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番外編3
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1-3
「婚約!?」
ピクニックの数日後、リンジーの家を訪れて言ったユーニスの言葉に、リンジーは驚いて大きな声を出した。
「何か…そうみたい」
ユーニスは首を傾げながら紅茶のカップを持つ。
「そうみたいって、他人事みたいね?」
リンジーも紅茶のカップを持ってユーニスと同じように首を傾げた。
「だって『結婚するつもりはない』って仰っていたし、私としてはとりあえず、所謂『お付き合い』をするつもりだったのよ」
「まあ…そうよね。でも臣籍降下した第二王子と、伯爵家の令嬢が交際しているとなると周りは騒ぐから…」
「そうなんだけど…」
ユーニスと両想いになったケントの動きは意外に素早かった。
ピクニックの翌日には国王に「結婚する」と報告し、次の日にはユーニスの家へ婚約の申し入れをし、その次の日にはグラフトン公爵家への報告を済ませた。
そして更にその次の日の今日なのだ。
不機嫌な様子で唇を尖らせるユーニス。
「急展開で戸惑ってるの?それともケントと結婚…したくないの?」
リンジーが言うと、眉を顰めたユーニスは首を横に振った。
「そんな事ないわ。でも戸惑ってるのもある。何より、全然二人で話す機会もないから折角両想いなのに全く実感がないの」
「あー…」
深く納得したようにリンジーは頷く。
「…それに一応政略結婚じゃなく恋愛結婚になるのに…求婚も…してもらってないもん」
俯いて唇を尖らせるユーニス。
ないもんって。か、かわいい。ユーニスかわいいわ。
ケント、貴方、こんなかわいいユーニスを見逃したままで本当にいいの!?
バタンッ!
「ユーニス!」
リンジーの部屋の扉が勢い良く開いて、ケントが部屋に飛び込んで来た。
「ケント!?」
「ケント様?」
リンジーとユーニスが驚いていると、ケントの後ろからヒューイも部屋に入って来る。
「ユーニス。置き手紙を見た」
「……」
ケントがユーニスの側に立つ。ものすごく真剣な表情だ。
ユーニスはソファに座ったまま、俯いて、腿の上で両手を握り合わせた。
「置き手紙?」
リンジーが言うと、リンジーの側に来たヒューイが紙をリンジーへと差し出した。
【私、ケント様と結婚しません】
紙にはこう書かれていて、ユーニスの署名がある。
「え?」
「リン、俺たちは出ていよう」
ヒューイが言う。
ケントとユーニスを二人きりにしようって事ね。
リンジーは頷くと、立ち上がって、ヒューイと二人で部屋を出た。
廊下に出て、ヒューイと並んで歩きながら、リンジーは腕を組んで「ケントが悪いわ。これは」と言う。
「ああ。ケントが悪い」
ヒューイも頷いた。
-----
「ケント様が悪いんです」
ユーニスは組み合わせた両手をぎゅっと握りながら言う。
「ユーニス…」
「結婚するつもりはないって仰ったの、たったの四日前ですよ?私、ケント様への好意に気付いたばかりで、両想いになった実感も、恋人同士らしいお付き合いも何もないままに急に結婚だ、婚約だって言われて…気持ちが全然ついて行かないんです」
ユーニスは顔を上げてケントを見ながら言った。
「…そうだな。ごめん」
項垂れて言うケント。
「叶うと思わなかった夢のような物が叶う気がして、焦ってしまったんだ…」
ケントが呟くように言う。
「…夢?」
「ああ。一家揃ってたわいない話をしながら食事を摂り、一緒に出掛けたり、兄弟が一緒に眠るような…そんな家族がずっと欲しかった」
「え…?」
「グラフトン家が公爵家の割に砕けた家風で、そうではない貴族の家も多いのはわかっているが、第二王子ではそもそもそのような生活は望むべくもなく、臣籍降下しても結婚するつもりもない。諦めたつもりでいたが、子をなすかどうかは別としても、ユーニスと『家族』になる事ができるのかも知れないと思うと…直ぐにでも外堀を埋めなくてはと…」
項垂れたまま言うケントをユーニスはじっと見つめた。
「それがケント様の…夢なんですか?」
「…夢という程の物ではない」
苦笑いを浮かべながらケントが言うと、ユーニスはソファから立ち上がる。
「ユーニス?」
ユーニスは唇を尖らせて、ケントを上目遣いに見た。
「ケント様、少し腕を上げていただけますか?」
「腕?」
ケントが脇を開くように少し両腕を上げると、ユーニスは勢い良くケントに抱きつく。
「ユーニス!?」
抱きつかれたケントは困惑した表情で置き場のない手を彷徨わせた。
「…恋人同士らしい事をしましょう」
ユーニスはケントの胸に額をつけて、背中に回した手に力を入れた。
「恋人同士らしい事?」
「そうです。両想いを実感させてください。それから…求婚を」
少し顔を上げたユーニスの頬も耳も額も赤く染まっている。
「ユーニス!」
必死の表情でケントにぎゅうぎゅう抱きつくユーニスに胸が一杯になったケントは、彷徨わせていた腕でユーニスを強く抱きしめた。
「ケント様の夢は私が叶えます」
そう言うユーニスに、ケントは破顔して口付けを落とした。
「婚約!?」
ピクニックの数日後、リンジーの家を訪れて言ったユーニスの言葉に、リンジーは驚いて大きな声を出した。
「何か…そうみたい」
ユーニスは首を傾げながら紅茶のカップを持つ。
「そうみたいって、他人事みたいね?」
リンジーも紅茶のカップを持ってユーニスと同じように首を傾げた。
「だって『結婚するつもりはない』って仰っていたし、私としてはとりあえず、所謂『お付き合い』をするつもりだったのよ」
「まあ…そうよね。でも臣籍降下した第二王子と、伯爵家の令嬢が交際しているとなると周りは騒ぐから…」
「そうなんだけど…」
ユーニスと両想いになったケントの動きは意外に素早かった。
ピクニックの翌日には国王に「結婚する」と報告し、次の日にはユーニスの家へ婚約の申し入れをし、その次の日にはグラフトン公爵家への報告を済ませた。
そして更にその次の日の今日なのだ。
不機嫌な様子で唇を尖らせるユーニス。
「急展開で戸惑ってるの?それともケントと結婚…したくないの?」
リンジーが言うと、眉を顰めたユーニスは首を横に振った。
「そんな事ないわ。でも戸惑ってるのもある。何より、全然二人で話す機会もないから折角両想いなのに全く実感がないの」
「あー…」
深く納得したようにリンジーは頷く。
「…それに一応政略結婚じゃなく恋愛結婚になるのに…求婚も…してもらってないもん」
俯いて唇を尖らせるユーニス。
ないもんって。か、かわいい。ユーニスかわいいわ。
ケント、貴方、こんなかわいいユーニスを見逃したままで本当にいいの!?
バタンッ!
「ユーニス!」
リンジーの部屋の扉が勢い良く開いて、ケントが部屋に飛び込んで来た。
「ケント!?」
「ケント様?」
リンジーとユーニスが驚いていると、ケントの後ろからヒューイも部屋に入って来る。
「ユーニス。置き手紙を見た」
「……」
ケントがユーニスの側に立つ。ものすごく真剣な表情だ。
ユーニスはソファに座ったまま、俯いて、腿の上で両手を握り合わせた。
「置き手紙?」
リンジーが言うと、リンジーの側に来たヒューイが紙をリンジーへと差し出した。
【私、ケント様と結婚しません】
紙にはこう書かれていて、ユーニスの署名がある。
「え?」
「リン、俺たちは出ていよう」
ヒューイが言う。
ケントとユーニスを二人きりにしようって事ね。
リンジーは頷くと、立ち上がって、ヒューイと二人で部屋を出た。
廊下に出て、ヒューイと並んで歩きながら、リンジーは腕を組んで「ケントが悪いわ。これは」と言う。
「ああ。ケントが悪い」
ヒューイも頷いた。
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「ケント様が悪いんです」
ユーニスは組み合わせた両手をぎゅっと握りながら言う。
「ユーニス…」
「結婚するつもりはないって仰ったの、たったの四日前ですよ?私、ケント様への好意に気付いたばかりで、両想いになった実感も、恋人同士らしいお付き合いも何もないままに急に結婚だ、婚約だって言われて…気持ちが全然ついて行かないんです」
ユーニスは顔を上げてケントを見ながら言った。
「…そうだな。ごめん」
項垂れて言うケント。
「叶うと思わなかった夢のような物が叶う気がして、焦ってしまったんだ…」
ケントが呟くように言う。
「…夢?」
「ああ。一家揃ってたわいない話をしながら食事を摂り、一緒に出掛けたり、兄弟が一緒に眠るような…そんな家族がずっと欲しかった」
「え…?」
「グラフトン家が公爵家の割に砕けた家風で、そうではない貴族の家も多いのはわかっているが、第二王子ではそもそもそのような生活は望むべくもなく、臣籍降下しても結婚するつもりもない。諦めたつもりでいたが、子をなすかどうかは別としても、ユーニスと『家族』になる事ができるのかも知れないと思うと…直ぐにでも外堀を埋めなくてはと…」
項垂れたまま言うケントをユーニスはじっと見つめた。
「それがケント様の…夢なんですか?」
「…夢という程の物ではない」
苦笑いを浮かべながらケントが言うと、ユーニスはソファから立ち上がる。
「ユーニス?」
ユーニスは唇を尖らせて、ケントを上目遣いに見た。
「ケント様、少し腕を上げていただけますか?」
「腕?」
ケントが脇を開くように少し両腕を上げると、ユーニスは勢い良くケントに抱きつく。
「ユーニス!?」
抱きつかれたケントは困惑した表情で置き場のない手を彷徨わせた。
「…恋人同士らしい事をしましょう」
ユーニスはケントの胸に額をつけて、背中に回した手に力を入れた。
「恋人同士らしい事?」
「そうです。両想いを実感させてください。それから…求婚を」
少し顔を上げたユーニスの頬も耳も額も赤く染まっている。
「ユーニス!」
必死の表情でケントにぎゅうぎゅう抱きつくユーニスに胸が一杯になったケントは、彷徨わせていた腕でユーニスを強く抱きしめた。
「ケント様の夢は私が叶えます」
そう言うユーニスに、ケントは破顔して口付けを落とした。
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