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アランが倒れているエリザベスに近付くと、エリザベスは苦しそうな表情で目を閉じ、はあはあと短い息をしていた。
「睡眠薬があまり効いていないのか…」
アランはしゃがみ込むとエリザベスを抱き上げようと膝の下に手を入れ、背中に手を当てた。
「…ん」
眉を顰めてピクンと身体が動く。
催眠剤もまだ効いてるのか。
エリザベスを抱き上げて舞台の方へ歩き出す。講堂の出口からレスターがミッチェルを抱いて出て行くのが見えた。侍従とライネルが後に続いて行く。
催眠剤と睡眠薬についての説明はライネルが兄上にしてくれるか。
「…はっ…はっ…」
一層息が荒くなるエリザベス。
上気した頬。薄く開いた唇。
何だかいつも俺に向ける怒った様な顔とも見下したような目とも違って艶かしくて…綺麗だな。
舞台の奥にある控室に入り、ソファにエリザベスを降ろす。
「あっ。はあ…はあ…」
「エリザベス嬢、これが飲めるか?」
あと一人分ある中和剤をポケットから取り出して、エリザベスに見せる。
「…ん…」
薄く目を開けるエリザベス。若草色の瞳がアランを捉える。
ドキン。
心臓が鳴った。
「…?」
何だろう?
背中に手を入れて少し起き上がらせると、赤くて薄い唇に蓋を取った小瓶を当てて中和剤を流し込む。
ああ、何と言うか…何となく扇情的に見えるのは、耐性があるとは言え、体内に催眠剤の成分を取り込んだせいなのかな?
「アレ…ン…はあ…でん…か……」
俺をアレンだと思ってるのか。このままそう思わせておいた方が良いかな?
アランはエリザベスの頭元に跪く。
「もうすぐ中和剤が効いて楽になるからな」
「パト…リシアさ…が…」
ああ、エリザベス嬢はパティがロードに連れ出されたのを見ていたのか。
「パ…パトリシアはアランが助けに行ったから大丈夫だ」
そう言うと、エリザベスは顔を歪める。
「苦しいのか?」
アランの言葉にエリザベスは小さく首を横に振る。
「…どうし…て?」
「うん?」
「アレンで…んかは…パトリシア様を…好きなのに…」
エリザベス嬢、アレンがパティを好きな事に気が付いていたのか。
「……」
言葉が出ないアランを見て、エリザベスはますます顔を歪ませる。
「…うう…」
嗚咽と共に涙が溢れた。
「な、何故泣く!?」
少し慌ててアランは言う。
エリザベス嬢は婚約者が他の女性を想ってるのが悲しい?悔しい?それとも苦しいのか?
アランは混乱しながら、自分に繊細な心の機微がわからない事を少し恨む。
「ごっごめん!エリザベス嬢」
アランは立ち上がると、エリザベスに向けて勢い良く頭を下げた。
「…殿下?」
エリザベスがアランを見上げる。
「俺、アレンじゃないんだ」
付け毛を引っ張って取ると、もう一度頭を下げる。
「…アラン…殿下?」
エリザベスが目を丸くしてアランを見る。
「そう。アレンは……」
パティを助けに行った。と言い掛けて、止める。
言った方が良いのか、言わない方が良いのか…とりあえずこれ以上エリザベス嬢を泣かせたくない。
「パトリシア様の…所へ…?」
エリザベスがアランをじっと見ながら言うので、アランは仕方なく頷く。
エリザベスの若草色の瞳が左右に揺れる。
な、泣くのか?泣くのか?な、泣くな。
アランが身構えていると
「良かった…」
エリザベスはそう呟いて、綻ぶように微笑んだ。
-----
赤い薔薇みたいだ。
微笑んだエリザベス。髪色の赤。若草色の瞳。
中和剤と睡眠薬が効いたのか、眠っているエリザベスに自分の上着を掛け、向かいのソファに座ると、アランは思う。
もしかすると、俺はエリザベス嬢に「恋」をしたのかも知れない。少なくともこんな気持ちは他の誰にも感じた事はない。
「まあ、そうだとしても、どうにもならないけどな」
そう呟く。
アレンとパティはどうなるのか、エリザベス嬢との婚約をどうするのか、今はまだわからない。
それに、これから罪に問われる自分が、この先どうなるのかもわからないし。
「しかし、自分の心持ちだけでこんなに見る目が変わるもんかね…」
アランは呟く。
眠っているエリザベスがとても綺麗でとてもかわいく見えた。
「とりあえず、そろそろ目が覚める者が出て来るかも知れないから、行くか」
アランは立ち上がると、控室の出口で振り返り、眠るエリザベスを少し見つめると扉を閉じた。
アランが倒れているエリザベスに近付くと、エリザベスは苦しそうな表情で目を閉じ、はあはあと短い息をしていた。
「睡眠薬があまり効いていないのか…」
アランはしゃがみ込むとエリザベスを抱き上げようと膝の下に手を入れ、背中に手を当てた。
「…ん」
眉を顰めてピクンと身体が動く。
催眠剤もまだ効いてるのか。
エリザベスを抱き上げて舞台の方へ歩き出す。講堂の出口からレスターがミッチェルを抱いて出て行くのが見えた。侍従とライネルが後に続いて行く。
催眠剤と睡眠薬についての説明はライネルが兄上にしてくれるか。
「…はっ…はっ…」
一層息が荒くなるエリザベス。
上気した頬。薄く開いた唇。
何だかいつも俺に向ける怒った様な顔とも見下したような目とも違って艶かしくて…綺麗だな。
舞台の奥にある控室に入り、ソファにエリザベスを降ろす。
「あっ。はあ…はあ…」
「エリザベス嬢、これが飲めるか?」
あと一人分ある中和剤をポケットから取り出して、エリザベスに見せる。
「…ん…」
薄く目を開けるエリザベス。若草色の瞳がアランを捉える。
ドキン。
心臓が鳴った。
「…?」
何だろう?
背中に手を入れて少し起き上がらせると、赤くて薄い唇に蓋を取った小瓶を当てて中和剤を流し込む。
ああ、何と言うか…何となく扇情的に見えるのは、耐性があるとは言え、体内に催眠剤の成分を取り込んだせいなのかな?
「アレ…ン…はあ…でん…か……」
俺をアレンだと思ってるのか。このままそう思わせておいた方が良いかな?
アランはエリザベスの頭元に跪く。
「もうすぐ中和剤が効いて楽になるからな」
「パト…リシアさ…が…」
ああ、エリザベス嬢はパティがロードに連れ出されたのを見ていたのか。
「パ…パトリシアはアランが助けに行ったから大丈夫だ」
そう言うと、エリザベスは顔を歪める。
「苦しいのか?」
アランの言葉にエリザベスは小さく首を横に振る。
「…どうし…て?」
「うん?」
「アレンで…んかは…パトリシア様を…好きなのに…」
エリザベス嬢、アレンがパティを好きな事に気が付いていたのか。
「……」
言葉が出ないアランを見て、エリザベスはますます顔を歪ませる。
「…うう…」
嗚咽と共に涙が溢れた。
「な、何故泣く!?」
少し慌ててアランは言う。
エリザベス嬢は婚約者が他の女性を想ってるのが悲しい?悔しい?それとも苦しいのか?
アランは混乱しながら、自分に繊細な心の機微がわからない事を少し恨む。
「ごっごめん!エリザベス嬢」
アランは立ち上がると、エリザベスに向けて勢い良く頭を下げた。
「…殿下?」
エリザベスがアランを見上げる。
「俺、アレンじゃないんだ」
付け毛を引っ張って取ると、もう一度頭を下げる。
「…アラン…殿下?」
エリザベスが目を丸くしてアランを見る。
「そう。アレンは……」
パティを助けに行った。と言い掛けて、止める。
言った方が良いのか、言わない方が良いのか…とりあえずこれ以上エリザベス嬢を泣かせたくない。
「パトリシア様の…所へ…?」
エリザベスがアランをじっと見ながら言うので、アランは仕方なく頷く。
エリザベスの若草色の瞳が左右に揺れる。
な、泣くのか?泣くのか?な、泣くな。
アランが身構えていると
「良かった…」
エリザベスはそう呟いて、綻ぶように微笑んだ。
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赤い薔薇みたいだ。
微笑んだエリザベス。髪色の赤。若草色の瞳。
中和剤と睡眠薬が効いたのか、眠っているエリザベスに自分の上着を掛け、向かいのソファに座ると、アランは思う。
もしかすると、俺はエリザベス嬢に「恋」をしたのかも知れない。少なくともこんな気持ちは他の誰にも感じた事はない。
「まあ、そうだとしても、どうにもならないけどな」
そう呟く。
アレンとパティはどうなるのか、エリザベス嬢との婚約をどうするのか、今はまだわからない。
それに、これから罪に問われる自分が、この先どうなるのかもわからないし。
「しかし、自分の心持ちだけでこんなに見る目が変わるもんかね…」
アランは呟く。
眠っているエリザベスがとても綺麗でとてもかわいく見えた。
「とりあえず、そろそろ目が覚める者が出て来るかも知れないから、行くか」
アランは立ち上がると、控室の出口で振り返り、眠るエリザベスを少し見つめると扉を閉じた。
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