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「それで、ここにリザ嬢が来ていないのか」
休日に、リザはクリストファーを伴って王宮に来た。ロイドに事情を説明し、サイモンに取次いでもらう。
ロイドとクリストファーがサイモンの執務室に行くのを、リザは応接室から見送った。サイモンにリザを憎らしいと思う気持ちがあるのなら、会わない方が良いだろうと考えたのだ。
「リザ嬢は優しい子だな、ロイド」
「ええ」
「何故ですか?」
クリストファーがそう問うと、サイモンは言った。
「リザ嬢は憎らしい相手と会っても顔に出さない私に負担を掛けまいとしているんだ」
暫くして、応接室にロイドが入って来る。
「リザ」
「ロイド殿下、クリス様とのお話は終わられましたか?」
「ああ。これからお茶にする。兄上がリザも一緒に、と言っている。行くか?」
「サイモン殿下が?」
「リザが行かないと言うなら二人きりでお茶できるから、俺としてはどちらでも良いぞ」
無表情で言うロイドの台詞に、リザは慌ててしまう。
「ロイド殿下!?何ですか急に」
「リザが『態度で示せ』と言ったから、示そうかと」
「あ…そう、言いましたね。確かに」
「耳が赤い」
「…急にそういう空気出すからですよ!もう!行きますよ」
リザはソファから立ち上がるとロイドの先に立って歩き出した。
-----
「リザ嬢、今日はクリスと話す機会を作ってくれてありがとう」
サイモンが微笑んで言う。
クリスは呆然としているようだ。
「あの、サイモン殿下…私が居て大丈夫ですか?」
リザが窺うように言うと、サイモンは頷いた。
「ああ。私が自分の感情を操るのは得意なのは知っているだろう?特にリザ嬢に感じる『憎悪』の様な物は、自分で分析し『根拠がない』と思えれば他人事のように隅に追いやる事ができるんだよ。つまり私の中にはリザ嬢を嫌う理由がない。だからこれは自分の感情ではない。と」
「隅に追いやる…ですか?」
「そう。だから無理矢理抑えている訳ではないからリザ嬢は心配しなくて大丈夫だ。…この方法が『恋慕』にも使えると良かったのだが…」
「違う物なのですか?」
「そうなんだ。その感情には理由がない。突き詰めて分析しても『しかし』『やっぱり』と思ってしまう。だから押さえつけて抑えるだけで、隅に追いやる事ができない」
人を好きになるのに理由はないって言うものね。まして「恋」は「する」ものじゃなく「落ちる」ものとか言うし。
「私の、この、ローズが好きと言う感情も、強制力…?」
クリストファーが俯いたまま独り言のように呟く。
「そうだ。姉であるオリーやリザ嬢を憎らしく思うのも、お前自身の真の感情ではないんだ」
サイモンが言うと、クリストファーは顔を上げる。
「クリス、お前は姉の事が大好きな弟だ。それが本当の事だ」
「サイモン殿下…」
クリストファーの目に涙が滲んだ。
お茶の後、ロイドが王宮の出入口までリザを送ってくれた。
「サイモン殿下は凄いお方ね」
「…確かに兄上は凄い。俺も感情の操作は幼い頃からしているが、自分の感情が本当の自分の感情ではないと、気付く事など…出来るだろうか?」
サイモンは転生者の存在もゲームの強制力の事も知らない内から自分の感情の違和感に気付いていたのだ。
自分で自分の感情を信じられないなんて、きっとすごく怖くてすごく不安だわ。
「…確かに兄上は凄いが」
ロイドが立ち止まる。リザも足を止めてロイドの方へ振り向いた。
「ロイド殿下?」
「リザは俺が幸せにするんだから、兄上には惚れないでくれ」
「なっ!」
ロイドは真面目な表情で言うと、頬を赤くするリザの手を取り指を絡めた。
「…態度で示してる」
「わかりましたから不意打ちはやめてください」
「予告をする方が難しいな、それは」
二人は王宮の出入口までそのまま手を繋いで歩いた。
「それで、ここにリザ嬢が来ていないのか」
休日に、リザはクリストファーを伴って王宮に来た。ロイドに事情を説明し、サイモンに取次いでもらう。
ロイドとクリストファーがサイモンの執務室に行くのを、リザは応接室から見送った。サイモンにリザを憎らしいと思う気持ちがあるのなら、会わない方が良いだろうと考えたのだ。
「リザ嬢は優しい子だな、ロイド」
「ええ」
「何故ですか?」
クリストファーがそう問うと、サイモンは言った。
「リザ嬢は憎らしい相手と会っても顔に出さない私に負担を掛けまいとしているんだ」
暫くして、応接室にロイドが入って来る。
「リザ」
「ロイド殿下、クリス様とのお話は終わられましたか?」
「ああ。これからお茶にする。兄上がリザも一緒に、と言っている。行くか?」
「サイモン殿下が?」
「リザが行かないと言うなら二人きりでお茶できるから、俺としてはどちらでも良いぞ」
無表情で言うロイドの台詞に、リザは慌ててしまう。
「ロイド殿下!?何ですか急に」
「リザが『態度で示せ』と言ったから、示そうかと」
「あ…そう、言いましたね。確かに」
「耳が赤い」
「…急にそういう空気出すからですよ!もう!行きますよ」
リザはソファから立ち上がるとロイドの先に立って歩き出した。
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「リザ嬢、今日はクリスと話す機会を作ってくれてありがとう」
サイモンが微笑んで言う。
クリスは呆然としているようだ。
「あの、サイモン殿下…私が居て大丈夫ですか?」
リザが窺うように言うと、サイモンは頷いた。
「ああ。私が自分の感情を操るのは得意なのは知っているだろう?特にリザ嬢に感じる『憎悪』の様な物は、自分で分析し『根拠がない』と思えれば他人事のように隅に追いやる事ができるんだよ。つまり私の中にはリザ嬢を嫌う理由がない。だからこれは自分の感情ではない。と」
「隅に追いやる…ですか?」
「そう。だから無理矢理抑えている訳ではないからリザ嬢は心配しなくて大丈夫だ。…この方法が『恋慕』にも使えると良かったのだが…」
「違う物なのですか?」
「そうなんだ。その感情には理由がない。突き詰めて分析しても『しかし』『やっぱり』と思ってしまう。だから押さえつけて抑えるだけで、隅に追いやる事ができない」
人を好きになるのに理由はないって言うものね。まして「恋」は「する」ものじゃなく「落ちる」ものとか言うし。
「私の、この、ローズが好きと言う感情も、強制力…?」
クリストファーが俯いたまま独り言のように呟く。
「そうだ。姉であるオリーやリザ嬢を憎らしく思うのも、お前自身の真の感情ではないんだ」
サイモンが言うと、クリストファーは顔を上げる。
「クリス、お前は姉の事が大好きな弟だ。それが本当の事だ」
「サイモン殿下…」
クリストファーの目に涙が滲んだ。
お茶の後、ロイドが王宮の出入口までリザを送ってくれた。
「サイモン殿下は凄いお方ね」
「…確かに兄上は凄い。俺も感情の操作は幼い頃からしているが、自分の感情が本当の自分の感情ではないと、気付く事など…出来るだろうか?」
サイモンは転生者の存在もゲームの強制力の事も知らない内から自分の感情の違和感に気付いていたのだ。
自分で自分の感情を信じられないなんて、きっとすごく怖くてすごく不安だわ。
「…確かに兄上は凄いが」
ロイドが立ち止まる。リザも足を止めてロイドの方へ振り向いた。
「ロイド殿下?」
「リザは俺が幸せにするんだから、兄上には惚れないでくれ」
「なっ!」
ロイドは真面目な表情で言うと、頬を赤くするリザの手を取り指を絡めた。
「…態度で示してる」
「わかりましたから不意打ちはやめてください」
「予告をする方が難しいな、それは」
二人は王宮の出入口までそのまま手を繋いで歩いた。
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