転生令嬢と王子の恋人

番外編5

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「まあ、収まる所へ収まったなら良かったわ」
　イリスがため息混じりに言い、オリーは肩を竦めた。
「イリスが話しを聞いてくれるだけですごくありがたいわ」
　いつも通り、イリスがオリーに会いにマーシャル邸を訪れていた。
「それで？お世継ぎ問題はどうするの？先送り？」
「殿下は『子が出来なければロイドとロイドの子が王位を継げば良い』って」
「それは…ロイド殿下はともかくリザ様が嫌がりそうね…」
　実際リザにサイモンの言葉を伝えた処「私なんかが王妃になるなんてとんでもないです！しかも国母なんて無理無理無理！」と言っていた。
「でもリザ様ならなんだかんだ文句言いつつやれそうだけど」
「そうよね」
　脳内のリザが「やめて～」と叫んでいる。
「ハリジュ殿下は？」
「リザ様の薬事件の時、居合わせたのが心の傷になってて『僕は絶対に王位継承には関わらない！子供なんていらない！結婚もしない！薬の研究をする！』って」
「ああ～」
　サイモンとロイドの弟ハリジュはまだ10歳だが、同じようにあの事件以来薬に興味を持ったリザとよく一緒に王宮の図書室にいる。将来は薬学研究所に勤めたいらしい。
「実際はそんなに簡単に進む話ではないんだろうと思うの。でも殿下は『側妃は娶らない』っておっしゃるから…」
　いつか、周囲からの世継ぎを望む声に、オリーは挫けてしまうかも知れないと思う。それでも今はサイモンを信じたい。
「それでね、来年の秋に婚儀をすることになったの」
「来年の秋だと私の結婚式の少し後ね」
　イリスも若くして伯爵位を継いだ婚約者との結婚式を来年に控えていた。
「それでね、イリスに私の侍女になって欲しいの。もちろん通いで良いから」
「そうね。結婚後の事だから婚約者にも相談してみるわ」

－－－－－

　その年の冬、国王陛下が病に倒れた。
　そしてわずか一カ月で崩御。国葬が終わり、春にはサイモンの王位継承の儀が執り行われる事となる。

「オリー、戴冠式と同時に婚儀を行いたいのだが…無理か？」
　執務室でサイモンが書類を机に置きながら言う。席を立つと、オリーがいるソファの向かい側へと座った。
　国王の急逝で執務の増えたサイモンは、定例茶会の時間も取れないため、オリーが執務室を訪れ短い休憩にお茶を共にする事が増えた。
「同時に？」
　侍女は紅茶をサイモンの前に置くと、部屋を出て行く。部屋にはオリーとサイモン、サイモンの侍従の三人がいる。
「戴冠式まであと三カ月しかないが…」
「三カ月では無理ではないですか？ドレスも間に合いませんよ」
　侍従が言うと、サイモンは顎に手を当てて考える。
「ドレスか…」
「殿下、ドレスは王妃殿下が婚儀でお召しになった物を借りては…どうでしょう？」
「母上の？」
「殿下は陛下が亡くなられて落ち込まれている王妃殿下や国民の皆を元気付けるために婚儀を一緒に執り行おうとされているんでしょう？」
「ああ」
「私が王妃殿下の御衣装を纏えば王妃殿下のお気持ちが少しは慰められないかしら？」
「そうだな…」
「確認して参ります」
「あ、でも王妃殿下がお嫌なら無理にとは言わないでね。陛下との大切な思い出でしょうから」
　侍従は「御意」と言うと部屋を出て行く。
「オリー」
　サイモンは侍従が出て行くと、オリーの隣へと移動する。
「はい」
　オリーを緩く抱き込むと「はあ」と息を吐いた。
「…お疲れですか？」
　オリーもサイモンの背中へ手を回す。最近は二人きりになるといつもサイモンはこうしてオリーを抱きしめていた。
「ああ。オリーとこうしていると落ち着く」
「サイモン様、意外と甘え上手ですよね」
　サイモンの背中を撫でる。
「嫌か？」
「いいえ。逆です」
　かわいいな、と思うのはサイモンには内緒だ。
「…オリー、新品のドレスでなくて良いのか？」
「私はサイモン様と結婚できるなら、衣装は何でも良いんです」
　サイモンはオリーを抱く腕に力を入れる。
「…私は早くオリーと結婚したくて無理を言っている」
「え？」
「早くこうしてオリーを抱いて眠りたい」
「…眠れていないんですか？」
「そう言う訳ではないが、たまに夜中に目が覚める。覚悟が足りないんだろうな。まだ」
「どんなに覚悟を決めていても、不安や重圧はありますよ。私で良ければ頑張って抱き枕としてサイモン様を癒します！」
　オリーは下からサイモンを見上げながら言う。
「頼む」
　サイモンは破顔するとオリーに口付けを落とした。

－－－－－

　春、戴冠式と同日に婚儀が執り行われた。

　結婚後、懐妊の兆しのない国王夫妻へ周囲は「側妃を娶れ」と迫るが、国王は頑として頷かなかったと言う。

　そして、結婚から六年目、国王夫妻に第一子である王子が誕生。翌年には第二子の王子が誕生したのだった。



　　ー完ー