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学園の制服姿のパトリシアはアランの病室のベッドの傍に立ち、アランの顔を眺めていた。
以前より眉間の皺も減って、呼吸も楽そうになって来たわ。
「アラン、今日から秋期なのよ。私も学園へ行って来るね。あ、でも授業が終わったら毎日ここに来るわ」
だから、早く目覚めて。
「パトリシア、行こう」
扉の側に立っていたアレンが言う。
「じゃあ行って来るね。アラン」
馬車に乗り、向かい合って座る。
「…アレン殿下もお元気になられて良かったです。でもまだ少し呼吸が浅そう…」
「その通りだ。わかるのか?」
「あ、いえ。何となくです」
「さすが幼なじみだな」
アレンが微笑む。
幼なじみだからって「呼吸が浅い」までわかるなんて…気持ち悪く思われなかったかしら。
それと、髪も。いつも通り後ろで束ねているけど…何となく、付け毛のような気がする。
本当に何となくそう思うだけだけど…ああ、本当に我ながら気持ち悪いわ。
-----
始業式のために生徒が講堂に集まる。
舞踏会ではパーティー会場だった講堂も、今は殺風景なフロアと舞台の上に演台があるだけだ。
「パトリシア様、アレン殿下と一緒に来たの?」
エリザベスが近寄って来てパトリシアに声を掛けた。
「ええ。私が朝アラン殿下の所に寄っていたので」
「ああ…アラン殿下はどうなの?」
「まだ目が覚めないんです」
「そう…アレン殿下、先程ご挨拶したけれどお元気になられていたから、アラン殿下もきっともうすぐ目覚められるわよ」
「…ありがとうございます。エリザベス様」
「ライネル・コーンウェルもロード・フェアリも姿が見えないわね」
「そうですね…」
目立たないように二人で周りを見回す。
「ビビアン・ミルトンの事…アラン殿下たち、どうなるのかしら?」
「さあ…」
パトリシアは首を傾げた。
この事は考えないようにしている。アランの処罰も、私の処遇も、全てはアランが目覚めてからだから。
学園長が舞台上に出てきて、生徒たちは静かになった。
挨拶が始まる。
突然、天井のスプリンクラーから雨の様に水が降り始めた。
「きゃあ!」
「冷たい」
「何だ!?」
バシャバシャと水が降り、生徒たちが騒ぐ。
「開かない!」
「閉まってるぞ」
「危ない!押すな!」
講堂の出入り口の扉が開かないらしく、一部の生徒たちが声を上げた。
「何だ!?」
舞台の袖に居たアレンたち生徒会役員は天井から水が落ちる音と生徒たちの声に驚いて、講堂のフロアを見た。
「天井の消火装置から水が…」
「屋上の貯水槽を見て来い!」
「はい!」
舞台の近くに居たサポートメンバーが走り出した。
「エリザベス様、大丈夫ですか?」
「パトリシア様こそ」
「ただのお水みたいだから…そんなに濡れなかったですし」
「消火装置の誤作動かしら?」
話をしていると、目の前の景色が揺れた。
え?何だか甘い匂いが…
瞬きを繰り返しながらエリザベスを見ると、エリザベスも何か異常を感じている様で、キョロキョロと辺りを見回していた。
「エリザベス様…」
手を伸ばそうとして、グラリと身体が傾いた。
「パトリシア様…きゃあ!」
エリザベスは膝の力が抜け、ガクンとその場に膝をついた。
「エリ…」
パトリシアも傾く身体を支えられず、横向きに倒れる。エリザベスも膝をついた姿勢から前にパタリと倒れた。
周りでも同じように、生徒がバタバタと倒れていた。
手足に力が入らない。何これ…何が起きてるの?
それに、身体が…熱い?
身体の芯が熱せられているようだ。
「はっ。はっ」
あまりの熱さに息が苦しくなる。
エリザベスも床に横たわってハアハアと短い息をしていた。
「これはね、催淫剤なんだよ。パトリシアちゃん」
頭元に黒い靴が見える。
パトリシアがその人を見上げると、立っていたのはロードだった。
「ロード…」
「空調に乗せて流したんだ。ああ、でも同時に身体の自由を奪う作用もあるから、どちらかと言えば拷問に近いね。だって発情してるのに自慰も儘ならないんだから。でも効き目も精々三十分って処だし、だからここで学園生による乱交パーティーになったりはしないから安心して」
口角を上げてパトリシアを見下ろしながら言うロード。
何が安心だ。パトリシアはロードを睨み付けた。
「ああ、俺割とMだから、そう言う目で見られるとゾクゾクする」
「はっなっ…んで…?はっ」
「何で俺は平気なのか、かな?アランから聞いてない?俺たちが媚薬に慣れる練習してた事」
「は?」
媚薬に慣れる練習?寮の部屋を行き来してるって…そんな事してたの?
「だから今この場で動けるのは、俺と、居ないけどアランと、王族だから毒物に身体を慣らしてるアレンくらいかなあ」
アレン…?アレンが…何…
「と、言う訳で、行こうか。パトリシアちゃん」
どこへ…行くの…
思考が纏まらなくなって来たパトリシアを見ながら、ロードはにっこりと笑って言った。
「コンプリートできないなら、強引に俺の物にするしかないからね」
学園の制服姿のパトリシアはアランの病室のベッドの傍に立ち、アランの顔を眺めていた。
以前より眉間の皺も減って、呼吸も楽そうになって来たわ。
「アラン、今日から秋期なのよ。私も学園へ行って来るね。あ、でも授業が終わったら毎日ここに来るわ」
だから、早く目覚めて。
「パトリシア、行こう」
扉の側に立っていたアレンが言う。
「じゃあ行って来るね。アラン」
馬車に乗り、向かい合って座る。
「…アレン殿下もお元気になられて良かったです。でもまだ少し呼吸が浅そう…」
「その通りだ。わかるのか?」
「あ、いえ。何となくです」
「さすが幼なじみだな」
アレンが微笑む。
幼なじみだからって「呼吸が浅い」までわかるなんて…気持ち悪く思われなかったかしら。
それと、髪も。いつも通り後ろで束ねているけど…何となく、付け毛のような気がする。
本当に何となくそう思うだけだけど…ああ、本当に我ながら気持ち悪いわ。
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始業式のために生徒が講堂に集まる。
舞踏会ではパーティー会場だった講堂も、今は殺風景なフロアと舞台の上に演台があるだけだ。
「パトリシア様、アレン殿下と一緒に来たの?」
エリザベスが近寄って来てパトリシアに声を掛けた。
「ええ。私が朝アラン殿下の所に寄っていたので」
「ああ…アラン殿下はどうなの?」
「まだ目が覚めないんです」
「そう…アレン殿下、先程ご挨拶したけれどお元気になられていたから、アラン殿下もきっともうすぐ目覚められるわよ」
「…ありがとうございます。エリザベス様」
「ライネル・コーンウェルもロード・フェアリも姿が見えないわね」
「そうですね…」
目立たないように二人で周りを見回す。
「ビビアン・ミルトンの事…アラン殿下たち、どうなるのかしら?」
「さあ…」
パトリシアは首を傾げた。
この事は考えないようにしている。アランの処罰も、私の処遇も、全てはアランが目覚めてからだから。
学園長が舞台上に出てきて、生徒たちは静かになった。
挨拶が始まる。
突然、天井のスプリンクラーから雨の様に水が降り始めた。
「きゃあ!」
「冷たい」
「何だ!?」
バシャバシャと水が降り、生徒たちが騒ぐ。
「開かない!」
「閉まってるぞ」
「危ない!押すな!」
講堂の出入り口の扉が開かないらしく、一部の生徒たちが声を上げた。
「何だ!?」
舞台の袖に居たアレンたち生徒会役員は天井から水が落ちる音と生徒たちの声に驚いて、講堂のフロアを見た。
「天井の消火装置から水が…」
「屋上の貯水槽を見て来い!」
「はい!」
舞台の近くに居たサポートメンバーが走り出した。
「エリザベス様、大丈夫ですか?」
「パトリシア様こそ」
「ただのお水みたいだから…そんなに濡れなかったですし」
「消火装置の誤作動かしら?」
話をしていると、目の前の景色が揺れた。
え?何だか甘い匂いが…
瞬きを繰り返しながらエリザベスを見ると、エリザベスも何か異常を感じている様で、キョロキョロと辺りを見回していた。
「エリザベス様…」
手を伸ばそうとして、グラリと身体が傾いた。
「パトリシア様…きゃあ!」
エリザベスは膝の力が抜け、ガクンとその場に膝をついた。
「エリ…」
パトリシアも傾く身体を支えられず、横向きに倒れる。エリザベスも膝をついた姿勢から前にパタリと倒れた。
周りでも同じように、生徒がバタバタと倒れていた。
手足に力が入らない。何これ…何が起きてるの?
それに、身体が…熱い?
身体の芯が熱せられているようだ。
「はっ。はっ」
あまりの熱さに息が苦しくなる。
エリザベスも床に横たわってハアハアと短い息をしていた。
「これはね、催淫剤なんだよ。パトリシアちゃん」
頭元に黒い靴が見える。
パトリシアがその人を見上げると、立っていたのはロードだった。
「ロード…」
「空調に乗せて流したんだ。ああ、でも同時に身体の自由を奪う作用もあるから、どちらかと言えば拷問に近いね。だって発情してるのに自慰も儘ならないんだから。でも効き目も精々三十分って処だし、だからここで学園生による乱交パーティーになったりはしないから安心して」
口角を上げてパトリシアを見下ろしながら言うロード。
何が安心だ。パトリシアはロードを睨み付けた。
「ああ、俺割とMだから、そう言う目で見られるとゾクゾクする」
「はっなっ…んで…?はっ」
「何で俺は平気なのか、かな?アランから聞いてない?俺たちが媚薬に慣れる練習してた事」
「は?」
媚薬に慣れる練習?寮の部屋を行き来してるって…そんな事してたの?
「だから今この場で動けるのは、俺と、居ないけどアランと、王族だから毒物に身体を慣らしてるアレンくらいかなあ」
アレン…?アレンが…何…
「と、言う訳で、行こうか。パトリシアちゃん」
どこへ…行くの…
思考が纏まらなくなって来たパトリシアを見ながら、ロードはにっこりと笑って言った。
「コンプリートできないなら、強引に俺の物にするしかないからね」
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