転生令嬢と王子の恋人

ねーさん

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 何て綺麗な方なのかしら。
 リザは目の前で優雅にお茶を飲むサイモンを見ながらそう思う。
 綺麗すぎて…眩しい。
「リザ嬢、どうして眼を逸らす?」
「眩しくて…」
「ふっ。何だそれは」
 サイモンがクスクスと笑う。麗しい。眼福だ。リザは顔の前で手の平を合わせた。
「そのポーズは何だい?」
「尊い物を拝むポーズです」
「意外と面白い子なんだね。リザ嬢は」
 挨拶をした時に「お忍びだから畏まらなくて良い」と言われたのを良い事に、リザは王太子の前で地を出していた。と、言うよりは緊張し過ぎて取り繕う事もできずにいるのだ。
「今日はどうして…?」
「ロイドがリザ嬢にお見舞いを贈ると聞いて、侍従にこっそり頼んでその役目を譲り受けたんだよ」
「はあ…」
「体調は良さそうだね」
 そうだ!私!体調不良だったわ!
「……今!さっき!治りまして!」
 慌てるリザを見てサイモンが微笑む。
「仮病を咎めるつもりはないよ。ロイドに会いたくなかった?」
「……」
 リザは視線を落とす。サイモンはお茶を一口飲むと
「そういう日もあるさ。気にする事はない」
 と言う。
「それで、今日私が来たのは、リザ嬢に聞きたい事があるからなんだ」
「聞きたい事?」
「そう。ローズ・エンジェル男爵令嬢の事だ」
「…え?」

「ゴヴァン・ニューマンの様子がおかしいんだ」
「ニューマン先生の?」
 ゴヴァンは学園の教師で、生徒会の顧問だ。サイモンの学園時代からの友人でもある。
「熱に浮かされたように『ローズ』『ローズ』と夢中になっている」
「それは…ニューマン先生がローズさんを好きになったと言う事ですか?」
「いくらかわいくても生徒だ。まだ一年生と言う事は15歳か16歳になったばかりだろう?今までのゴヴァンは熟女…年上の女性が好みだったんだ」
 ニューマン先生、熟女専だったのか…
 教師の性癖を意外なルートから知ってしまった。
「それに、一生徒のファーストネームを呼び捨てるなど…そんな事をするような男でもなかった」
「はい…」
 ヒロインの魅力…ゲームの強制力で、ゴヴァンはローズを好きになったのかも、とリザは思った。
「それに、私もローズ・エンジェル男爵令嬢と会った時、奇妙な感覚があった」
「え?」
 真剣な表情になるサイモン。
 いつも微笑みを絶やさないサイモンのこんな表情をリザは初めて見た。
「…ゴヴァンが王宮に連れて来た事がある。一目見て、視線が吸い寄せられ、胸が高鳴った」
「それは…」
 ゲームの強制力でサイモンもローズを好きになったのだろうか?攻略対象者はこうして皆ローズに引き寄せられるのか。
 リザは暗い気持ちになる。が、サイモンは言った。
「私は幼い頃から自身の感情を操作して来た。私がローズ・エンジェル男爵令嬢に『好意』のような物を感じる、この自身の感情に『作為』を感じるんだ」
「…作為?」
「そう。誰かに無理矢理『ローズ・エンジェル男爵令嬢を好きになれ』と感情を操られているように感じる」
 サイモン殿下は強制力に気付いてるんだわ。
 それは王族として常に自分の感情を操作してきたからこそ気付けるのだろう。普通の男性には無理だからそのままローズに惹かれるのだ。
「ローズ・エンジェル男爵令嬢は、今はロイドに執心のようだが」
「…はい」
 リザの胸がまたズキンと痛む。
 ロイド殿下も攻略対象者としてローズさんにドキドキしているの?サイモン殿下のように強制力に気付いてるのかな?気付かずそのまま惹かれている?
「ロイドには私のようにローズ・エンジェル男爵令嬢に惹かれる気持ちはまったくないようだ」
「え?」
 リザはサイモンの顔を見る。
「ロイド殿下はローズさんに惹かれていない…?」
「少なくとも、私の見る限りそのような気持ちはないように見える。ロイドは無表情だが感情は分かりやすい」
 サイモンは頷きながら言う。
「そう、なのですか?」
「ああ。それでロイドの婚約者であるリザ嬢に話を聞きに来た。リザ嬢、私にこの感情は必要ないんだ。この感情を操る物は何なのか、どうすれば消せるのか、もし心当たりがあれば教えて欲しい」
 サイモンはソファから立ち上がると、リザの前に跪いた。

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