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秋期が始まり、また寮生活が始まった。
結局、定期茶会を欠席してからロイドには会っていない。学園では学年も違うし、たまに見掛ける程度だ。次に会うのは二週間後の定例茶会だろう。
「とにかく、勉強する!」
リザは机に向かって拳を握る。
前世で進学校へ通っていたくらいなので、リザは勉強が出来る。あまり予習復習していなくても学年十位前後をキープしていたのだ。
サイモン殿下はロイド殿下がローズさんに惹かれているようには見えないと仰っていたけど、どこまで本当か分からないし…例え婚約破棄されたとしても、卒業後はどこかの研究所などに入って手に職つけられるように勉強しておこう。
そうリザは決心し、寮でも夜遅くまで勉学に励んでいた。
二週間後の学園の休日、リザは王宮へとやって来た。
馬車を降りてお茶会のあるテラスを目指して廊下を歩いていると、後ろから「リザさま~」と声が聞こえた。
振り向くと、ローズがこちらへ向かって走って来ていた。
「リザ様、ロイド殿下とのお茶会ですよね?私もご一緒して良いですか?」
ニコッと笑って小首を傾げる。リザは「あざとくてもかわいいなぁ」と思った。
「…ローズ様、ここは王宮で、学園内ではありません。上位の者に下位の者が話し掛けるのは良くない事です。それに王宮の廊下を走るなんて…」
リザは侯爵令嬢、ローズは男爵令嬢。リザが話し掛けて、初めてローズは答える事ができる。そのくらいの身分の差はあるのだ。
「…リザ様、酷いわ」
ローズがウルウルと眼を潤ませる。
あ、これで私が「悪役令嬢」確定?私は当たり前の事を言っただけなのに?
「酷い事は何も言っていませんわ」
「今、私に『男爵令嬢風情が私に話し掛けるなんて』と仰ったわ」
侍女やメイドが遠巻きに見ている。
「…そんな言い方してないわ」
「いいえ!リザ様、酷いわ!」
ローズはポロポロ涙を流しながら踵を返し、廊下を走り去って行った。
呆気に取られてローズの居なくなった廊下を見ていると、遠くで侍女やメイドが何かしら話しているのが目に入る。
…これで「男爵令嬢を苛める王子の婚約者」の出来上がり?なの?
「リザ様、体調が悪くないですか?」
控えていたジューンがリザの側に来て言う。
「え?」
「ええ?頭が痛いのですか?それは大変ですわ。すぐにクロフォード邸へ戻りましょう!」
ジューンはわざとらしく大きな声で言うと、リザの腕を引いた。「帰ろう」と言っているのだ。
「そうね。とても頭が痛くなったわ」
そうリザが言うと、ジューンは王宮の侍女に「リザ様は体調を崩されてやむを得ずお帰りになった、とロイド殿下の侍従にお伝えください」と伝言し、リザの背中に手を当てた。
リザは頭痛を堪えるように片手を額に当ててジューンにもたれるように歩き出した。
-----
「ロイド殿下!」
「ローズ?」
お茶会の席でリザが来るのを待っていたロイドは、扉から飛び込んで来たのがリザではない事に内心落胆した。
ローズが涙を流しているのにも気付かない。
「ロイド殿下、リザ様が酷いんです~」
ローズが胸の前で手を組んで、ウルウルした瞳でロイドを見上げる。
「は?」
何故リザの名前が出るのか。酷いとは?ロイドは困惑する。
「先程リザ様に廊下でお会いして、ご挨拶したら『男爵令嬢風情が侯爵令嬢である私に話し掛けるなんて失礼だわ』と冷たく、それはそれは冷たく言われましたの」
「間違った事は言っていないではないか」
ロイドがそう言うと、ローズはハンカチで眼を押さえて訴える。
「…そ、そうですけど…そう!言い方!言い方ですわ。あんなに冷たく言われて…私…とても傷付きました」
ローズはハラハラと涙を流しながらロイドの胸にもたれようとする。ロイドが一歩引いた時、ロイドとローズの間にロイドの侍従アベルが割り込んだ。ローズはそのままアベルの胸にもたれる形になる。
「……」
「……」
「なっ邪魔しないでよ!」
アベルの胸にもたれたまま固まっていたローズは、我に返るとアベルを突き飛ばすように離れた。
「ロイド様、リザ様は体調不良でお帰りになりました」
アベルはローズを睨むように見たまま言う。
「は?」
帰った?また…避けられた?
「……私も体調が悪くなった。戻る」
「はい」
ロイドが俯いて低い声で言うと、アベルは頷く。
「ロイド殿下!?」
ローズが追い縋ろうとするのを止め、アベルは扉を示して言った。
「エンジェル様、お帰りはあちらです」
秋期が始まり、また寮生活が始まった。
結局、定期茶会を欠席してからロイドには会っていない。学園では学年も違うし、たまに見掛ける程度だ。次に会うのは二週間後の定例茶会だろう。
「とにかく、勉強する!」
リザは机に向かって拳を握る。
前世で進学校へ通っていたくらいなので、リザは勉強が出来る。あまり予習復習していなくても学年十位前後をキープしていたのだ。
サイモン殿下はロイド殿下がローズさんに惹かれているようには見えないと仰っていたけど、どこまで本当か分からないし…例え婚約破棄されたとしても、卒業後はどこかの研究所などに入って手に職つけられるように勉強しておこう。
そうリザは決心し、寮でも夜遅くまで勉学に励んでいた。
二週間後の学園の休日、リザは王宮へとやって来た。
馬車を降りてお茶会のあるテラスを目指して廊下を歩いていると、後ろから「リザさま~」と声が聞こえた。
振り向くと、ローズがこちらへ向かって走って来ていた。
「リザ様、ロイド殿下とのお茶会ですよね?私もご一緒して良いですか?」
ニコッと笑って小首を傾げる。リザは「あざとくてもかわいいなぁ」と思った。
「…ローズ様、ここは王宮で、学園内ではありません。上位の者に下位の者が話し掛けるのは良くない事です。それに王宮の廊下を走るなんて…」
リザは侯爵令嬢、ローズは男爵令嬢。リザが話し掛けて、初めてローズは答える事ができる。そのくらいの身分の差はあるのだ。
「…リザ様、酷いわ」
ローズがウルウルと眼を潤ませる。
あ、これで私が「悪役令嬢」確定?私は当たり前の事を言っただけなのに?
「酷い事は何も言っていませんわ」
「今、私に『男爵令嬢風情が私に話し掛けるなんて』と仰ったわ」
侍女やメイドが遠巻きに見ている。
「…そんな言い方してないわ」
「いいえ!リザ様、酷いわ!」
ローズはポロポロ涙を流しながら踵を返し、廊下を走り去って行った。
呆気に取られてローズの居なくなった廊下を見ていると、遠くで侍女やメイドが何かしら話しているのが目に入る。
…これで「男爵令嬢を苛める王子の婚約者」の出来上がり?なの?
「リザ様、体調が悪くないですか?」
控えていたジューンがリザの側に来て言う。
「え?」
「ええ?頭が痛いのですか?それは大変ですわ。すぐにクロフォード邸へ戻りましょう!」
ジューンはわざとらしく大きな声で言うと、リザの腕を引いた。「帰ろう」と言っているのだ。
「そうね。とても頭が痛くなったわ」
そうリザが言うと、ジューンは王宮の侍女に「リザ様は体調を崩されてやむを得ずお帰りになった、とロイド殿下の侍従にお伝えください」と伝言し、リザの背中に手を当てた。
リザは頭痛を堪えるように片手を額に当ててジューンにもたれるように歩き出した。
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「ロイド殿下!」
「ローズ?」
お茶会の席でリザが来るのを待っていたロイドは、扉から飛び込んで来たのがリザではない事に内心落胆した。
ローズが涙を流しているのにも気付かない。
「ロイド殿下、リザ様が酷いんです~」
ローズが胸の前で手を組んで、ウルウルした瞳でロイドを見上げる。
「は?」
何故リザの名前が出るのか。酷いとは?ロイドは困惑する。
「先程リザ様に廊下でお会いして、ご挨拶したら『男爵令嬢風情が侯爵令嬢である私に話し掛けるなんて失礼だわ』と冷たく、それはそれは冷たく言われましたの」
「間違った事は言っていないではないか」
ロイドがそう言うと、ローズはハンカチで眼を押さえて訴える。
「…そ、そうですけど…そう!言い方!言い方ですわ。あんなに冷たく言われて…私…とても傷付きました」
ローズはハラハラと涙を流しながらロイドの胸にもたれようとする。ロイドが一歩引いた時、ロイドとローズの間にロイドの侍従アベルが割り込んだ。ローズはそのままアベルの胸にもたれる形になる。
「……」
「……」
「なっ邪魔しないでよ!」
アベルの胸にもたれたまま固まっていたローズは、我に返るとアベルを突き飛ばすように離れた。
「ロイド様、リザ様は体調不良でお帰りになりました」
アベルはローズを睨むように見たまま言う。
「は?」
帰った?また…避けられた?
「……私も体調が悪くなった。戻る」
「はい」
ロイドが俯いて低い声で言うと、アベルは頷く。
「ロイド殿下!?」
ローズが追い縋ろうとするのを止め、アベルは扉を示して言った。
「エンジェル様、お帰りはあちらです」
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