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番外編9
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9
「思ったより大きな家なんですけど…」
王城の近くに借りたロードとベアトリスの新居。
その前に立ってベアトリスは呆然として家を眺めた。
「そうかな?」
その王城の近くのテラスハウスは、親からの援助のない夫婦二人の新居としては少々広い程度だが、フラットの一部屋くらいの新生活を想像していたベアトリスにはその一戸建てがとても大きく見えたのだ。
「掃除が大変だったらメイド雇う?」
「いえいえいえ」
ベアトリスはブンブンと首を横に振る。
「修道院で炊事洗濯掃除、一通りできるようになったので、大丈夫です」
「そう?でも無理はしないでね。俺だって一通できるしさ」
「はい」
「さて、もう来られてるかな?」
「え?」
ロードは扉に歩み寄ると、取手を引き、扉を開けた。
「え?鍵は?」
「さあ、入って」
ロードはベアトリスの疑問には答えず、ベアトリスの背中に手をやり、家の中に入るように促す。
「トリス!」
え?この声…
家の中から聞こえて来た声に、ベアトリスが顔を家の奥に向けると、女性が両手を口元に当てて立っていた。
「…お母様」
呆然としながら呟くベアトリス。
立っていたのはベアトリスの母親だ。
どうして、お母様がここに?
修道院へ行く時、バーンズ家の前で見送られて以来、顔も見ていない。修道院に家族が面会に来る事もなかった。
妹フライアからは時折手紙が届いたが、両親からは手紙も来た事はない。自分は本当にバーンズ家の「厄介者」だったのだとベアトリスは思っていたのだ。
「トリス…」
母は涙ぐんでベアトリスに歩み寄る。
「…どうして?」
「俺には女性の事はわからないから、義母上に新居を整えるのを手伝ってもらったんだ」
「……」
ベアトリスは思わず隣に立つロードの服の袖を握る。
「ベアトリス、ご両親は、ラングトン家の手前、ベアトリスとは連絡を取れなかったんだよ」
ロードはそう言いながら袖を握ったベアトリスの手をそっと外すと、改めてロードの手でぎゅっと握った。
「エドワード様の…」
エドワード・ラングトンは、ベアトリスの元婚約者だ。
互いにロードと「浮気」をしたベアトリスとエドワード。エドワードとベアトリスの婚約は破棄されたが、ラングトン侯爵家からバーンズ家に資金援助して貰うため、エドワードはベアトリスの妹と婚約する事となったのだ。
「ごめんなさいトリス。エドワード様とフライアが本当に結婚するまではトリスと連絡を取らないと約束していたの」
母は涙を流しながらベアトリスに手を伸ばす。
「……」
ベアトリスはロードの手を強く握る。
そうだったのか。
それでも自分は厄介者だったと考え続けた何年もの思いの蓄積がベアトリスの身体を強張らせた。
でも、フライアとエドワード様はフライアが学園を卒業した年に…二年前に結婚したとフライアからの手紙に書かれていたわ。それからも両親からは手紙も来ていないのは…やっぱり私はいらない子だったからじゃないの?
「ベアトリスの妹さんとエドワードはラングトン侯爵に『せめて妹だけでもベアトリスと連絡を取らせてくれ』と頼んだんだそうだよ」
「え?」
ベアトリスはロードを見上げた。
フライアと…エドワード様も?
「エドワードは一時の感情でベアトリスとの婚約を破棄した事を後悔していた。その時父親の怒りを煽ってベアトリスを修道院に行かせた事も」
「ロード様、まさか…」
「うん。エドワードにも会って来たよ。義理の家族になるんだし、万一にでもエドワードが俺やベアトリスに未練があったら困るからね」
まさか…ロード様の言う「還俗や結婚の手続きや準備」に私の家族に会う事も含まれていたなんて。
「今はエドワードは妹さんと本当に仲が良くて、ご両親もベアトリスを『厄介者』なんて思っていなくて、だから何の心配もないよ。本当は今日も義母上だけじゃなく、義父上もここに来たかったんだよ。仕事の都合で来れなくて残念だって。そうですよね?義母上」
ベアトリスが母親に視線を移すと、母親は何度も頷きながら涙をボロボロと流していた。
…本当に?
「直ぐに信じられないのも無理ないよ。今度義父上と妹さんにも会いに行こう」
「トリス…」
手を伸ばす母親に、ベアトリスもおずおずと手を伸ばす。
指先が触れると、二人は互いを抱きしめた。
「トリス。ごめんなさい。フライアが結婚した後に何度も手紙を書こうとしたけれど、家のせいでトリスを犠牲にしたんだもの。トリスは私たちを許してくれないんじゃないかと…何度も書き直して、結局出せなくて…」
「お母様…」
ベアトリスの頬を涙が伝った。
-----
「ごめんね。ベアトリス。俺のせいで傷付いたし淋しい思いや悔しい思いも沢山しただろ?」
新居で初めての夜、ベッドの上で向かい合って座ると、ロードはベアトリスに頭を下げた。
「そんな事ない…とは言えませんけど、ロード様だけのせいではないです」
「うん。ありがとう。でもね、もう絶対にベアトリスを傷付けない。幸せにするから、俺とずっと一緒にいてください」
「はい」
「ベアトリス…好きだよ」
「私もロード様が好きです」
ロードは微笑んでベアトリスを抱きしめる。
抱き返すベアトリスも幸せそうに微笑んでいた。
ー 了 ー
「思ったより大きな家なんですけど…」
王城の近くに借りたロードとベアトリスの新居。
その前に立ってベアトリスは呆然として家を眺めた。
「そうかな?」
その王城の近くのテラスハウスは、親からの援助のない夫婦二人の新居としては少々広い程度だが、フラットの一部屋くらいの新生活を想像していたベアトリスにはその一戸建てがとても大きく見えたのだ。
「掃除が大変だったらメイド雇う?」
「いえいえいえ」
ベアトリスはブンブンと首を横に振る。
「修道院で炊事洗濯掃除、一通りできるようになったので、大丈夫です」
「そう?でも無理はしないでね。俺だって一通できるしさ」
「はい」
「さて、もう来られてるかな?」
「え?」
ロードは扉に歩み寄ると、取手を引き、扉を開けた。
「え?鍵は?」
「さあ、入って」
ロードはベアトリスの疑問には答えず、ベアトリスの背中に手をやり、家の中に入るように促す。
「トリス!」
え?この声…
家の中から聞こえて来た声に、ベアトリスが顔を家の奥に向けると、女性が両手を口元に当てて立っていた。
「…お母様」
呆然としながら呟くベアトリス。
立っていたのはベアトリスの母親だ。
どうして、お母様がここに?
修道院へ行く時、バーンズ家の前で見送られて以来、顔も見ていない。修道院に家族が面会に来る事もなかった。
妹フライアからは時折手紙が届いたが、両親からは手紙も来た事はない。自分は本当にバーンズ家の「厄介者」だったのだとベアトリスは思っていたのだ。
「トリス…」
母は涙ぐんでベアトリスに歩み寄る。
「…どうして?」
「俺には女性の事はわからないから、義母上に新居を整えるのを手伝ってもらったんだ」
「……」
ベアトリスは思わず隣に立つロードの服の袖を握る。
「ベアトリス、ご両親は、ラングトン家の手前、ベアトリスとは連絡を取れなかったんだよ」
ロードはそう言いながら袖を握ったベアトリスの手をそっと外すと、改めてロードの手でぎゅっと握った。
「エドワード様の…」
エドワード・ラングトンは、ベアトリスの元婚約者だ。
互いにロードと「浮気」をしたベアトリスとエドワード。エドワードとベアトリスの婚約は破棄されたが、ラングトン侯爵家からバーンズ家に資金援助して貰うため、エドワードはベアトリスの妹と婚約する事となったのだ。
「ごめんなさいトリス。エドワード様とフライアが本当に結婚するまではトリスと連絡を取らないと約束していたの」
母は涙を流しながらベアトリスに手を伸ばす。
「……」
ベアトリスはロードの手を強く握る。
そうだったのか。
それでも自分は厄介者だったと考え続けた何年もの思いの蓄積がベアトリスの身体を強張らせた。
でも、フライアとエドワード様はフライアが学園を卒業した年に…二年前に結婚したとフライアからの手紙に書かれていたわ。それからも両親からは手紙も来ていないのは…やっぱり私はいらない子だったからじゃないの?
「ベアトリスの妹さんとエドワードはラングトン侯爵に『せめて妹だけでもベアトリスと連絡を取らせてくれ』と頼んだんだそうだよ」
「え?」
ベアトリスはロードを見上げた。
フライアと…エドワード様も?
「エドワードは一時の感情でベアトリスとの婚約を破棄した事を後悔していた。その時父親の怒りを煽ってベアトリスを修道院に行かせた事も」
「ロード様、まさか…」
「うん。エドワードにも会って来たよ。義理の家族になるんだし、万一にでもエドワードが俺やベアトリスに未練があったら困るからね」
まさか…ロード様の言う「還俗や結婚の手続きや準備」に私の家族に会う事も含まれていたなんて。
「今はエドワードは妹さんと本当に仲が良くて、ご両親もベアトリスを『厄介者』なんて思っていなくて、だから何の心配もないよ。本当は今日も義母上だけじゃなく、義父上もここに来たかったんだよ。仕事の都合で来れなくて残念だって。そうですよね?義母上」
ベアトリスが母親に視線を移すと、母親は何度も頷きながら涙をボロボロと流していた。
…本当に?
「直ぐに信じられないのも無理ないよ。今度義父上と妹さんにも会いに行こう」
「トリス…」
手を伸ばす母親に、ベアトリスもおずおずと手を伸ばす。
指先が触れると、二人は互いを抱きしめた。
「トリス。ごめんなさい。フライアが結婚した後に何度も手紙を書こうとしたけれど、家のせいでトリスを犠牲にしたんだもの。トリスは私たちを許してくれないんじゃないかと…何度も書き直して、結局出せなくて…」
「お母様…」
ベアトリスの頬を涙が伝った。
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「ごめんね。ベアトリス。俺のせいで傷付いたし淋しい思いや悔しい思いも沢山しただろ?」
新居で初めての夜、ベッドの上で向かい合って座ると、ロードはベアトリスに頭を下げた。
「そんな事ない…とは言えませんけど、ロード様だけのせいではないです」
「うん。ありがとう。でもね、もう絶対にベアトリスを傷付けない。幸せにするから、俺とずっと一緒にいてください」
「はい」
「ベアトリス…好きだよ」
「私もロード様が好きです」
ロードは微笑んでベアトリスを抱きしめる。
抱き返すベアトリスも幸せそうに微笑んでいた。
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