛けたし、特にユーニスは婚約の件で俺の都合で振り回したし、偽りなく全てを説明したいんだ」
だから座って。とザインが言うので、リンジーとユーニスはまた椅子に座り直した。
「父上の言葉は、兄上と俺以外の者に聞かせるつもりはなかった言葉なんだ。言い訳にしかならないが…」
ザインはそう言うと、少し息を吸う。
「父上は『子を成すために少しだけ我慢すれば良い。目を瞑り、愛しい男を思い浮かべて妻を抱け』と言った。そして『私にもできたのだから、お前たちにもできる』と」
俯き、視線を落としてザインは言った。
それは…ザインのお父様も同性しか愛せない人で、我慢して……
それで、お兄様とザインを授かったって…事…よね?
「…それを母上に聞かれた」
苦渋の表情でザインが言う。
「それは…」
ヒューイはそう呟くが、次の言葉が出て来ない。
リンジーとユーニスも言葉もなく息を飲んだ。
2
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【書籍化決定】アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
✻1/27、短編から長編に変更しました
✻2/2、タグを変更しました
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる