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番外編5
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2-2
オルディス家の領地を訪れたヒューイと、ルイスが顔を合わせたのは、製鉄所を立ち上げるための打ち合わせの席だった。
「…は?おじ上、この男を雇ったんですか?」
「え?オルディス伯、俺の事、ヒューイ殿に話したと言われてませんでしたか?」
領地屋敷のリンジーの父の執務室へ入って来たヒューイは、中に立っていたルイスを指差して言い、ルイスは驚いて執務机に座るリンジーの父を見る。
「まあまあ。ヒューイ君、彼は『この男』ではなくルイス君だよ」
ニコニコと笑いながら立ち上がってヒューイを応接セットのソファへと促す。
「おじ上、何を考えておられるんですか?この男…この、ルイスがリンに何をしたか…」
ソファに座り、向かいに座ったリンジーの父に向かって言うヒューイ。
ちゃんと「この男」ではなく名前に言い換えるのか。意外と素直なんだな。
とルイスはヒューイを見ながら思った。
「あれはリンジーが自分がルイス君を巻き込んだと言ったんだから、もう不問だろう?」
ニコリと笑って言う。
「…っ」
二の句が継げなくなったヒューイは、執務室の側に立っているルイスをキッと睨んだ。
オルディス伯、俺もさすがに出資者に睨まれながら働くのは嫌ですよぉ。
ルイスがそう思いながらも努めて表情を変えずにリンジーの父を見ると、リンジーの父はルイスに向けてまたニコリと笑う。
「…おじ上がそう言われるなら、俺も不問とします。しかしリンに近付くのは許さない」
憎々し気にルイスを睨みながらヒューイが言う。
「いいか?リンを呼ぶ時は『リンジー様』だ。呼び捨てにしたり馴れ馴れしく接したりしたら…」
「わっ、わかりました!リンジー様には絶対に近付きません!」
黒いオーラを出しながら睨むヒューイに、ルイスは勢い良く返事をした。
-----
「まあでもヒューイ殿も仕事の上では俺を対等に扱ってくださるし、オルディス家もグラフトン家もあまり身分の差を感じさせない珍しい家なんだよな」
机の上で書類をトントンと整えながらルイスが言うと、アンジーは嬉しそうにうんうんと頷いた。
「後はアンジーにもう一人姉がいれば良かったんだが…アンジーとリンジーならシンジーとか?あれ、こんな話の時も『様』は付けないといけないんだろうか…?」
ルイスは顎に手を当てて言う。
「姉…ですか?」
「ああ。子爵家の三男坊は縁にも恵まれないまま三十路が近付いているからなあ」
ため息混じりにルイスが言うと、アンジーは苦笑いを浮かべた。
「おい」
バサバサバサ。
声と共にルイスの目の前に紙の束が降って来る。
「!?」
ルイスが振り向くように後ろを見上げるとヒューイが憮然とした表情で立っていた。
「ヒューイ殿」
「リンの事はいついかなる時でも『リンジー様』だ。それにリンに姉や妹がいたとしてもルイスの嫁にはやらんわ」
「ですよねー」
ははっ。と笑いながら、ヒューイが机の上に落とした紙の一枚を手に取る。
「ん?」
てっきり仕事の書類だと思っていた紙には、人の名前や生年月日など書いてあった。
「履歴書?事務員でも雇うんです?…あっ!もしかして次の従業員を雇うから俺は首になるんですか!?」
「え!?首!?」
ヒューイを見上げて言うルイスに、アンジーも驚いて声を上げる。
「…よく見ろ、それは釣書だ」
呆れたようにヒューイが言った。
「釣書」
と、言えば、縁談の時取り交わす自己紹介を載せた書面、だよな?
改めて紙を見ると、確かに女性の名前と生年月日、家筋、家族構成や、特技などが書かれている。
「絵姿を見たければここだ」
ヒューイが足元の鞄を示した。
「俺に?」
ルイスが混乱して言うと、ヒューイは鼻に皺を寄せる。
「俺にはリンという婚約者がいるし、アンジーも最近伯爵家の令嬢と婚約したばかりだ。ここにいる独身の男はルイスだけだろ」
「そうですね」
しかし何故ヒューイ殿が俺に縁談を持って来るんだ?
「おじ上からだ」
ルイスの表情から悟ったヒューイが言った。
「オルディス伯から?」
「早く身を固めて腰を据えて仕事に励め、と」
「はあ…」
机の上の紙を見る。
これ、少なくとも五十枚はあるよな?
こんなのどうやって選ぶんだ…?
何枚かを手に取って眺める。名前、歳、家柄。絵姿は良く描かれているから参考程度としても、数見てると訳わからなくなりそうだな。
「おじ上の一押し、聞くか?」
ヒューイが片眉を上げながら言うと、ルイスは勢いよく振り向いてヒューイを見た。
「聞きます」
「返事が早いな」
「オルディス伯が推すなら間違いない気がします」
「まあな」
うんうんと頷き合うヒューイとルイス。
何だかんだ言い合っていても、何だかんだ仲が良いんだよね。この二人。
令嬢の絵姿を鞄から取り出してわいわい言い始めたヒューイとルイスを、アンジーは何だか微笑ましい気持ちで机に両手で頬杖をつきながら眺めた。
オルディス家の領地を訪れたヒューイと、ルイスが顔を合わせたのは、製鉄所を立ち上げるための打ち合わせの席だった。
「…は?おじ上、この男を雇ったんですか?」
「え?オルディス伯、俺の事、ヒューイ殿に話したと言われてませんでしたか?」
領地屋敷のリンジーの父の執務室へ入って来たヒューイは、中に立っていたルイスを指差して言い、ルイスは驚いて執務机に座るリンジーの父を見る。
「まあまあ。ヒューイ君、彼は『この男』ではなくルイス君だよ」
ニコニコと笑いながら立ち上がってヒューイを応接セットのソファへと促す。
「おじ上、何を考えておられるんですか?この男…この、ルイスがリンに何をしたか…」
ソファに座り、向かいに座ったリンジーの父に向かって言うヒューイ。
ちゃんと「この男」ではなく名前に言い換えるのか。意外と素直なんだな。
とルイスはヒューイを見ながら思った。
「あれはリンジーが自分がルイス君を巻き込んだと言ったんだから、もう不問だろう?」
ニコリと笑って言う。
「…っ」
二の句が継げなくなったヒューイは、執務室の側に立っているルイスをキッと睨んだ。
オルディス伯、俺もさすがに出資者に睨まれながら働くのは嫌ですよぉ。
ルイスがそう思いながらも努めて表情を変えずにリンジーの父を見ると、リンジーの父はルイスに向けてまたニコリと笑う。
「…おじ上がそう言われるなら、俺も不問とします。しかしリンに近付くのは許さない」
憎々し気にルイスを睨みながらヒューイが言う。
「いいか?リンを呼ぶ時は『リンジー様』だ。呼び捨てにしたり馴れ馴れしく接したりしたら…」
「わっ、わかりました!リンジー様には絶対に近付きません!」
黒いオーラを出しながら睨むヒューイに、ルイスは勢い良く返事をした。
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「まあでもヒューイ殿も仕事の上では俺を対等に扱ってくださるし、オルディス家もグラフトン家もあまり身分の差を感じさせない珍しい家なんだよな」
机の上で書類をトントンと整えながらルイスが言うと、アンジーは嬉しそうにうんうんと頷いた。
「後はアンジーにもう一人姉がいれば良かったんだが…アンジーとリンジーならシンジーとか?あれ、こんな話の時も『様』は付けないといけないんだろうか…?」
ルイスは顎に手を当てて言う。
「姉…ですか?」
「ああ。子爵家の三男坊は縁にも恵まれないまま三十路が近付いているからなあ」
ため息混じりにルイスが言うと、アンジーは苦笑いを浮かべた。
「おい」
バサバサバサ。
声と共にルイスの目の前に紙の束が降って来る。
「!?」
ルイスが振り向くように後ろを見上げるとヒューイが憮然とした表情で立っていた。
「ヒューイ殿」
「リンの事はいついかなる時でも『リンジー様』だ。それにリンに姉や妹がいたとしてもルイスの嫁にはやらんわ」
「ですよねー」
ははっ。と笑いながら、ヒューイが机の上に落とした紙の一枚を手に取る。
「ん?」
てっきり仕事の書類だと思っていた紙には、人の名前や生年月日など書いてあった。
「履歴書?事務員でも雇うんです?…あっ!もしかして次の従業員を雇うから俺は首になるんですか!?」
「え!?首!?」
ヒューイを見上げて言うルイスに、アンジーも驚いて声を上げる。
「…よく見ろ、それは釣書だ」
呆れたようにヒューイが言った。
「釣書」
と、言えば、縁談の時取り交わす自己紹介を載せた書面、だよな?
改めて紙を見ると、確かに女性の名前と生年月日、家筋、家族構成や、特技などが書かれている。
「絵姿を見たければここだ」
ヒューイが足元の鞄を示した。
「俺に?」
ルイスが混乱して言うと、ヒューイは鼻に皺を寄せる。
「俺にはリンという婚約者がいるし、アンジーも最近伯爵家の令嬢と婚約したばかりだ。ここにいる独身の男はルイスだけだろ」
「そうですね」
しかし何故ヒューイ殿が俺に縁談を持って来るんだ?
「おじ上からだ」
ルイスの表情から悟ったヒューイが言った。
「オルディス伯から?」
「早く身を固めて腰を据えて仕事に励め、と」
「はあ…」
机の上の紙を見る。
これ、少なくとも五十枚はあるよな?
こんなのどうやって選ぶんだ…?
何枚かを手に取って眺める。名前、歳、家柄。絵姿は良く描かれているから参考程度としても、数見てると訳わからなくなりそうだな。
「おじ上の一押し、聞くか?」
ヒューイが片眉を上げながら言うと、ルイスは勢いよく振り向いてヒューイを見た。
「聞きます」
「返事が早いな」
「オルディス伯が推すなら間違いない気がします」
「まあな」
うんうんと頷き合うヒューイとルイス。
何だかんだ言い合っていても、何だかんだ仲が良いんだよね。この二人。
令嬢の絵姿を鞄から取り出してわいわい言い始めたヒューイとルイスを、アンジーは何だか微笑ましい気持ちで机に両手で頬杖をつきながら眺めた。
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