幼なじみに契約結婚を持ちかけられました。

ねーさん

文字の大きさ
83 / 84

番外編5

しおりを挟む
2-2

 オルディス家の領地を訪れたヒューイと、ルイスが顔を合わせたのは、製鉄所を立ち上げるための打ち合わせの席だった。
「…は?おじ上、この男を雇ったんですか?」
「え?オルディス伯、俺の事、ヒューイ殿に話したと言われてませんでしたか?」
 領地屋敷のリンジーの父の執務室へ入って来たヒューイは、中に立っていたルイスを指差して言い、ルイスは驚いて執務机に座るリンジーの父を見る。
「まあまあ。ヒューイ君、彼は『この男』ではなくルイス君だよ」
 ニコニコと笑いながら立ち上がってヒューイを応接セットのソファへと促す。
「おじ上、何を考えておられるんですか?この男…この、ルイスがリンに何をしたか…」
 ソファに座り、向かいに座ったリンジーの父に向かって言うヒューイ。
 ちゃんと「この男」ではなく名前に言い換えるのか。意外と素直なんだな。
 とルイスはヒューイを見ながら思った。

「あれはリンジーが自分がルイス君を巻き込んだと言ったんだから、もう不問だろう?」
 ニコリと笑って言う。
「…っ」
 二の句が継げなくなったヒューイは、執務室の側に立っているルイスをキッと睨んだ。
 オルディス伯、俺もさすがに出資者に睨まれながら働くのは嫌ですよぉ。
 ルイスがそう思いながらも努めて表情を変えずにリンジーの父を見ると、リンジーの父はルイスに向けてまたニコリと笑う。
 
「…おじ上がそう言われるなら、俺も不問とします。しかしリンに近付くのは許さない」
 憎々し気にルイスを睨みながらヒューイが言う。
「いいか?リンを呼ぶ時は『リンジー様』だ。呼び捨てにしたり馴れ馴れしく接したりしたら…」
「わっ、わかりました!リンジー様には絶対に近付きません!」
 黒いオーラを出しながら睨むヒューイに、ルイスは勢い良く返事をした。

-----

「まあでもヒューイ殿も仕事の上では俺を対等に扱ってくださるし、オルディス家もグラフトン家もあまり身分の差を感じさせない珍しい家なんだよな」
 机の上で書類をトントンと整えながらルイスが言うと、アンジーは嬉しそうにうんうんと頷いた。
「後はアンジーにもう一人姉がいれば良かったんだが…アンジーとリンジーならシンジーとか?あれ、こんな話の時も『様』は付けないといけないんだろうか…?」
 ルイスは顎に手を当てて言う。
「姉…ですか?」
「ああ。子爵家の三男坊は縁にも恵まれないまま三十路が近付いているからなあ」
 ため息混じりにルイスが言うと、アンジーは苦笑いを浮かべた。

「おい」
 バサバサバサ。
 声と共にルイスの目の前に紙の束が降って来る。
「!?」
 ルイスが振り向くように後ろを見上げるとヒューイが憮然とした表情で立っていた。
「ヒューイ殿」
「リンの事はいついかなる時でも『リンジー様』だ。それにリンに姉や妹がいたとしてもルイスの嫁にはやらんわ」
「ですよねー」
 ははっ。と笑いながら、ヒューイが机の上に落とした紙の一枚を手に取る。
「ん?」
 てっきり仕事の書類だと思っていた紙には、人の名前や生年月日など書いてあった。
「履歴書?事務員でも雇うんです?…あっ!もしかして次の従業員を雇うから俺は首になるんですか!?」
「え!?首!?」
 ヒューイを見上げて言うルイスに、アンジーも驚いて声を上げる。
「…よく見ろ、それは釣書だ」
 呆れたようにヒューイが言った。

「釣書」
 と、言えば、縁談の時取り交わす自己紹介を載せた書面、だよな?
 改めて紙を見ると、確かに女性の名前と生年月日、家筋、家族構成や、特技などが書かれている。
「絵姿を見たければここだ」
 ヒューイが足元の鞄を示した。
「俺に?」
 ルイスが混乱して言うと、ヒューイは鼻に皺を寄せる。
「俺にはリンという婚約者がいるし、アンジーも最近伯爵家の令嬢と婚約したばかりだ。ここにいる独身フリーの男はルイスだけだろ」
「そうですね」
 しかし何故ヒューイ殿が俺に縁談を持って来るんだ?

「おじ上からだ」
 ルイスの表情から悟ったヒューイが言った。
「オルディス伯から?」
「早く身を固めて腰を据えて仕事に励め、と」
「はあ…」
 机の上の紙を見る。
 これ、少なくとも五十枚はあるよな?
 こんなのどうやって選ぶんだ…?
 何枚かを手に取って眺める。名前、歳、家柄。絵姿は描かれているから参考程度としても、数見てると訳わからなくなりそうだな。

「おじ上の一押し、聞くか?」
 ヒューイが片眉を上げながら言うと、ルイスは勢いよく振り向いてヒューイを見た。
「聞きます」
「返事が早いな」
「オルディス伯が推すなら間違いない気がします」
「まあな」
 うんうんと頷き合うヒューイとルイス。

 何だかんだ言い合っていても、何だかんだ仲が良いんだよね。この二人。
 令嬢の絵姿を鞄から取り出してわいわい言い始めたヒューイとルイスを、アンジーは何だか微笑ましい気持ちで机に両手で頬杖をつきながら眺めた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...