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「…とても信じられない…だが、リザ嬢が嘘を言っているようにも見えない」
サイモンはテーブルに手を付いて俯いて言う。
「信じられなくても無理はありませんが、本当に私もローズさんも『転生』したのです」
リザは知る限りの自身の事、ローズの事、ゲームの事をサイモンに全て話した。
真っ直ぐにサイモンを見つめる。
サイモンから眼を逸らすと信じてもらえなくなる気がした。
「ここが…遊戯の世界だと?」
「はい」
「ローズ・エンジェル男爵令嬢が主人公…ヒロインで、私たちが攻略対象者で、狙った相手と両思いになるのを目指すゲーム…」
「はい」
「それで、ヒロインはロイドを狙っているのか」
「はい。ローズさんの前世の人は、このゲームの攻略対象の中ではロイド殿下が推し…一番好きだったそうです。」
「リザ嬢はそのゲームは知らないと言っていたな?」
サイモンは自身の眼を片手で覆う。
「はい。私はそのゲームの中身…粗筋や結末は知りません」
「…そうか」
サイモンは「はあ…」とため息を吐く。
「ヒロインが誰か一人を選んだからといって、この『恋慕』の様な感情がなくなる訳ではないのか…」
自分の胸の辺りを掴んでサイモンが言った。
「私にはその感情を失くす方法は分かりません…申し訳ありません…」
「いや。リザ嬢が謝る事ではない。…もし、ヒロインが誰かと結ばれれば時間と共に消え去る物なのだろうか?」
「それも…分かりません」
「そうか。来春の卒業パーティーでヒロインが誰かと結ばれるのがゲームの終わりか?」
「そうです」
「…よりによって、オリーが卒業する年の卒業パーティーとはな。本当ならオリーが卒業したらすぐ婚姻の準備に入るはずだったが、私にこのような感情があっては婚姻はできん。オリーも自分以外の令嬢に気持ちを置いている相手と結婚するのは嫌だと言うし、私もオリーに対して不誠実な真似はしたくない」
オリーはサイモンの婚約者だ。今、学園の四年生でロイドと同級生だ。
オリーとロイドが最終学年の時と、偶々ゲームの時期とが重なった訳ではなく、王太子の婚約者と第二王子の卒業パーティーにクライマックスを迎えるのがそもそものゲームの設定なのだ。
リザはそう考えたが、それをサイモンに言う事はできなかった。
「オリー様は、サイモン殿下がローズさんを、その…お好き?な事はご存知なんですか?」
リザがおずおずと聞くと、サイモンはふっと笑う。
「ローズ・エンジェル男爵令嬢と初めて会った時、オリーも一緒でね。態度には出さなかったつもりだったが、直ぐに気付かれたよ。…泣かれてしまった」
サイモンは言いながら俯く。
「…私は本当にオリーを大切に思っていた…いや、今も大切だ。オリーを泣かせる自分が嫌で嫌で堪らないんだ」
サイモンは自分の両手を組み合わせ、ぐっと握った。
-----
互いに新しく何か分かれば報告し合う事を約束し、サイモンは王宮へ戻って行った。
「それではサイモン殿下もローズ様に籠絡されたと?」
リザの髪を梳きながらジューンが言う。
「籠絡は、されてないのよ。殿下は、その恋心的な物が自分の感情ではないと思われているんだから」
「自分の感情なのに自分の感情ではない。なのに消す事ができない…そう考えるとサイモン殿下も何だか気の毒ですね」
「本当に。自分の感情を自分が信じられないなんて、恐ろしいと思うわ」
ゲームでは王太子も王太子の婚約者も、第二王子も公爵家の嫡男も、みんなただの登場人物だ。でもここにいる、リザが接する「攻略対象者」たちも皆それぞれ感情がある生身の人間なのだ。
「あ、ジューン、サイモン殿下のお気持ちは…秘中の秘だからね」
「もちろんです」
「少しでも漏れたら死罪よ」
「…もちろんです」
リザはベッドに横になると、枕元のテーブルに飾った花を眺めた。サイモンが預かって来たと言ったロイドからのお見舞いだ。
ベージュピンクの薔薇が一輪と、周りにかすみ草が沢山あしらわれている。
かすみ草…私みたいに地味な引き立て役って意味かしら?
花と一緒に来たカードにはリザの体調不良を心配していると、また会うのを楽しみにしている。と書かれていた。
会うのが楽しみなんて嘘よね。だって、これじゃあローズさんを引き立てる地味令嬢の私だわ。
リザはベージュピンクの薔薇とかすみ草を一瞥すると毛布に潜り込んだ。
「…とても信じられない…だが、リザ嬢が嘘を言っているようにも見えない」
サイモンはテーブルに手を付いて俯いて言う。
「信じられなくても無理はありませんが、本当に私もローズさんも『転生』したのです」
リザは知る限りの自身の事、ローズの事、ゲームの事をサイモンに全て話した。
真っ直ぐにサイモンを見つめる。
サイモンから眼を逸らすと信じてもらえなくなる気がした。
「ここが…遊戯の世界だと?」
「はい」
「ローズ・エンジェル男爵令嬢が主人公…ヒロインで、私たちが攻略対象者で、狙った相手と両思いになるのを目指すゲーム…」
「はい」
「それで、ヒロインはロイドを狙っているのか」
「はい。ローズさんの前世の人は、このゲームの攻略対象の中ではロイド殿下が推し…一番好きだったそうです。」
「リザ嬢はそのゲームは知らないと言っていたな?」
サイモンは自身の眼を片手で覆う。
「はい。私はそのゲームの中身…粗筋や結末は知りません」
「…そうか」
サイモンは「はあ…」とため息を吐く。
「ヒロインが誰か一人を選んだからといって、この『恋慕』の様な感情がなくなる訳ではないのか…」
自分の胸の辺りを掴んでサイモンが言った。
「私にはその感情を失くす方法は分かりません…申し訳ありません…」
「いや。リザ嬢が謝る事ではない。…もし、ヒロインが誰かと結ばれれば時間と共に消え去る物なのだろうか?」
「それも…分かりません」
「そうか。来春の卒業パーティーでヒロインが誰かと結ばれるのがゲームの終わりか?」
「そうです」
「…よりによって、オリーが卒業する年の卒業パーティーとはな。本当ならオリーが卒業したらすぐ婚姻の準備に入るはずだったが、私にこのような感情があっては婚姻はできん。オリーも自分以外の令嬢に気持ちを置いている相手と結婚するのは嫌だと言うし、私もオリーに対して不誠実な真似はしたくない」
オリーはサイモンの婚約者だ。今、学園の四年生でロイドと同級生だ。
オリーとロイドが最終学年の時と、偶々ゲームの時期とが重なった訳ではなく、王太子の婚約者と第二王子の卒業パーティーにクライマックスを迎えるのがそもそものゲームの設定なのだ。
リザはそう考えたが、それをサイモンに言う事はできなかった。
「オリー様は、サイモン殿下がローズさんを、その…お好き?な事はご存知なんですか?」
リザがおずおずと聞くと、サイモンはふっと笑う。
「ローズ・エンジェル男爵令嬢と初めて会った時、オリーも一緒でね。態度には出さなかったつもりだったが、直ぐに気付かれたよ。…泣かれてしまった」
サイモンは言いながら俯く。
「…私は本当にオリーを大切に思っていた…いや、今も大切だ。オリーを泣かせる自分が嫌で嫌で堪らないんだ」
サイモンは自分の両手を組み合わせ、ぐっと握った。
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互いに新しく何か分かれば報告し合う事を約束し、サイモンは王宮へ戻って行った。
「それではサイモン殿下もローズ様に籠絡されたと?」
リザの髪を梳きながらジューンが言う。
「籠絡は、されてないのよ。殿下は、その恋心的な物が自分の感情ではないと思われているんだから」
「自分の感情なのに自分の感情ではない。なのに消す事ができない…そう考えるとサイモン殿下も何だか気の毒ですね」
「本当に。自分の感情を自分が信じられないなんて、恐ろしいと思うわ」
ゲームでは王太子も王太子の婚約者も、第二王子も公爵家の嫡男も、みんなただの登場人物だ。でもここにいる、リザが接する「攻略対象者」たちも皆それぞれ感情がある生身の人間なのだ。
「あ、ジューン、サイモン殿下のお気持ちは…秘中の秘だからね」
「もちろんです」
「少しでも漏れたら死罪よ」
「…もちろんです」
リザはベッドに横になると、枕元のテーブルに飾った花を眺めた。サイモンが預かって来たと言ったロイドからのお見舞いだ。
ベージュピンクの薔薇が一輪と、周りにかすみ草が沢山あしらわれている。
かすみ草…私みたいに地味な引き立て役って意味かしら?
花と一緒に来たカードにはリザの体調不良を心配していると、また会うのを楽しみにしている。と書かれていた。
会うのが楽しみなんて嘘よね。だって、これじゃあローズさんを引き立てる地味令嬢の私だわ。
リザはベージュピンクの薔薇とかすみ草を一瞥すると毛布に潜り込んだ。
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