46 / 79
45
しおりを挟む
45
パトリシアが寮に戻ると、エリザベスが部屋の前で待っていた。
「…王家の馬車で戻って来たの?」
エリザベスは無表情で言う。
「エリザベス様」
どうしよう。アレンは明日エリザベス様と話すと言っていたけど…
「アラン殿下、目が覚めたのね」
「え?ええ…」
アランは目覚めてから、すぐに制服に着替えて学園に来たので、王宮でレスターと話してからは医療棟に戻り、診察を受けていた。十日以上寝たままだったので医療棟に戻ったアランはグッタリと疲れていたらしい。
「これ、貴女から殿下に返しておいてくださる?」
エリザベスは腕に掛けていた制服の上着をパトリシアの方へ差し出した。
「あ、はい」
パトリシアが上着を受け取ると、エリザベスは上着を指で示して
「その裏のオーキッドの刺繍はパトリシア様が?」
「あ、はい」
内ポケットの裏の刺繍は、オーキッドの花を図案化してパトリシアが刺した物。制服から私服までアランの上着の多くに同じ刺繍を施してある。
「アレン殿下の上着にはロータスの花の刺繍があるわ。あれも?」
「はい」
アレンに頼まれてアレンの制服にも刺繍を施した。さすがに私服には刺してはいないが。
「この花には何か意味があるの?」
「両殿下からアラン殿下にはオーキッド、アレン殿下にはロータスをと頼まれて刺したので良くわからないんです」
「そう…」
「はい」
「……」
暫く黙った後、エリザベスは俯いて言う。
「…アレン殿下はロード・フェアリから貴女を…助けに行かれたんでしょう?」
「…はい」
「そう。良かったわね」
顔を上げたエリザベスは無表情で言う。
「では、よろしくね」
エリザベスは無表情のまま、自分の部屋の方へ足を向ける。
「……」
パトリシアが何も言えないでいると、エリザベスは振り向かずに部屋に入って行った。
-----
「アランは今日はまだ体力が回復していない上に昨日無理をしているから休みだ。それに事情聴取も始まるし」
「そう…」
朝、正門で王宮から来る馬車を出迎えたパトリシアは、アランの上着を御者に預けてアレンと並んで歩く。
「あの上着…エリザベスから預かったのか?」
「うん。昨日寮で…」
「エリザベスは何か言っていたか?」
「…アレンが私を助けに行ったんでしょ?って。それで、良かったわねって言われたの」
「そうか」
校舎に近付くがまだ朝早いので生徒の姿はない。
それでも適度な距離を保って歩いていると、校舎の入り口にライネルが立っていた。
「ライネルさん」
パトリシアが言うと、ライネルはペコリと頭を下げた。
「おはようございます。あの…アレン殿下?ですよね?」
「ああ…尻尾がないから」
アレンは頷く。
「尻尾」
ライネルが言うとパトリシアはクスッと笑う。
「あの、アレン殿下!俺も警察で言うつもりなんですが、アラン殿下は本当にあの薬草がシミヒプノだとご存知なかったんです!それだけはパトリシア様とアレン殿下には信じて頂きたくて…」
ライネルが思い切った様に言うと、アレンは大きく頷いた。
「ああ。きっとそうだと思ってはいたが、ライネル・コーンウェルからそれを聞けて安心したよ」
「…良かった」
安心した様に息を吐くライネル。
「今日から俺も聴取で…その前にどうしても言っておかなくてはと…アラン殿下はもしかすると『自分は知らなかった』とは仰らないかもしれないと思って…」
「ああ…アランは言わないかもな」
「そうね」
アレンとパトリシアは顔を見合わせて頷く。
「ライネル、…大丈夫なのか?」
アレンがそう言うとパトリシアも頷く。
「はい。自分のせいでものすごく大切な者を失って…大切だった事にも気付かず蔑ろにしていたので…後悔の念は生涯失くなる事はないでしょうが…」
ライネルは俯く。
「…今はまだわからないんですけど、ありのままを話して、罪を償う事ができたなら…何か…ビビアンのために俺ができる事を探そうと思っています」
「そうか…」
顔を上げたライネルは少し言いにくそうにアレンを見た。
「アレン殿下、ロードは…」
「今は王城の留置室だ」
「そうですか…」
「ライネルは…ロードを好きなのか?」
ライネルはその言葉に目を見開くと、少し笑う。
「そうですね…好き…だったような気がします。今でも好きなような、違うような…自分の事ですがよくわかりません」
「…そうか」
「殿下はロードに会われますか?」
ライネルの問いにアレンは眉を顰めながら言う。
「…聞きたい事はある」
「もし、会われたなら伝えて頂きたいのですが…」
「うん?」
「ライネルが『俺が恨んでるのは俺だけだ』と言っていた、と」
パトリシアが寮に戻ると、エリザベスが部屋の前で待っていた。
「…王家の馬車で戻って来たの?」
エリザベスは無表情で言う。
「エリザベス様」
どうしよう。アレンは明日エリザベス様と話すと言っていたけど…
「アラン殿下、目が覚めたのね」
「え?ええ…」
アランは目覚めてから、すぐに制服に着替えて学園に来たので、王宮でレスターと話してからは医療棟に戻り、診察を受けていた。十日以上寝たままだったので医療棟に戻ったアランはグッタリと疲れていたらしい。
「これ、貴女から殿下に返しておいてくださる?」
エリザベスは腕に掛けていた制服の上着をパトリシアの方へ差し出した。
「あ、はい」
パトリシアが上着を受け取ると、エリザベスは上着を指で示して
「その裏のオーキッドの刺繍はパトリシア様が?」
「あ、はい」
内ポケットの裏の刺繍は、オーキッドの花を図案化してパトリシアが刺した物。制服から私服までアランの上着の多くに同じ刺繍を施してある。
「アレン殿下の上着にはロータスの花の刺繍があるわ。あれも?」
「はい」
アレンに頼まれてアレンの制服にも刺繍を施した。さすがに私服には刺してはいないが。
「この花には何か意味があるの?」
「両殿下からアラン殿下にはオーキッド、アレン殿下にはロータスをと頼まれて刺したので良くわからないんです」
「そう…」
「はい」
「……」
暫く黙った後、エリザベスは俯いて言う。
「…アレン殿下はロード・フェアリから貴女を…助けに行かれたんでしょう?」
「…はい」
「そう。良かったわね」
顔を上げたエリザベスは無表情で言う。
「では、よろしくね」
エリザベスは無表情のまま、自分の部屋の方へ足を向ける。
「……」
パトリシアが何も言えないでいると、エリザベスは振り向かずに部屋に入って行った。
-----
「アランは今日はまだ体力が回復していない上に昨日無理をしているから休みだ。それに事情聴取も始まるし」
「そう…」
朝、正門で王宮から来る馬車を出迎えたパトリシアは、アランの上着を御者に預けてアレンと並んで歩く。
「あの上着…エリザベスから預かったのか?」
「うん。昨日寮で…」
「エリザベスは何か言っていたか?」
「…アレンが私を助けに行ったんでしょ?って。それで、良かったわねって言われたの」
「そうか」
校舎に近付くがまだ朝早いので生徒の姿はない。
それでも適度な距離を保って歩いていると、校舎の入り口にライネルが立っていた。
「ライネルさん」
パトリシアが言うと、ライネルはペコリと頭を下げた。
「おはようございます。あの…アレン殿下?ですよね?」
「ああ…尻尾がないから」
アレンは頷く。
「尻尾」
ライネルが言うとパトリシアはクスッと笑う。
「あの、アレン殿下!俺も警察で言うつもりなんですが、アラン殿下は本当にあの薬草がシミヒプノだとご存知なかったんです!それだけはパトリシア様とアレン殿下には信じて頂きたくて…」
ライネルが思い切った様に言うと、アレンは大きく頷いた。
「ああ。きっとそうだと思ってはいたが、ライネル・コーンウェルからそれを聞けて安心したよ」
「…良かった」
安心した様に息を吐くライネル。
「今日から俺も聴取で…その前にどうしても言っておかなくてはと…アラン殿下はもしかすると『自分は知らなかった』とは仰らないかもしれないと思って…」
「ああ…アランは言わないかもな」
「そうね」
アレンとパトリシアは顔を見合わせて頷く。
「ライネル、…大丈夫なのか?」
アレンがそう言うとパトリシアも頷く。
「はい。自分のせいでものすごく大切な者を失って…大切だった事にも気付かず蔑ろにしていたので…後悔の念は生涯失くなる事はないでしょうが…」
ライネルは俯く。
「…今はまだわからないんですけど、ありのままを話して、罪を償う事ができたなら…何か…ビビアンのために俺ができる事を探そうと思っています」
「そうか…」
顔を上げたライネルは少し言いにくそうにアレンを見た。
「アレン殿下、ロードは…」
「今は王城の留置室だ」
「そうですか…」
「ライネルは…ロードを好きなのか?」
ライネルはその言葉に目を見開くと、少し笑う。
「そうですね…好き…だったような気がします。今でも好きなような、違うような…自分の事ですがよくわかりません」
「…そうか」
「殿下はロードに会われますか?」
ライネルの問いにアレンは眉を顰めながら言う。
「…聞きたい事はある」
「もし、会われたなら伝えて頂きたいのですが…」
「うん?」
「ライネルが『俺が恨んでるのは俺だけだ』と言っていた、と」
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
真実の愛を見つけた王太子殿下、婚約破棄の前に10年分の王家運営費1.5億枚を精算して頂けます?
ぱすた屋さん
恋愛
「エルゼ、婚約を破棄する! 私は真実の愛を見つけたのだ!」
建国記念祭の夜会、王太子アルフォンスに断罪された公爵令嬢エルゼ。
だが彼女は泣き崩れるどころか、事務的に一枚の書類を取り出した。
「承知いたしました。では、我が家が立て替えた10年分の王家運営費――金貨1億5800万枚の精算をお願いします」
宝石代、夜会費、そして城の維持費。
すべてを公爵家の「融資」で賄っていた王家に、返済能力などあるはずもない。
「支払えない? では担保として、王都の魔力供給と水道、食料搬入路の使用を差し止めます。あ、殿下が今履いている靴も我が家の備品ですので、今すぐ脱いでくださいね?」
暗闇に沈む王城で、靴下姿で這いつくばる元婚約者。
下着同然の姿で震える「自称・聖女」。
「ゴミの分別は、淑女の嗜みですわ」
沈みゆく泥舟(王国)を捨て、彼女を「財務卿」として熱望する隣国の帝国へと向かう、爽快な論理的ざまぁ短編!
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる