双子の王子と悪役令嬢な私。そしてヒロインは男の子。

ねーさん

文字の大きさ
59 / 79

58

しおりを挟む
58

「パティこのドレスにロータスの刺繍を入れてくれる?」
「アレン…これ…」
 王宮のアレンの私室に置かれたトルソーに着せられたドレスは、艶々したベルベットのような生地に繊細なレースとリボンを飾られた紫色のAラインのシンプルなデザインの物だった。
「パティに贈る卒業パーティーのドレスだ」
「綺麗…」
 トルソーの前に立つパトリシアの後ろに立ったアレンは、肩に手を乗せてパトリシアの髪にキスを落とした。
「でもロータスの刺繍は…まだ私はアレンの婚約者ではないのに…」
「ロータスが俺を表してる事はパティと俺とアランとエリザベスしか知らないだろ?」
 私のドレスにロータスアレンの刺繍…要するに「私はアレンの恋人です」って表明よね?
 いくら私たちしか知らないとは言え恥ずかしいわ。
 それに今度の卒業パーティーは…
「全面的にじゃなくても、端にでも良いから俺のしるしをパティの手で入れて欲しいんだ」
「…端に、なら」
 このドレスはもちろんアレンがデザインした物。それをわかっていて身に纏うだけでパトリシア的には充分自分はアレンの物だとアピールしている気分なのだが。
「ああ。それで良い」
 蕩ける様なアレンの笑顔にパトリシアも微笑む。

「そういえば、どうしてアレンはロータスで、アランはオーキッドなの?」
 ソファに移動してお茶を飲みながらパトリシアはアレンに聞く。
「ああ…ちょっと待って」
 アレンは部屋の隅にあるライティングビューローから紙とペンを持って来ると、パトリシアの前に置く。
「俺の前世の名前、書いて?」
 にっこり笑うアレン。
 パトリシアは頬を赤くしてアレンを軽く睨んだ。 
「また書かせようとする…」
「パティが俺の名前を書いてくれるのが嬉しいんだ」
「もう。下手なのに~」
 ニコニコと嬉しそうに笑うアレンに、パトリシアも少し頬を染めてペンを手に取った。

 ぎこちなく、書き順もめちゃくちゃだけど、パティが俺の名前を覚えて、空で書ける様になるまで練習したのを想像すると、とてつもなく嬉しい。
「亜蓮」
 と書かれた紙をアレンは満足気に眺めた。
「この『蓮』と言う字がロータスの花という意味なんだ。前世の言葉でははす
「はす」
 パトリシアがアレンの発音を真似る。
「そう。そして、アランの名前を前世の漢字に当てはめるとこうかな、と」
 アレンはパトリシアが「亜蓮」と書いた紙の下の部分に「亜蘭」と書き込んだ。
「これも複雑ね」
「アランの名前は覚えなくて良いからな?」
「ふふ。わかったわ。じゃあこの字がオーキッドって意味なのね?」
 パトリシアは「蘭」という字を指差した。

-----

「エリザベス様のドレスはどうされたんですか?今まではアレン殿下が贈られていたんですよね?」
 パトリシアの侍女マールがドレスに刺繍を施すパトリシアの前に紅茶のカップを置きながら言う。
「アランとフェアリ様が共同でイメージを伝えてアレンにデザインを頼んだんですって」
「アラン殿下とフェアリ様のエリザベス様のイメージ…何だか擦り合わせるのが大変そうですけど」
「それが意外と一致してるらしいわ。華やかさの中のかわいさ、みたいな感じで」
「意外ですね。でもフェアリ様は卒業パーティーには出席されないんですよね?」
「そうね。あれから学園へも来られてないし」

「…パトリシア様」
「なあに?マール」
 話しながらも針を動かし続けているパトリシア。卒業パーティーまであと二か月、当日までドレスは寮に持って行けないので、最近の週末休みはずっとこうしてデンゼル侯爵家に戻って刺繍に充てているのだ。
「フェアリ様は私を好きだったのに!私を攫う様な真似をしておいて、こんなにすぐにエリザベス様に心変わりするなんてどういう事!?」
「え?」
 パトリシアは思わず顔を上げる。
「とは、お思いにならないんですか?」
 マールは無表情で言う。
「…思わないわよ?」
 そもそもフェアリ様は前前世の記憶で私に執着していたそうだし、それも「俺がパティを幸せにするのが一番手っ取り早くて確実だと思ってた」ってこの間お会いした時仰ってて…つまり少し歪んでいるけど、私が幸せになれば満足みたいだし、私はアレンと想いが通じるきっかけをくれたからある意味フェアリ様に感謝する気持ちも無きにしも非ずだし…
 要するに、フェアリ様に本当に好きな方ができたなら、それは「良かった」としか思わないわ。

「私はパトリシア様が怖い目に遭わされた上にフェアリ様に振られたみたいで少し悔しいです」
 マールは無表情ながら眉を少し顰めている。
「マール、私…アレンと両想いになれて、ある意味フェアリ様に感謝している部分もあるの」
 パトリシアの言葉にマールは少し笑う。
「それは、パトリシア様がフェアリ様を利用した様に聞こえなくもないので他所では口にされない方がよろしいかと」
「そうね。だからマールにしか言わないわ」
 パトリシアとマールは目を合わせて微笑んだ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

申し訳ありませんが、貴方様との子供は欲しくありません。

芹澤©️
恋愛
王太子の元へ側室として嫁いだ伯爵令嬢は、初夜の晩に宣言した。 「申し訳ありませんが、貴方様との子供は欲しくありません。」

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

真実の愛を見つけた王太子殿下、婚約破棄の前に10年分の王家運営費1.5億枚を精算して頂けます?

ぱすた屋さん
恋愛
「エルゼ、婚約を破棄する! 私は真実の愛を見つけたのだ!」 建国記念祭の夜会、王太子アルフォンスに断罪された公爵令嬢エルゼ。 だが彼女は泣き崩れるどころか、事務的に一枚の書類を取り出した。 「承知いたしました。では、我が家が立て替えた10年分の王家運営費――金貨1億5800万枚の精算をお願いします」 宝石代、夜会費、そして城の維持費。 すべてを公爵家の「融資」で賄っていた王家に、返済能力などあるはずもない。 「支払えない? では担保として、王都の魔力供給と水道、食料搬入路の使用を差し止めます。あ、殿下が今履いている靴も我が家の備品ですので、今すぐ脱いでくださいね?」 暗闇に沈む王城で、靴下姿で這いつくばる元婚約者。 下着同然の姿で震える「自称・聖女」。 「ゴミの分別は、淑女の嗜みですわ」 沈みゆく泥舟(王国)を捨て、彼女を「財務卿」として熱望する隣国の帝国へと向かう、爽快な論理的ざまぁ短編!

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

処理中です...