82 / 84
番外編4
しおりを挟む
2-1
「ルイス君?」
「…はい?あの…どちら様ですか?」
「リンジー・オルディスの父です」
「!!」
国王陛下の誕生パーティーで、リンジーの父から声を掛けられたルイスは思わず踵を返して逃げようとした。
グラフトン公爵家の嫡男に「リンジーに近付くな」と言われていたのに。
このパーティーにはリンジーもあのグラフトン公爵家の嫡男も出席しない筈で、子爵家の三男の自分が陛下の誕生パーティーに出席する機会など二度とないかも、と思って出席したが、これはやはり取り止めるべきだったのか?
「ああ。君を咎めに来た訳ではないから逃げないでくれ」
リンジーの父はルイスの腕を掴んで言う。
「いえ、しかし…リ…リンジーに近付くなと言われておりまして。あ、いえあのリンジーさんに、です」
「ヒューイ君から?」
「はい」
コクコクと頷くルイスに、リンジーの父は苦笑いを浮かべた。
「そうか。まあでも大丈夫だよ。ヒューイ君もリンジーもまだ学園生だから陛下の誕生パーティーには出ないし、ヒューイ君の父上グラフトン公爵は今陛下と妃殿下にご挨拶中だから」
ルイスは一段高い位置に置かれた王と、王妃、王太子の席へと視線をやる。
王と談笑している黒髪の男性が見えた。
遠目でよく見えないが、確かにヒューイ・グラフトンに似ている気がするな。
「我が家もパーティーに出席するような状況ではないが、君が来るとリンジーから聞いていたから少しだけ会いに来たんだよ」
「俺…いえ、私に会いに、ですか?」
「そう。目立ってはいけないから、バルコニーに出ようか?」
リンジーの父はルイスに笑い掛けた。
まだパーティーは始まったばかりで、陛下への挨拶の列は長く、バルコニーには誰もいなかった。
「リンジーがヒューイ君との婚約を嫌がって君と『浮気』をしたと聞いたのだが」
バルコニーでルイスに向き合ったリンジーの父は眉を顰めて言う。
「…はい」
咎めに来た訳ではないと言っていたが、やはり何らかの制裁を与えるためにわざわざ俺に会いに来たのか?
「娘の身勝手に巻き込んでしまってルイス君には本当に申し訳ない事をした」
リンジーの父が頭を下げた。
「!?」
…は?
伯爵が、子爵家の三男に、頭を下げた…?
ルイスは驚きの余り声も発せずにリンジーの父を見つめる。
「グラフトン公爵は事の仔細も君の事も知らないから安心すると良い。ただリンジーのせいで未来のグラフトン公爵に睨まれる羽目になって…本当に申し訳ない」
頭を下げたまま言う。
確かにグラフトン公爵家の嫡男の婚約者の父が、名もなき子爵家の三男坊に頭を下げる画は、パーティー会場の中で途轍もなく目立つだろう。バルコニーに出ようと言ったリンジーの父は本当にルイスに謝罪するつもりであった事がよくわかった。
それに多分、目立ってしまって「あれは誰だ」と俺に注目が集まらないように配慮してくださったんだ。
「いいえ!私の方こそリンジーさんに酷い事を言って、酷い事をしたんです!申し訳ございません!」
ルイスが頭を下げると、リンジーの父は頭を上げて、ルイスにも頭を上げるように促す。
「ありがとう。ルイス君」
リンジーの父は笑って手を差し出した。
「…礼を言われるのはおかしいかと」
ルイスは困ったように少し首を傾げる。
「そうだな」
おずおずと差し出されたルイスの手を、リンジーの父は力強く握った。
-----
「次にオルディス伯に会ったのはヒューイ殿がオルディス家の領地で製鉄事業を始めた時だな。我が家に急にやって来て『事務方が必要なんだ。ルイス君働かないか?』と」
ルイスがペン尻を顎に当てながら言うと、向かいの机に座っていたアンジーが驚いたように瞬きをした。
「いきなりですか?」
「ああ。何の予告もなかったな」
「それは…父上らしいと言うか…でもそれでルイス様は製鉄所で働いてくださってるんですね」
「そうだな。オルディス家の領地と我が家の領地が近いから俺の事を思い出したと言われていたが、子爵家の三男は実家の手伝いだけでは肩身が狭い。アンジーの父上はそれも慮ってくださったんだと思うぞ」
「父上が?」
「アンジーは父上の事をただのお人好しのように思っているようだが、伯は結構な『人たらし』だぞ」
ルイスがニヤリと笑って言う。
「はあ…」
「今でこそ復興も事業も軌道に乗って来たが、グラフトン家がオルディス家の復興に資金を出す前、領民が窮困していた時でも領主への不満を言う者はほぼいなかったらしいし」
「そうなんですか?」
ルイスが意外そうに言うと、ルイスは頷いた。
「それに、俺が伯爵家の嫡男であり、この製鉄所の次期所長であるアンジーを呼び捨てにして平語で話しても全く咎めないし。つくづく伯は寛大だ」
頷きながら言うルイス。
「次期所長って…僕が学園を卒業するのは来年だし、それから本格的に仕事を学ぶんですから、ルイス様は大先輩ですし、呼び捨て平語も当然ですよ」
「普通の貴族社会はそうじゃないんだよなぁ。現にヒューイ殿は俺より年下だが絶対に平語では話せないぞ」
「それは…ヒューイ兄さんの個人感情のせいかと…」
「ルイス君?」
「…はい?あの…どちら様ですか?」
「リンジー・オルディスの父です」
「!!」
国王陛下の誕生パーティーで、リンジーの父から声を掛けられたルイスは思わず踵を返して逃げようとした。
グラフトン公爵家の嫡男に「リンジーに近付くな」と言われていたのに。
このパーティーにはリンジーもあのグラフトン公爵家の嫡男も出席しない筈で、子爵家の三男の自分が陛下の誕生パーティーに出席する機会など二度とないかも、と思って出席したが、これはやはり取り止めるべきだったのか?
「ああ。君を咎めに来た訳ではないから逃げないでくれ」
リンジーの父はルイスの腕を掴んで言う。
「いえ、しかし…リ…リンジーに近付くなと言われておりまして。あ、いえあのリンジーさんに、です」
「ヒューイ君から?」
「はい」
コクコクと頷くルイスに、リンジーの父は苦笑いを浮かべた。
「そうか。まあでも大丈夫だよ。ヒューイ君もリンジーもまだ学園生だから陛下の誕生パーティーには出ないし、ヒューイ君の父上グラフトン公爵は今陛下と妃殿下にご挨拶中だから」
ルイスは一段高い位置に置かれた王と、王妃、王太子の席へと視線をやる。
王と談笑している黒髪の男性が見えた。
遠目でよく見えないが、確かにヒューイ・グラフトンに似ている気がするな。
「我が家もパーティーに出席するような状況ではないが、君が来るとリンジーから聞いていたから少しだけ会いに来たんだよ」
「俺…いえ、私に会いに、ですか?」
「そう。目立ってはいけないから、バルコニーに出ようか?」
リンジーの父はルイスに笑い掛けた。
まだパーティーは始まったばかりで、陛下への挨拶の列は長く、バルコニーには誰もいなかった。
「リンジーがヒューイ君との婚約を嫌がって君と『浮気』をしたと聞いたのだが」
バルコニーでルイスに向き合ったリンジーの父は眉を顰めて言う。
「…はい」
咎めに来た訳ではないと言っていたが、やはり何らかの制裁を与えるためにわざわざ俺に会いに来たのか?
「娘の身勝手に巻き込んでしまってルイス君には本当に申し訳ない事をした」
リンジーの父が頭を下げた。
「!?」
…は?
伯爵が、子爵家の三男に、頭を下げた…?
ルイスは驚きの余り声も発せずにリンジーの父を見つめる。
「グラフトン公爵は事の仔細も君の事も知らないから安心すると良い。ただリンジーのせいで未来のグラフトン公爵に睨まれる羽目になって…本当に申し訳ない」
頭を下げたまま言う。
確かにグラフトン公爵家の嫡男の婚約者の父が、名もなき子爵家の三男坊に頭を下げる画は、パーティー会場の中で途轍もなく目立つだろう。バルコニーに出ようと言ったリンジーの父は本当にルイスに謝罪するつもりであった事がよくわかった。
それに多分、目立ってしまって「あれは誰だ」と俺に注目が集まらないように配慮してくださったんだ。
「いいえ!私の方こそリンジーさんに酷い事を言って、酷い事をしたんです!申し訳ございません!」
ルイスが頭を下げると、リンジーの父は頭を上げて、ルイスにも頭を上げるように促す。
「ありがとう。ルイス君」
リンジーの父は笑って手を差し出した。
「…礼を言われるのはおかしいかと」
ルイスは困ったように少し首を傾げる。
「そうだな」
おずおずと差し出されたルイスの手を、リンジーの父は力強く握った。
-----
「次にオルディス伯に会ったのはヒューイ殿がオルディス家の領地で製鉄事業を始めた時だな。我が家に急にやって来て『事務方が必要なんだ。ルイス君働かないか?』と」
ルイスがペン尻を顎に当てながら言うと、向かいの机に座っていたアンジーが驚いたように瞬きをした。
「いきなりですか?」
「ああ。何の予告もなかったな」
「それは…父上らしいと言うか…でもそれでルイス様は製鉄所で働いてくださってるんですね」
「そうだな。オルディス家の領地と我が家の領地が近いから俺の事を思い出したと言われていたが、子爵家の三男は実家の手伝いだけでは肩身が狭い。アンジーの父上はそれも慮ってくださったんだと思うぞ」
「父上が?」
「アンジーは父上の事をただのお人好しのように思っているようだが、伯は結構な『人たらし』だぞ」
ルイスがニヤリと笑って言う。
「はあ…」
「今でこそ復興も事業も軌道に乗って来たが、グラフトン家がオルディス家の復興に資金を出す前、領民が窮困していた時でも領主への不満を言う者はほぼいなかったらしいし」
「そうなんですか?」
ルイスが意外そうに言うと、ルイスは頷いた。
「それに、俺が伯爵家の嫡男であり、この製鉄所の次期所長であるアンジーを呼び捨てにして平語で話しても全く咎めないし。つくづく伯は寛大だ」
頷きながら言うルイス。
「次期所長って…僕が学園を卒業するのは来年だし、それから本格的に仕事を学ぶんですから、ルイス様は大先輩ですし、呼び捨て平語も当然ですよ」
「普通の貴族社会はそうじゃないんだよなぁ。現にヒューイ殿は俺より年下だが絶対に平語では話せないぞ」
「それは…ヒューイ兄さんの個人感情のせいかと…」
1
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【書籍化決定】アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
✻1/27、短編から長編に変更しました
✻2/2、タグを変更しました
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる