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「待っ!だっ、駄目で元々なら、俺だって!」
 アランが慌てて言うと、エリザベスは目を見開いてアランを見た。
「アラン殿下?」
 アランは少し頬を赤くしてじっとエリザベスを見ながら言う。
「…駄目で元々、ならば、俺は卒業後は臣籍降下し陛下より公爵位を賜るが、それは領地も屋敷もない名ばかり公爵で…薬学研究所の雇われ研究者の一人になる。王位継承権もないし、兄上とアレンに男子が生まれるまでは婚姻もできない。とても第二王子の婚約者だった公爵令嬢を娶る立場ではないのは重々承知だが…」
「…?」
「エリザベス嬢が好きなんだ」
 エリザベスは目を大きく見開く。
「は?」
 アラン殿下が?
 私を、好き?
 そんな素振り今までまったく…
「…あの控室でエリザベス嬢が笑ったのを見て、赤い薔薇の様だと思った。あれから…どんなに居丈高な所もかわいくしか見えなくて…」
 かわいい?
 私が?
 …自分でこう言うのもナンだけれど、アラン殿下といい、ロード様といい、私がかわいく見えるなんて…どこかおかしいんじゃないかしら?
 でも、アラン殿下少し頬を赤くして…紫の瞳がまっすぐ私を見ていて…心なしか瞳に熱を帯びているような…
 まさか、本気で…?

「領地はどうにもならないが、屋敷や使用人はどうにか…エリザベス嬢、どうか、俺にエリザベス嬢を射止める努力をする時間をくれないだろうか?」
「俺も!俺もだよ。ベスちゃん。アラン殿下と同じように時間が欲しい!」
 真剣な眼で言うアランとロード。

 確かに臣籍降下し薬学研究所に勤める領地も屋敷もない公爵も、禁錮刑を受けた王城の医療棟勤めの医師も、私の結婚相手としては論外だわ。
 でも…二人は私を好きなのよね。
 パトリシア様ではなく、この、私を。

 バッとソファから立ち上がるエリザベス。
 アランとロードはエリザベスを見上げた。
「エリザベス嬢?」
「ベスちゃん?」

「アラン殿下には私の事を呼び捨て、若しくは愛称で呼ぶ権利を差し上げますわ。ロード様には禁錮の間にも私に文をしたためる権利を」
 エリザベスはツンと顎を上げながら言う。
「「え?」」
 アランとロードはそんなエリザベスを見る。
「私はアレン殿下との婚約解消後は私が望むまでは次の婚約を決めない様にお父様に交渉致しますわ。しかし貴族令嬢とはその家の外交の駒であり、重要な盾であり鉾でもありますわ。せいぜい王家とボイル公爵家が私の嫁ぎ先を決めてしまう前に私の心を射止めてお父様を説得する事ね」
 エリザベスは口元に手を当てて、不敵に笑った。

-----

 ロードから「エリザベスが何かを企んで俺の家に来ている」と連絡が来た時、アレンを押し退けて飛び出して行ったアランがふわふわと地に足が着かない様子で戻って来たので、待ち構えていたアレンは拍子抜けする。

「エリザベスの企みとは何だったんだ?」
「ああ…ロードに頼んでパティを辱めるつもりだったらしい」
 アレンの部屋のソファに向かい合わせに座り、アレンが問うと、アランはさらっと答えた。
「なっ!」
 アレンが立ち上がろうとすると、アランは手を差し出してそれを制する。
「まあまあ。それはロードも断ったし、リジーももうそんな事企んだりしないよ」
「リジー?」
 アレンは眉を顰めてアランを見る。「リジー」とは、「エリー」「ベス」「ベティ」「ライザ」など、数ある「エリザベス」の愛称の中の一つだ。
「ああ。俺、エリザベス嬢を愛称で呼ぶ権利をもらったんだ」
「愛称で呼ぶ権利?いやそれより、もうそんな事を企んだりしないと言うのは?確かなのか?」
 アレンの言葉に、アランはロードの家に行ってからの遣り取りを掻い摘んで話した。

「それで俺が『じゃあリジーと呼んでも良いか?』と聞くと『構いませんわ』って言うんだ。その高飛車な様子がまたかわいくて…」
「アラン。待て。その前に…エリザベスは婚約解消すると言ったのか?」
 昂揚した様子で話すアランに、アレンは訝しみながら聞く。
「あ、その事で一つ条件があると言ってたぞ」
 アランは人差し指を立ててそう言った。


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