45 / 79
44
しおりを挟む
44
レスターの執務机の前にアラン、アレン、パトリシアが並んで立つ。
「早い者で四十分程度、多くの者が一時間前後で目覚めて、寮へ戻りました。ライネルが手助けしてくれ、大きな混乱は起きておりません」
アランがそう言うと、レスターは「うむ」と頷く。
「ロード・フェアリは、現在、王城の留置室へ抑留している」
「どんな様子ですか?」
レスターが言うと、アレンは眉を顰めながら問う。
「最初は色々喚き散らしていたが、今は大人しくしているようだ。ロード・フェアリの最終目的はパトリシアだったのか?」
「…そのようです」
アレンが嫌そうに答えると、レスターは顎に手を当てて考え込む。
「ロード・フェアリがパトリシアを連れ出したのを見ていた者は多いのか?」
「おそらくそう多くは…ただエリザベス嬢は見ていました」
アランが言うと、パトリシアも「はい」と言う。
「倒れた時エリザベス様とお話していたので…」
「そうか…ではエリザベス嬢には改めて口止めしておこう。ロード・フェアリが講堂に催淫剤を拡散させた目的がパトリシアであった事は隠す事にする」
「…アレン」
レスターが低い声でアレンを呼ぶ。
「はい」
アレンが答えると、レスターは上目遣いにアレンを見た。
「…お前がアレンだよな?尻尾がないとわからん…」
尻尾って…言い得て妙だけど。
パトリシアは心の中で思う。
「今まではパトリシアと居る方がアランだと認識していたが、これからはパトリシアと居る方がアレンだと思えば良いのか?」
「…!」
レスターがアレンを見据えて言い、パトリシアは息を飲む。
「はい。俺はエリザベスとの婚約解消を申し出ます」
そうアレンはキッパリと言い切った。
-----
アレンの私室へ連れられてきたパトリシアは、部屋に入ると、ジェイから恭しく礼をされた。
「ジェイ?」
「今日この時からパトリシア様をアレン殿下のご婚約者様として接します」
「ま、待って」
「ジェイ、俺はまだエリザベスとの婚約を解消していない。パティをそう扱ってくれるのは嬉しいが…」
「もちろん、私室でだけです。正式にお決まりになるまでは表向きは今まで通りで」
「ああ。それで良い」
扉を開けたまま、ジェイが部屋の外に控える。以前と同じ様に姿は見えるが声は届かない位置だ。
ソファに座ったパトリシアは少し俯いて呟く。
「でも…私がアレンと…なんて許されるのかしら…」
パトリシアの向かいに座ったアレンは腕を組んで言う。
「時間はかかるだろうが…現に兄上は認めてくれただろう?」
先程レスターの執務室で、アレンが「エリザベスとの婚約解消を申し出ます」と言った時、レスターはため息混じりに
「…第三王子は人身に関わる触法事件、第二王子は不貞行為で婚約破棄か…」
と呟いた。
そしてその後、
「まあアレンとパトリシアは『不貞ではなく初恋で純愛だ』と父上…国王陛下と議会にどこまで示せるか、だな」
アレンに向けてそう言ったのだ。
「兄上は俺がずっとパティを想っていた事、気付いておられたからな」
「そうなの?」
アレンは「ああ」と頷くとため息混じりに言う。
「…しかし、俺が婚約者がありながら弟の婚約者に手を出した不埒者と言われるのはかまわんが、パティが婚約者を裏切った多情な女の様に見られるのは心外だな」
「でもある意味本当の事だから仕方ないわ」
「それにアランの状況次第では、罪に問われた第三王子を捨てて第二王子に乗り換えたと言われるかも…」
「…私は何を言われても構わないわ。アレンと居られるなら…」
ただ、私のせいでアレンの責任とか、王子としての自覚とか資質を問われるのは嫌だな…
「パティ…」
アレンが眉を下げてパトリシアを見る。視線が合って、パトリシアと同じ気持ちでいるのが伝わった。
「…堂々と触れられないのはもどかしいな。婚約者ではない俺の部屋に長居させる事もできないし」
アレンは「時間切れだな」と苦笑いをすると立ち上がった。
パトリシアはこれから寮に戻るのだ。
「明日にはエリザベスと話をしようと思う」
パトリシアを部屋の出口へと促しながらアレンは言う。
「…うん」
俯いたパトリシアの腕を引いた。
「え?」
アレンの方を見たパトリシアに顔を近付け軽く触れるだけのキスをする。
「…なっ」
頬を少し赤くしてアレンを見るパトリシア。
ああ、かわいいな。
「ジェイしか見ていない」
口角を上げるアレン。パトリシアが部屋の外を見ると、ジェイがあからさまに視線を逸らしていた。
「もう!アレン!」
胸元を拳で軽く叩くと、アレンは幸せそうに笑った。
レスターの執務机の前にアラン、アレン、パトリシアが並んで立つ。
「早い者で四十分程度、多くの者が一時間前後で目覚めて、寮へ戻りました。ライネルが手助けしてくれ、大きな混乱は起きておりません」
アランがそう言うと、レスターは「うむ」と頷く。
「ロード・フェアリは、現在、王城の留置室へ抑留している」
「どんな様子ですか?」
レスターが言うと、アレンは眉を顰めながら問う。
「最初は色々喚き散らしていたが、今は大人しくしているようだ。ロード・フェアリの最終目的はパトリシアだったのか?」
「…そのようです」
アレンが嫌そうに答えると、レスターは顎に手を当てて考え込む。
「ロード・フェアリがパトリシアを連れ出したのを見ていた者は多いのか?」
「おそらくそう多くは…ただエリザベス嬢は見ていました」
アランが言うと、パトリシアも「はい」と言う。
「倒れた時エリザベス様とお話していたので…」
「そうか…ではエリザベス嬢には改めて口止めしておこう。ロード・フェアリが講堂に催淫剤を拡散させた目的がパトリシアであった事は隠す事にする」
「…アレン」
レスターが低い声でアレンを呼ぶ。
「はい」
アレンが答えると、レスターは上目遣いにアレンを見た。
「…お前がアレンだよな?尻尾がないとわからん…」
尻尾って…言い得て妙だけど。
パトリシアは心の中で思う。
「今まではパトリシアと居る方がアランだと認識していたが、これからはパトリシアと居る方がアレンだと思えば良いのか?」
「…!」
レスターがアレンを見据えて言い、パトリシアは息を飲む。
「はい。俺はエリザベスとの婚約解消を申し出ます」
そうアレンはキッパリと言い切った。
-----
アレンの私室へ連れられてきたパトリシアは、部屋に入ると、ジェイから恭しく礼をされた。
「ジェイ?」
「今日この時からパトリシア様をアレン殿下のご婚約者様として接します」
「ま、待って」
「ジェイ、俺はまだエリザベスとの婚約を解消していない。パティをそう扱ってくれるのは嬉しいが…」
「もちろん、私室でだけです。正式にお決まりになるまでは表向きは今まで通りで」
「ああ。それで良い」
扉を開けたまま、ジェイが部屋の外に控える。以前と同じ様に姿は見えるが声は届かない位置だ。
ソファに座ったパトリシアは少し俯いて呟く。
「でも…私がアレンと…なんて許されるのかしら…」
パトリシアの向かいに座ったアレンは腕を組んで言う。
「時間はかかるだろうが…現に兄上は認めてくれただろう?」
先程レスターの執務室で、アレンが「エリザベスとの婚約解消を申し出ます」と言った時、レスターはため息混じりに
「…第三王子は人身に関わる触法事件、第二王子は不貞行為で婚約破棄か…」
と呟いた。
そしてその後、
「まあアレンとパトリシアは『不貞ではなく初恋で純愛だ』と父上…国王陛下と議会にどこまで示せるか、だな」
アレンに向けてそう言ったのだ。
「兄上は俺がずっとパティを想っていた事、気付いておられたからな」
「そうなの?」
アレンは「ああ」と頷くとため息混じりに言う。
「…しかし、俺が婚約者がありながら弟の婚約者に手を出した不埒者と言われるのはかまわんが、パティが婚約者を裏切った多情な女の様に見られるのは心外だな」
「でもある意味本当の事だから仕方ないわ」
「それにアランの状況次第では、罪に問われた第三王子を捨てて第二王子に乗り換えたと言われるかも…」
「…私は何を言われても構わないわ。アレンと居られるなら…」
ただ、私のせいでアレンの責任とか、王子としての自覚とか資質を問われるのは嫌だな…
「パティ…」
アレンが眉を下げてパトリシアを見る。視線が合って、パトリシアと同じ気持ちでいるのが伝わった。
「…堂々と触れられないのはもどかしいな。婚約者ではない俺の部屋に長居させる事もできないし」
アレンは「時間切れだな」と苦笑いをすると立ち上がった。
パトリシアはこれから寮に戻るのだ。
「明日にはエリザベスと話をしようと思う」
パトリシアを部屋の出口へと促しながらアレンは言う。
「…うん」
俯いたパトリシアの腕を引いた。
「え?」
アレンの方を見たパトリシアに顔を近付け軽く触れるだけのキスをする。
「…なっ」
頬を少し赤くしてアレンを見るパトリシア。
ああ、かわいいな。
「ジェイしか見ていない」
口角を上げるアレン。パトリシアが部屋の外を見ると、ジェイがあからさまに視線を逸らしていた。
「もう!アレン!」
胸元を拳で軽く叩くと、アレンは幸せそうに笑った。
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
真実の愛を見つけた王太子殿下、婚約破棄の前に10年分の王家運営費1.5億枚を精算して頂けます?
ぱすた屋さん
恋愛
「エルゼ、婚約を破棄する! 私は真実の愛を見つけたのだ!」
建国記念祭の夜会、王太子アルフォンスに断罪された公爵令嬢エルゼ。
だが彼女は泣き崩れるどころか、事務的に一枚の書類を取り出した。
「承知いたしました。では、我が家が立て替えた10年分の王家運営費――金貨1億5800万枚の精算をお願いします」
宝石代、夜会費、そして城の維持費。
すべてを公爵家の「融資」で賄っていた王家に、返済能力などあるはずもない。
「支払えない? では担保として、王都の魔力供給と水道、食料搬入路の使用を差し止めます。あ、殿下が今履いている靴も我が家の備品ですので、今すぐ脱いでくださいね?」
暗闇に沈む王城で、靴下姿で這いつくばる元婚約者。
下着同然の姿で震える「自称・聖女」。
「ゴミの分別は、淑女の嗜みですわ」
沈みゆく泥舟(王国)を捨て、彼女を「財務卿」として熱望する隣国の帝国へと向かう、爽快な論理的ざまぁ短編!
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる