ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。

ねーさん

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 ……うーん。
「どうしたの?クラリッサ」
 学園の廊下を歩いている私が余程難しげな顔をしていたらしく、隣を歩く友達イブが心配そうに声を掛けて来た。
「…何か、さっきから視線を感じるのよね」
「え…?」
 私の言葉に眉を寄せたイブも視線だけで周りを窺う。イブは侯爵家の長女なのでさすがにあからさまにキョロキョロしたりしない。それは視線の主を刺激する事になるのを良くわかってるから。
「ちょっとわからないわね…」
 小声で言う。
 そうよね。私もずっと視線だけで探してみてたけど、よくわからないのよ。
 でも視線は感じるし…
「気のせい…かしら?」
「そんな事ないわ。クラリッサなら良くも悪くも見られてて不思議はないもの」
 イブはそう言うと、早く寮へ戻ろうと私を促したので、私は頷いて少し歩みを早めた。

 私、クラリッサ・マルセルは自分で言うのもナンだけど、結構美人だ。
 二歳歳上の兄シルベストは巷で「氷の彫刻」と呼ばれていて、これは彫刻のような美貌と冷徹な性格を表している。
 実際兄はプラチナのような銀の髪、サファイアのような青い瞳、形のよい眉、通った鼻筋、薄い唇、切長の目、細い顎、そして細身で長身と、とにかく美しい。そして私は、その兄に似ているのだ。一部では「氷の彫刻の妹姫」と呼ばれてるとか何とか…
 お兄様より目が大きくて眉毛が下がり気味。それだけで随分親しみやすい感じにはなるのだけど。
 八歳の妹のロレッタは私より更に兄に似ていて、これぞ完璧な美少女!という感じ。でもお兄様と違って愛想が良いから学園へ入ったらモテまくるだろうと思う。
 でも、モテまくるのも…時には迷惑よね。
 不遜にも私はそう思う。
 私も美少女と呼ばれている。そして、男性にはそれなりにモテている。
 更に兄と歳が近く、兄に近寄りたい令嬢たちにもある意味モテている。
 つまり、視線を感じるのは日常茶飯事で、決して珍しい事ではない。
 なのに…今感じている視線は…何だか嫌な感じ…
 絡みつくみたいな視線を振り切るように、私はイブと共に寮の玄関へ飛び込んだ。

-----

 学園は十五歳になる年に入学し、四年間学び十八歳で卒業する。貴族の令息令嬢は幼い頃より家庭教師に学び学園へ入学するが、貴族でない者は家の都合により五歳から十歳には初等教育校へ入学し、数年間字や計算などを学ぶ。初等学校で成績の良かった者は更に中等学校へ進学する事もあり、そこでの成績優秀者やお金のある商家の子供などが学園へと入学する。
 全寮制で、いかに高位の貴族でも侍女や侍女、メイドなどを伴う事はできない決まりだ。それはもちろん王族でも。

 寮へ入ったら視線を感じなくなったわ。
 ホッと息を吐いて、イブと顔を見合わせて頷く。
「クラリッサ…早く婚約者を決めた方がいいんじゃない…?」
 階段を並んで上がりながらイブが心配そうに言った。
「そうよね…」
 私は曖昧に笑いながら頷く。

 私は今学園の四年生、あと一か月で卒業を迎える十八歳だ。公爵家の長女が十八歳で婚約者がいないというのはなかなかない話で、婚約者が急逝したとか婚約破棄または解消したとか…所謂「訳アリ」な事が多いのだけど、私の場合は事情が違うのよね。
 私の家、マルセル公爵家は王家の縁戚で、私の兄は今二十歳、一つ歳下十九歳の第二王子の幼なじみで、学園を卒業してからは王城で第二王子の側近を勤めてる。
 この第二王子アルヴェル殿下が、一国の王子なのに「恋愛結婚がしたい」と昔から言っていて……それで、もし国として政略的な結婚が必要になった場合は、シルベストお兄様がその役目を請け負う事になっていたのよ。
 だから、例えば他国の王女様などと政略結婚する場合、マルセル公爵家へ降嫁いただくか、お兄様が婿入りするかによって、私の処遇も変わるじゃない?
 お兄様が王女様を娶るなら、私は他家へ嫁ぐ。
 お兄様が他国へ婿入りするなら、私はお婿さんを迎えて家を継ぐ。
 つまり、お兄様の婚姻が決まらないと私の婚約者も決められない、という訳。

 しかし、しかしですよ、この兄がアッサリ結婚したんです!
 いや、色々あったからアッサリとは行かなかったんだけど、とにかくお兄様はセシリア様という最愛の相手と出会って、去年結婚しました。
 それ自体は喜ばしいし、新婚さんは幸せそうで…時々砂を吐きそうになりながらも、とても嬉しい。
 お兄様がセシリア様と結婚して公爵家を継ぐ事が確定したのに伴い、アルヴェル殿下が政略結婚を受け入れる事になりました、が、国内外の情勢は安定してるので、敢えて政略結婚をする事もなく──アルヴェル殿下もディナ様というセシリア様の友人の伯爵令嬢と一年前に婚約され、あと半年ちょっとで婚儀です。

 まあ、そんな訳で、私はどこかへ嫁ぐ事になり、婚約自体はいつでも決められる状態の、今現在なのです。



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