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「あの子?」
リザはジェイクの肩越しに食堂の奥の席に座る女生徒を盗み見る。リザの横でステラが頷いた。
「そう。あれがローズ・エンジェル男爵令嬢よ」
奥の席に座る女生徒は、ふんわりとしたピンクの髪に大きな青い瞳、背も小さく、友人と話す仕草も可憐な少女だった。
「かわいい…」
リザは思わず呟く。
髪色から名付けられたんだろうけどローズ、しかも姓はエンジェル「薔薇の天使」なんてベタなのはヒロイン以外考えられないわ。
「あの子、生徒会のサポートメンバーなのよ」
「ああ、なるほど」
学園は15歳で入学し、四年間学び18歳で卒業する。貴族の令息令嬢は15歳までは家庭教師に学び学園へ入学するが、貴族でない者は家の都合により5歳から10歳には初等教育校へ入学し、数年間字や計算などを学び、成績優秀者やお金のある商家の子供などが15歳で学園へと入学する。
全寮制で、貴族でも侍女やメイドを伴う事はできない。学園内では身分は関係なく生徒は平等が建前である。
学園は一学年が春期、秋期、冬期の三月期制で、春期と秋期の間に約二ヶ月の夏季休暇、秋期と冬期の間、冬期と春期の間にそれぞれ約二週間の休暇がある。
春期の終わりには夏季休暇に入る前の舞踏会があり、冬期の終わりには卒業パーティーがあるので、貴族の令息令嬢は社交を学び、貴族でない者も貴族社会との繋がりを作ろうと励む場となる。
生徒会には役員の他に一~四学年から男女一名づつ指名されたサポートメンバーがおり、舞踏会や文化祭、卒業パーティーなどの大きな行事の前には手伝いをすることになっていた。
「そろそろ舞踏会の準備も始まるものね。それで生徒会の方々と知り合いに…」
「あ!ドイルくんがローズさんに話し掛けたわ」
ステラが言い、リザも再度ローズを見る。
二人の男性がローズに話し掛けている。生徒会会計のエリック・ドイルと、書記のクリストファー・マーシャルだ。
「ドイルくんとマーシャル様ね」
「お姉様のオリー様で美女は見慣れてるかと思ったけど…結構でれでれしてるわね」
「オリー様は綺麗系だけど、ローズさんはかわいい系だから…」
これからローズと生徒会の面々との距離が縮まるのだろうか。
リザはぼんやりとローズを眺めた。
-----
リザは月に一度の定例茶会のため王宮へとやって来た。
侍女たちがお茶の準備をして去って行き、リザの侍女ジューンとロイドの侍従アベルが部屋の隅に控えている。
今日も喋らないのかな。
いつもロイドは挨拶くらいしか喋らない。王妃やロイドの弟などの他の王族の参加者が居れば良いが、今日のように二人きりとなると、何も話さずにただお茶ばかり飲んで時間が過ぎるのを待つ事もあった。
「今日はハリジュ殿下は来られないんですか?」
ハリジュはロイドの弟で現在6歳だ。リザが問うと、ロイドは
「父上の視察に付いて行っている」
と言う。
「そうなんですか…」
ハリジュが居れば多少は間が持つ。リザは残念に思いながらお茶を飲んだ。
リザがポツポツ話しかけて、ロイドが答える。いつものように話は弾まないままお茶会を終えたリザは、王宮の廊下を歩いていた。
「ロイド殿下は婚約者様をお好きではないのかしら?」
部屋の掃除をしているのか、メイド達の声が聞こえて来る。
「リザ様…」
「しっ!」
何かを言おうとしたジューンを制して、リザは足を止めた。
「でもロイド殿下がリザ様を婚約者に指名したんでしょう?」
「そうらしいけど、お茶会でも楽しそうな様子はないし…公爵家や侯爵家の令嬢でご婚約が決まっていなかったお嬢様がもうあまりいなかったからかも」
確かに上位の貴族の令息令嬢ほど婚約が決まるのは早い。学園に入る前には婚約が決まる事も多かった。
「それにしても、誰もいなかった訳ではないのに、何故あのように…地味な令嬢をお選びになったのかしら?」
「オリー様やシルヴィア王女殿下に比べると…何と言うか…霞むと言うか…」
シルヴィアはサイモンの妹、ロイドの姉となる王女で、二年前他国の王族に嫁いでいる。
…私にだって、何故自分がロイド殿下から指名されたのか、さっぱり分からないわ。
リザはそっとその場を離れた。
「王宮のメイドも影では口さがない物ですね」
帰りの馬車でジューンがため息混じりに言った。
「皆が不思議に思うのも無理はないわ。私だって不思議だもの」
ロイドの横に立つ自分を想像して、リザはげんなりする。
ロイドにエスコートしてもらった去年の舞踏会は、まだ婚約したてでよく分からないまま終わったが、卒業パーティーでは周りからの「釣り合っていない」と言う視線を嫌と言う程感じた。
ロイドも形式的にリザに接するだけで、ダンスを一曲踊ると友人の所へ行ってしまった。
あとニカ月弱でまた舞踏会がある。
今度の舞踏会ではローズさんと踊るロイド殿下を見るのかも知れないな。
リザは馬車の窓に写る自分を見て小さくため息を吐いた。
「あの子?」
リザはジェイクの肩越しに食堂の奥の席に座る女生徒を盗み見る。リザの横でステラが頷いた。
「そう。あれがローズ・エンジェル男爵令嬢よ」
奥の席に座る女生徒は、ふんわりとしたピンクの髪に大きな青い瞳、背も小さく、友人と話す仕草も可憐な少女だった。
「かわいい…」
リザは思わず呟く。
髪色から名付けられたんだろうけどローズ、しかも姓はエンジェル「薔薇の天使」なんてベタなのはヒロイン以外考えられないわ。
「あの子、生徒会のサポートメンバーなのよ」
「ああ、なるほど」
学園は15歳で入学し、四年間学び18歳で卒業する。貴族の令息令嬢は15歳までは家庭教師に学び学園へ入学するが、貴族でない者は家の都合により5歳から10歳には初等教育校へ入学し、数年間字や計算などを学び、成績優秀者やお金のある商家の子供などが15歳で学園へと入学する。
全寮制で、貴族でも侍女やメイドを伴う事はできない。学園内では身分は関係なく生徒は平等が建前である。
学園は一学年が春期、秋期、冬期の三月期制で、春期と秋期の間に約二ヶ月の夏季休暇、秋期と冬期の間、冬期と春期の間にそれぞれ約二週間の休暇がある。
春期の終わりには夏季休暇に入る前の舞踏会があり、冬期の終わりには卒業パーティーがあるので、貴族の令息令嬢は社交を学び、貴族でない者も貴族社会との繋がりを作ろうと励む場となる。
生徒会には役員の他に一~四学年から男女一名づつ指名されたサポートメンバーがおり、舞踏会や文化祭、卒業パーティーなどの大きな行事の前には手伝いをすることになっていた。
「そろそろ舞踏会の準備も始まるものね。それで生徒会の方々と知り合いに…」
「あ!ドイルくんがローズさんに話し掛けたわ」
ステラが言い、リザも再度ローズを見る。
二人の男性がローズに話し掛けている。生徒会会計のエリック・ドイルと、書記のクリストファー・マーシャルだ。
「ドイルくんとマーシャル様ね」
「お姉様のオリー様で美女は見慣れてるかと思ったけど…結構でれでれしてるわね」
「オリー様は綺麗系だけど、ローズさんはかわいい系だから…」
これからローズと生徒会の面々との距離が縮まるのだろうか。
リザはぼんやりとローズを眺めた。
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リザは月に一度の定例茶会のため王宮へとやって来た。
侍女たちがお茶の準備をして去って行き、リザの侍女ジューンとロイドの侍従アベルが部屋の隅に控えている。
今日も喋らないのかな。
いつもロイドは挨拶くらいしか喋らない。王妃やロイドの弟などの他の王族の参加者が居れば良いが、今日のように二人きりとなると、何も話さずにただお茶ばかり飲んで時間が過ぎるのを待つ事もあった。
「今日はハリジュ殿下は来られないんですか?」
ハリジュはロイドの弟で現在6歳だ。リザが問うと、ロイドは
「父上の視察に付いて行っている」
と言う。
「そうなんですか…」
ハリジュが居れば多少は間が持つ。リザは残念に思いながらお茶を飲んだ。
リザがポツポツ話しかけて、ロイドが答える。いつものように話は弾まないままお茶会を終えたリザは、王宮の廊下を歩いていた。
「ロイド殿下は婚約者様をお好きではないのかしら?」
部屋の掃除をしているのか、メイド達の声が聞こえて来る。
「リザ様…」
「しっ!」
何かを言おうとしたジューンを制して、リザは足を止めた。
「でもロイド殿下がリザ様を婚約者に指名したんでしょう?」
「そうらしいけど、お茶会でも楽しそうな様子はないし…公爵家や侯爵家の令嬢でご婚約が決まっていなかったお嬢様がもうあまりいなかったからかも」
確かに上位の貴族の令息令嬢ほど婚約が決まるのは早い。学園に入る前には婚約が決まる事も多かった。
「それにしても、誰もいなかった訳ではないのに、何故あのように…地味な令嬢をお選びになったのかしら?」
「オリー様やシルヴィア王女殿下に比べると…何と言うか…霞むと言うか…」
シルヴィアはサイモンの妹、ロイドの姉となる王女で、二年前他国の王族に嫁いでいる。
…私にだって、何故自分がロイド殿下から指名されたのか、さっぱり分からないわ。
リザはそっとその場を離れた。
「王宮のメイドも影では口さがない物ですね」
帰りの馬車でジューンがため息混じりに言った。
「皆が不思議に思うのも無理はないわ。私だって不思議だもの」
ロイドの横に立つ自分を想像して、リザはげんなりする。
ロイドにエスコートしてもらった去年の舞踏会は、まだ婚約したてでよく分からないまま終わったが、卒業パーティーでは周りからの「釣り合っていない」と言う視線を嫌と言う程感じた。
ロイドも形式的にリザに接するだけで、ダンスを一曲踊ると友人の所へ行ってしまった。
あとニカ月弱でまた舞踏会がある。
今度の舞踏会ではローズさんと踊るロイド殿下を見るのかも知れないな。
リザは馬車の窓に写る自分を見て小さくため息を吐いた。
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