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学園の食堂に入って来たロイドは、真っ直ぐに隅の席に座るリザの元へと歩いて行く。
周りの生徒がそれに気付き、興味深気にロイドを見ていた。
「リザ」
立ち止まってリザに声を掛けると、ザワッと周りがあからさまに騒めいた。
「殿下。どうぞ座ってください」
リザがニコリと笑って自分の隣の席を勧めると「ああ」と頷いて座る。
リザの斜め前に座っていたジェイクが慌てて立ち上がった。
「俺!あ、私が何か買って来ます!でで殿下」
「ああ。ではAランチを」
「ははは、はい!」
ジェイクが走るように売り場に行くと、リザは思わず吹き出した。
「ジェイク、演技下手すぎじゃない?」
小声で言うと、リザの前に座ったステラが肩を竦める。
「無理もないわ。何しろ殿下ですもの。緊張しているのよ」
「ステラ嬢は緊張しないのか?いや、緊張しなくて良いのだが」
ロイドが言うとステラはもう一度肩を竦める。
「緊張しておりますが、あまり顔に出ない質なのですわ」
「いえ、ステラは緊張してないわね」
「してないようにしか見えんな」
リザとロイドは顔を見合わせて頷く。ステラは「ほほほ」と笑った。
周りはザワザワと騒めいている。
リザの「悪役令嬢化」を防ぐため、ロイドとリザの仲が悪いと言う噂を払拭するよう、昼食を一緒に摂る事を決めた。
ステラとジェイクには事前にロイドが来るから自然に振る舞って欲しいと頼んであったが、やはりジェイクは王子を前に緊張したらしい。
若干緊張の面持ちのジェイクと楽し気なリザとステラ、時折り話に入るロイド。
その様子に生徒会の面々に囲まれたローズが気付く。
「…ヒロインは私だって言ったのに…何で?」
「ローズ?何か言ったか?」
ランドルフがローズに話し掛けると、ローズは首を振って笑顔をランドルフに向けた。
「ふふ。お腹すいちゃったな!って」
「そうか。じゃあ早く行こう」
「はい!」
かわいらしく頷いて、もう一度リザたちに目を向ける。
「…もっと追い込まなきゃ」
ローズは小さく呟いた。
-----
「リザ・クロフォード侯爵令嬢」
放課後、図書室からの帰りの廊下で声を掛けられ、振り向くと、クリストファー・マーシャルが立っていた。クリストファーは公爵家の嫡男で、サイモン王太子殿下の婚約者であるオリーの弟、生徒会書記の二年生だ。
「マーシャル様?」
「…クリスと」
クリストファーは俯きながら言い辛そうに言う。
「ではクリス様。どうなさいました?」
「お前…リザ嬢に、聞きたい事がある」
「…何でしょう?」
「俺は姉上が大好きだ!」
クリストファーは叫ぶ様に言った。
「…はい?オリー様?」
「姉上は綺麗で優しくて王太子妃教育も頑張っていて、俺にとっては自慢の姉だ!」
「はい」
「なのにある日突然…俺は姉上が憎くなった」
「え?」
「急に、ローズの邪魔をする存在に見えて…」
クリストファーは自分の手を握りしめて言った。
「それは…」
ヒロインが王太子殿下の好感度を上げようとした時に働いた強制力ではないのか。攻略対象者は皆ヒロインのライバル令嬢を敵視しているのだ。
「今は随分和らいだが…まだ憎い気持ちが消えない」
ローズがロイドのルートに入ったので、和らいだのだろう。
実の姉なのに憎く感じるなんて…では態度にまったく出ていなかったけどサイモン殿下も私の事を憎らしく思っていたの?
ローズが選んだのはロイドのルートだ。攻略対象者たちはリザを特に憎んでいるのだろう。
「俺は姉上が大好きで、確かにその気持ちもあるのに、何故こんな感情を持つ?」
「…クリス様、私の事、ものすごく憎らしい、ですよね?」
「……」
さすがに面と向かって言葉にするのは憚られたのか、クリストファーは無言で頷いた。
「それに、リード様の婚約者様とスペンサー様の婚約者様も、嫌いではありませんか?私ほどではないでしょうけど…」
「…何故分かる?」
クリストファーにはまだ婚約者がいない。いなくて良かったとリザは思った。
「それは……クリス様は何故その憎らしい私にこの話を?」
「姉上が『リザ様と話せて良かった』と、この間言っていたからだ」
「オリー様が…」
クリストファーがオリーを憎いと思うのは、オリーの婚約者サイモンが攻略対象者だからだが、リザやローズが転生者である事も、ここがゲームの世界で強制力が働いている事も軽々しく口にはできない。ましてサイモンがローズに惹かれている事は秘中の秘なのだ。
クリストファーに何と説明すれば良いか、リザは言葉に詰まってしまった。
学園の食堂に入って来たロイドは、真っ直ぐに隅の席に座るリザの元へと歩いて行く。
周りの生徒がそれに気付き、興味深気にロイドを見ていた。
「リザ」
立ち止まってリザに声を掛けると、ザワッと周りがあからさまに騒めいた。
「殿下。どうぞ座ってください」
リザがニコリと笑って自分の隣の席を勧めると「ああ」と頷いて座る。
リザの斜め前に座っていたジェイクが慌てて立ち上がった。
「俺!あ、私が何か買って来ます!でで殿下」
「ああ。ではAランチを」
「ははは、はい!」
ジェイクが走るように売り場に行くと、リザは思わず吹き出した。
「ジェイク、演技下手すぎじゃない?」
小声で言うと、リザの前に座ったステラが肩を竦める。
「無理もないわ。何しろ殿下ですもの。緊張しているのよ」
「ステラ嬢は緊張しないのか?いや、緊張しなくて良いのだが」
ロイドが言うとステラはもう一度肩を竦める。
「緊張しておりますが、あまり顔に出ない質なのですわ」
「いえ、ステラは緊張してないわね」
「してないようにしか見えんな」
リザとロイドは顔を見合わせて頷く。ステラは「ほほほ」と笑った。
周りはザワザワと騒めいている。
リザの「悪役令嬢化」を防ぐため、ロイドとリザの仲が悪いと言う噂を払拭するよう、昼食を一緒に摂る事を決めた。
ステラとジェイクには事前にロイドが来るから自然に振る舞って欲しいと頼んであったが、やはりジェイクは王子を前に緊張したらしい。
若干緊張の面持ちのジェイクと楽し気なリザとステラ、時折り話に入るロイド。
その様子に生徒会の面々に囲まれたローズが気付く。
「…ヒロインは私だって言ったのに…何で?」
「ローズ?何か言ったか?」
ランドルフがローズに話し掛けると、ローズは首を振って笑顔をランドルフに向けた。
「ふふ。お腹すいちゃったな!って」
「そうか。じゃあ早く行こう」
「はい!」
かわいらしく頷いて、もう一度リザたちに目を向ける。
「…もっと追い込まなきゃ」
ローズは小さく呟いた。
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「リザ・クロフォード侯爵令嬢」
放課後、図書室からの帰りの廊下で声を掛けられ、振り向くと、クリストファー・マーシャルが立っていた。クリストファーは公爵家の嫡男で、サイモン王太子殿下の婚約者であるオリーの弟、生徒会書記の二年生だ。
「マーシャル様?」
「…クリスと」
クリストファーは俯きながら言い辛そうに言う。
「ではクリス様。どうなさいました?」
「お前…リザ嬢に、聞きたい事がある」
「…何でしょう?」
「俺は姉上が大好きだ!」
クリストファーは叫ぶ様に言った。
「…はい?オリー様?」
「姉上は綺麗で優しくて王太子妃教育も頑張っていて、俺にとっては自慢の姉だ!」
「はい」
「なのにある日突然…俺は姉上が憎くなった」
「え?」
「急に、ローズの邪魔をする存在に見えて…」
クリストファーは自分の手を握りしめて言った。
「それは…」
ヒロインが王太子殿下の好感度を上げようとした時に働いた強制力ではないのか。攻略対象者は皆ヒロインのライバル令嬢を敵視しているのだ。
「今は随分和らいだが…まだ憎い気持ちが消えない」
ローズがロイドのルートに入ったので、和らいだのだろう。
実の姉なのに憎く感じるなんて…では態度にまったく出ていなかったけどサイモン殿下も私の事を憎らしく思っていたの?
ローズが選んだのはロイドのルートだ。攻略対象者たちはリザを特に憎んでいるのだろう。
「俺は姉上が大好きで、確かにその気持ちもあるのに、何故こんな感情を持つ?」
「…クリス様、私の事、ものすごく憎らしい、ですよね?」
「……」
さすがに面と向かって言葉にするのは憚られたのか、クリストファーは無言で頷いた。
「それに、リード様の婚約者様とスペンサー様の婚約者様も、嫌いではありませんか?私ほどではないでしょうけど…」
「…何故分かる?」
クリストファーにはまだ婚約者がいない。いなくて良かったとリザは思った。
「それは……クリス様は何故その憎らしい私にこの話を?」
「姉上が『リザ様と話せて良かった』と、この間言っていたからだ」
「オリー様が…」
クリストファーがオリーを憎いと思うのは、オリーの婚約者サイモンが攻略対象者だからだが、リザやローズが転生者である事も、ここがゲームの世界で強制力が働いている事も軽々しく口にはできない。ましてサイモンがローズに惹かれている事は秘中の秘なのだ。
クリストファーに何と説明すれば良いか、リザは言葉に詰まってしまった。
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