双子の王子と悪役令嬢な私。そしてヒロインは男の子。

ねーさん

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「エリザベス・ボイル公爵令嬢、前へ」
 卒業パーティーの終盤、閉会の挨拶のために壇上に上がった紺色の夜会服のアレンは、張り詰めたよく通る声でエリザベスを呼んだ。
「エリザベス様…」
 講堂の後ろ、舞台から一番遠い位置に立っていたパトリシアは自身の隣に立つエリザベスに心配そうに声を掛ける。
「行って来るわ」
 エリザベスは少し緊張した面持ちでパトリシアにそう言うと、ザワザワと騒めく人垣へと足を踏み出した。

 エリザベスは無言で、着飾った生徒たちの垣根の間から舞台の前に歩み出る。
 上半身はピンクの生地に赤紫のレースとリボンの飾り、ベルラインのスカートは薄紫とピンクのレースが重ねられ、裾にはレース編みがあしらわれたドレスは赤い髪によく映え、アクセサリーは瞳と同じ若草色で、華やかな中にもかわいらしさを感じさせた。
 エリザベスは、壇上のアレンに向かってゆっくりと礼を取る。

「私アレン・ルーセント第二王子は、今日この時を以てエリザベス・ボイル公爵令嬢との婚約を破棄する」

 しんと静まり返った講堂に、アレンの凛とした声が響く。
 ゆっくり頭を上げたエリザベスはアレンを真っ直ぐに見ると
「承知いたしました」
 と、はっきりと言い、また礼をする。
 アレンが頷くと、エリザベスは踵を返し、顔を上げ、毅然とした態度で講堂の出口へとカツカツと歩いて行く。
 モーゼの海割りの様にエリザベスの前の生徒たちが左右に別れ、道が出来ると、エリザベスは口角を上げた。

「エリザベス様」
 講堂の出口近くでパトリシアがエリザベスに駆け寄る。
「…まるで花道よ。想像以上に気持ち良いわ」
 扇で口元を隠し、パトリシアにしか聞こえない声でエリザベスは言う。ふふふと微笑むエリザベスは悪役令嬢に相応しく黒いオーラを漂わせていた。
「エリザベス様ったら…」

 二人で講堂を出ると、先程壇上にいたアレンと同じ衣装、同じ髪型の男性と、黒いスーツ姿の男性か待っていた。
「うわーベスちゃん、すっごく綺麗だね!特にそのピンクの生地とピンクのレースがすごく似合ってる!」
 黒いスーツにピンクの髪の男性、ロードが言う。
「俺とダンスをした時のリジーは、紫のレースとリボンが赤い髪と照明に映えてとっても綺麗だった」
 アレンと同じ衣装と髪型のアランが言う。
 アレンとアランは敢えて同じ衣装、同じ髪型にする事で、アレンはパトリシアと、アランはエリザベスとファーストダンスを踊ったのだ。
「ベスちゃんとダンス…羨ましい…」
 ロードがジトっとアランを睨むと、アランは肩を竦める。
「リジーのファーストキスを奪っておいて…羨ましいのはこっちだ」

「オホホホホ。私を取り合う男性を眺めるのは本当に気持ちが良いわ」
 睨み合う二人を前に、扇を口元に、片手を腰に当てて、エリザベスは笑う。
「エリザベス様、そろそろ講堂から出て来る生徒が居るかも知れませんし、行きましょう?」
 パトリシアがそう言うと、エリザベスはパチンッと音を立てて扇を閉じた。
「そうね。私がここでアラン殿下やロード様と居るのを目撃されては台無しだものね」

-----

 卒業パーティーの後は、卒業生である四年生はパーティーの衣装のままで帰路に着く者が多い。家族にも学園を卒業したという晴れ姿を見せるためだ。
 卒業パーティーの間に寮の部屋も家の者や有志の物が引き払うべく片付けるので、卒業生はパーティーの後は直ぐに正門や裏門から馬車などで移動するのだ。
 在校生はこのパーティーの後から春季の休暇に入る。
 正門や裏門には既に卒業生や在校生の家からの迎えの馬車がひしめき合っているため、パトリシアたちは敢えて人の居ない教室へと移動した。

「俺、もう学園へ来る事はないと思うから…薬草畑に行って来るよ」
「俺も行く」
 ロードがそう言うと、アランもロードと並んで、パトリシアやエリザベスと別れて廊下を歩き出した。

「…エリザベス様、本当にこんな風に婚約破棄をしてよろしかったのですか?」
 パトリシアがそう言うと、教卓に寄りかかったエリザベスはふふんと鼻を鳴らした。
 エリザベスが婚約解消を承諾するにあたって出した条件が「卒業パーティーでアレンが婚約破棄を宣言する事」だったのだ。
「良いのよ。派手に婚約破棄されれば王家もお父様も次の縁談を持って来にくいでしょうし、私への婚姻申し込みも減るでしょうから」
「あの…エリザベス様、本気で将来アランかフェアリ様と…?」
「さあ?それは時間が経たないとわからないわね。ただあのお二人が時間が欲しいと言うから。私にできるのは時間を稼ぐ事くらいですもの」
 そう言って、ふふっと微笑んだエリザベスは、ふと真顔になってパトリシアを見る。
「エリザベス様?」
「パトリシア様、時間稼ぎにも限界がありますわ」
「はい」
「ですから…」
 エリザベスは真剣な表情で言った。
「早くアレン殿下と結婚して男の子を産んでくださいませ」


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