転生令嬢と王子の恋人

ねーさん

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「それではリザ様は前世を思い出されたと?」
「そうなの」
 お茶の支度をしながらリザの話を聞いていたジューンは、紅茶のカップをリザの前に置きながら
「…夢?」
 と言う。
「夢じゃないわよ!」
「…お熱が?」
「熱に浮かされてないから!」
「…妄想癖」
「妄想癖なんてなかったでしょ!」
 必死に言い返すリザに、ジューンはため息を吐く。
「…で、前世ではどんな人だったんですか?」
「17歳だったわ。今と同じね。前世では高校…学園みたいな学校へ通ってて、その高校は三年生までで卒業で、上の学校へ行こうと勉強してて」
 リザは勢いこんで話し出す。
「はい」
「進学校ってわからないわよね?成績の良い人たちが集まってて少しでも良い学校へ行くために勉強するの。私はその進学校に行ってて……」
 段々と声が小さくなる。ジューンは首を傾げた。
「リザ様?」
「…勉強してたわ。勉強ばっかり。勉強してる思い出しかない。高校生なのにスマホも持ってなかったわ。家にタブレットはあったけど。挙句にたまの息抜きで本屋行って自転車にぶつかられて死ぬって何なの!?」
「スマホ?タブ…?」
 ジューンが首を捻る。リザは拳を握りしめた。
「生まれ変わるなら、絶世の美女とかになりたかったのに!何で前世と似たような感じなの!?」
「リザ様、前世と似てるんですか?」
「背は今の方が高い。けど、切れ長と言えば聞こえは良いけど細めの眼に高くない鼻…何でこんな中世ヨーロッパみたいな世界に彫りの浅い顔で生まれちゃうのよ~」
 派手な化粧を落としたら、見覚えのあるような顔が鏡に写った。前世のリサコに似てる…気がする。つまり、地味だ。
「昨日までのリザ様も『地味なのをどうにかしたい』とおっしゃられてましたね」
「だから今日はお化粧の研究をしてたらなったのよ」
 リザはいつも先程のような派手な化粧をしている訳ではない。むしろ化粧は薄めで…だからなおさら地味なのだ。
「…あれはないですね」
「ないわよね…」
 リザはがっくりと項垂れた。

-----

 リザとしての記憶はある。リザの記憶にリサコの記憶が薄く重なっている感じだ。
が舞台のラノベや乙ゲーがあったかしら…」
 転生や生まれ変わりと言えば悪役令嬢モノか。
 
 王太子殿下は見目麗しいサイモン・ルーセント、24歳。
 婚約者はオリー・マーシャル公爵令嬢、18歳。
 乙女ゲームの定番で言えば王太子殿下は攻略対象、婚約者のオリーは悪役令嬢だ。
「オリー様、綺麗でかわいくて優しくて悪役令嬢って感じじゃないんだよね…でもサイモン殿下が攻略対象だとしたらヒロインは誰だろう?」
 リザはベッドの中で考える。頭が混乱して眠れないので、ライトノベルや乙女ゲームの世界へ転生したのかの可能性を考えていた。
 しかし、リサコは勉強の息抜きにライトノベルを読むくらいで、乙女ゲームはプレイしたことがない。ゲームにハマると勉強の時間を削られすぎるからだ。
「サイモン殿下は学園の生徒じゃないから交友関係とかわかんないしな…」
 しかし、攻略対象は一人ではないのだ。
 第二王子ロイドはどうだろう。サイモンは中性的な美しさで正に「麗しい」王子だが、ロイドは少し毛色が違った。
 ロイドの整った顔はリザも好みだ。しかしロイドは人当たりの良いサイモンと違い、いつも無表情だった。
「紫の瞳に紫の髪のツンデレ王子…あり得るわ」
 王族には紫の瞳と髪という特徴がある。サイモンは全体的に色素が薄いが、ロイドは濃い。髪も瞳も黒に近いが日に透けると紫色に光るのだ。
「ツンデレって言っても、私は『ツン』しか見た事ないけどね」
 リザはロイドの婚約者だ。しかし婚約が決まったのはほんの一年程前で、しかもロイドからの指名だったと聞いた。
「…何で私かなあ?」
 婚約者との親交を深める目的の王宮でのお茶会でも、ロイドは仏頂面で黙ってお茶を飲んでいる。目も合わない。ロイドは学園の四年生なので学園で見掛ける事もたまにはあるが、リザはロイドの笑った顔は見た事がなかった。
「ロイド殿下もヒロインにはデレるのかも」
 デレた顔を想像してみても、まったく想像できない。
「待て待て。ロイド殿下が攻略対象だとしたら、ライバルの悪役令嬢役は…私なの!?」

 ますます眠れなくなるリザであった。


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