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27歳、彼氏いない歴27年の喪女、か。
リサコだって17歳だったけど、勉強ばかりで彼氏なんて居なかったわ。
ローズさんはあんなにかわいい子に転生できて、しかもヒロインなんて…私は転生しても地味なのに…羨ましいなあ。
リザは湖を見ながらぼんやりと考える。
それにしても、ロイド殿下の婚約者がゲームとは違うなんて…どうしてかしら?
「リザ?ぼんやりしてどうしたの?」
リザと同じ琥珀色の瞳が覗き込んで来る。
「お姉様」
「前からぽやんとした子だったけど、この頃ますます酷くない?ねえジューン」
「そうなんです。ヴィクトリア様」
リザの侍女ジューンが頷いた。
「お姉様、酷いです。ジューンも同意しないで」
ヴィクトリアはリザの姉だ。十歳年上で、もう結婚している。ここはヴィクトリアの婚家の別荘だ。夏季休暇なので姉家族と共にリザも遊びに来ているのだった。
「お姉様は眼もパッチリ大きくて、華やかでいいなあ…背も高くなくてかわいらしいし」
「リザだって地味だけどかわいいわよ。急にどうしたの?」
「身内に褒められても…」
考えてみれば、前世のローズが亡くなったのは、今のヴィクトリアと同じ年だ。
そう考えれば早すぎるし、未練があるのも分からなくもない。
「リザ様の婚約者に近付く女生徒がいるんです」
リザが俯くとジューンがヴィクトリアに耳打ちする。耳打ちと言ってもリザに丸聞こえだ。
「ジューン!」
「…背が低くてかわいいのね、その子が」
ヴィクトリアがジューンに耳打ちを返す。やはり丸聞こえだ。
「そうなんです。ものすごくかわいいんです」
「で?殿下はその子になびいてるの?」
「正直わかりませんが、侍女仲間からの情報によると、その子は毎日のように王宮を訪れているとか」
「まあ!毎日!?何してるのかしら?でもそれはもう浮気ね!」
「やめてよ。二人とも!もう!」
ヴィクトリアの3歳になる息子ブライアンがリザのスカートにしがみついて来た。
「リザちゃん遊ぼ」
「…よし、遊ぼうか」
リザは二人の会話を振り払うように立ち上がった。
-----
「リザ様、明日は定例茶会ですね」
王都のクロフォード家の屋敷に戻って数日後、リザの髪を梳きながらジューンが言った。
「…明日はお腹が痛くなる予定なの」
「行かないおつもりで?」
「駄目かな?」
「まあ急な体調不良はどうしようもないですよね」
ジューンは肩を竦めた。
ロイド殿下に会いたくない。
もしまたお茶会にローズさんがが乱入して来たら?毎日王宮を訪れてるんだから、明日だってきっと来るわ。
もし殿下が嬉しそうにローズさんを迎えたら?殿下とローズさんの話が弾んだら?殿下がローズさんに笑顔を見せたら?
どうしても想像がつかないロイドの笑顔。それをローズにだけ向けるの様子を思い浮かべ、リザの胸はきゅうううと傷んだ。
「…避けられた」
翌日、リザの家からの「娘は体調不良なので本日の定例茶会は欠席させます」という知らせを受け、ロイドは執務室で俯いて呟いた。
「本当に体調不良かも知れないじゃないですか」
侍従のアベルが呆れたように言う。
「俺と会うのが嫌で体調を崩したんだ。きっと」
「ロイド殿下…どうしてリザ様の事になるとそんなに後ろ向きになるんです?」
アベルはため息混じりに言った。
「……」
「リザ様にお見舞いを贈りましょう」
「…嫌な男から贈り物を貰っても迷惑だろう?」
「そうと決まった訳じゃないでしょう!…お花とカードを手配しておきますよ!」
「…頼む」
「どうしてリザ様の前では素のロイド殿下を出さないんですか?」
「…出さないんじゃなく、出せない」
サイモンやロイドは王子なので、昔から人に感情を読まれないよう訓練して来た。結果、サイモンは誰にでも等しく人当たり良く、ロイドは誰にでも等しく無愛想になったのだった。
トントンと執務室にノックの音がして、おずおずと侍女が顔を出す。
「あのう…エンジェル男爵令嬢がお見えですが…」
ロイドはガタンと音を立てて立ち上がる。
「今日は俺も体調不良だ!」
そう言って執務室を出て行った。
「リザ様、ロイド殿下からお見舞いが届いているんですが…その…」
リザの部屋に来た執事がとても言いにくそうにしていて、リザは首を傾げる。
「まさか、ロイド殿下が持って来られたとか?」
「いえ、ロイド殿下ではなく…」
「まさか」
ローズさんが?
そうリザが身構えると、執事が言った。
「サイモン王太子殿下がお越しです」
「はあ!?」
リザは叫びながらソファから飛び上がるように立ち上がった。
27歳、彼氏いない歴27年の喪女、か。
リサコだって17歳だったけど、勉強ばかりで彼氏なんて居なかったわ。
ローズさんはあんなにかわいい子に転生できて、しかもヒロインなんて…私は転生しても地味なのに…羨ましいなあ。
リザは湖を見ながらぼんやりと考える。
それにしても、ロイド殿下の婚約者がゲームとは違うなんて…どうしてかしら?
「リザ?ぼんやりしてどうしたの?」
リザと同じ琥珀色の瞳が覗き込んで来る。
「お姉様」
「前からぽやんとした子だったけど、この頃ますます酷くない?ねえジューン」
「そうなんです。ヴィクトリア様」
リザの侍女ジューンが頷いた。
「お姉様、酷いです。ジューンも同意しないで」
ヴィクトリアはリザの姉だ。十歳年上で、もう結婚している。ここはヴィクトリアの婚家の別荘だ。夏季休暇なので姉家族と共にリザも遊びに来ているのだった。
「お姉様は眼もパッチリ大きくて、華やかでいいなあ…背も高くなくてかわいらしいし」
「リザだって地味だけどかわいいわよ。急にどうしたの?」
「身内に褒められても…」
考えてみれば、前世のローズが亡くなったのは、今のヴィクトリアと同じ年だ。
そう考えれば早すぎるし、未練があるのも分からなくもない。
「リザ様の婚約者に近付く女生徒がいるんです」
リザが俯くとジューンがヴィクトリアに耳打ちする。耳打ちと言ってもリザに丸聞こえだ。
「ジューン!」
「…背が低くてかわいいのね、その子が」
ヴィクトリアがジューンに耳打ちを返す。やはり丸聞こえだ。
「そうなんです。ものすごくかわいいんです」
「で?殿下はその子になびいてるの?」
「正直わかりませんが、侍女仲間からの情報によると、その子は毎日のように王宮を訪れているとか」
「まあ!毎日!?何してるのかしら?でもそれはもう浮気ね!」
「やめてよ。二人とも!もう!」
ヴィクトリアの3歳になる息子ブライアンがリザのスカートにしがみついて来た。
「リザちゃん遊ぼ」
「…よし、遊ぼうか」
リザは二人の会話を振り払うように立ち上がった。
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「リザ様、明日は定例茶会ですね」
王都のクロフォード家の屋敷に戻って数日後、リザの髪を梳きながらジューンが言った。
「…明日はお腹が痛くなる予定なの」
「行かないおつもりで?」
「駄目かな?」
「まあ急な体調不良はどうしようもないですよね」
ジューンは肩を竦めた。
ロイド殿下に会いたくない。
もしまたお茶会にローズさんがが乱入して来たら?毎日王宮を訪れてるんだから、明日だってきっと来るわ。
もし殿下が嬉しそうにローズさんを迎えたら?殿下とローズさんの話が弾んだら?殿下がローズさんに笑顔を見せたら?
どうしても想像がつかないロイドの笑顔。それをローズにだけ向けるの様子を思い浮かべ、リザの胸はきゅうううと傷んだ。
「…避けられた」
翌日、リザの家からの「娘は体調不良なので本日の定例茶会は欠席させます」という知らせを受け、ロイドは執務室で俯いて呟いた。
「本当に体調不良かも知れないじゃないですか」
侍従のアベルが呆れたように言う。
「俺と会うのが嫌で体調を崩したんだ。きっと」
「ロイド殿下…どうしてリザ様の事になるとそんなに後ろ向きになるんです?」
アベルはため息混じりに言った。
「……」
「リザ様にお見舞いを贈りましょう」
「…嫌な男から贈り物を貰っても迷惑だろう?」
「そうと決まった訳じゃないでしょう!…お花とカードを手配しておきますよ!」
「…頼む」
「どうしてリザ様の前では素のロイド殿下を出さないんですか?」
「…出さないんじゃなく、出せない」
サイモンやロイドは王子なので、昔から人に感情を読まれないよう訓練して来た。結果、サイモンは誰にでも等しく人当たり良く、ロイドは誰にでも等しく無愛想になったのだった。
トントンと執務室にノックの音がして、おずおずと侍女が顔を出す。
「あのう…エンジェル男爵令嬢がお見えですが…」
ロイドはガタンと音を立てて立ち上がる。
「今日は俺も体調不良だ!」
そう言って執務室を出て行った。
「リザ様、ロイド殿下からお見舞いが届いているんですが…その…」
リザの部屋に来た執事がとても言いにくそうにしていて、リザは首を傾げる。
「まさか、ロイド殿下が持って来られたとか?」
「いえ、ロイド殿下ではなく…」
「まさか」
ローズさんが?
そうリザが身構えると、執事が言った。
「サイモン王太子殿下がお越しです」
「はあ!?」
リザは叫びながらソファから飛び上がるように立ち上がった。
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