ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。

ねーさん

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 卒業パーティーの日。
 我が家からやって来た私付きの侍女アンにドレスを着せてもらい、支度が整った頃、イブが部屋にやって来た。
「水色のドレス、似合ってるわ。ジョーンズ様の瞳の色ね?」
「うふふ。そうなのジョーンズ様が贈ってくださったのよ」
 イブは嬉しそうにその場でくるんと回る。
 ジョーンズ様は人が良さそうでイブとお似合いだし、婚約者同士が仲が良いのは見ていて微笑ましいわ。
 …ちょっと羨ましい。正直な処。
「ジョーンズ様とダンヴァーズ分団長は近衛騎士団の正装で来られるそうよ。あの正装も格好良いわよね…」
 うっとりとしてイブが言った。
 確かに。普段の濃紫の制服も良いけど、白地に紫の刺繍の正装は豪奢で格別に格好良いわ。
 紫は王族の色だから、刺繍が紫色なのがこれぞ近衛って感じで。
 跪いて私のドレスの裾を整えていたアンが小さく頷いているのが目に入る。
「アンも近衛の正装、好きなの?」
 声を掛けると、私より少し歳上のアンが恥ずかしそうな表情で立ち上がった。
「…正装ももちろん好きですが、私、ダンヴァーズ分団長のファンなんです」
「ファン?」
「ええ。昨日はダンヴァーズ分団長がマルセル公爵家の屋敷にいらっしゃいまして。遠目にですがお姿を拝見できて…眼福でした…」
 胸の前で手を組み合わせ、夢見るように目を閉じるアン。アンとは結構長い付き合いだけど、こんな表情初めて見たわ───って、え??
 ダンヴァーズ分団長が屋敷にいらっしゃった?って言ったわよね?今。
「『チタン石スフェーンの騎士』様がクラリッサお嬢様の婚約者候補になられたなんて……僥倖ですわ」
「…待って」
 スフェーンの騎士って何?ダンヴァーズ分団長の二つ名なの?
 いえいえいえ、その前に。
 婚約者候補って!?

「それについては俺たちから説明しますよ」
 コンコン。
 とノックの音と同時に声がして、扉の方を見ると、開いていた扉からジョーンズ様が顔を覗かせていた。
「入っても?」
「は、はい。どうぞ」
 私が頷くと、ジョーンズ様と、その後ろからダンヴァーズ分団長が部屋に入って来る。
 白地に紫の刺繍の騎士服の二人は小説の挿絵のように美しく、思わずはあ…とため息が漏れた。
 もちろんイブもアンも同じように熱い息を吐いている。
 ジョーンズ様のよりダンヴァーズ分団長の方が肩章から伸びる飾紐のデザインが複雑だわ。
 なるほど、こういう処で階級を表すのね。
「クラリッサ嬢」
 ダンヴァーズ分団長が私の前に歩いて来た。
 格好良すぎて胸がドキドキするわ…
「私があからさまに護衛だとわかると卒業パーティーの雰囲気を壊すかも知れませんので、クラリッサ嬢の婚約者候補という事にしてもらうよう、昨日マルセル公爵家を訪れ、公爵閣下とシルベスト殿に了解を得ました」
 確かに帯剣した騎士様が側に付いてたら「何事!?」ってなるものね。婚約者候補が騎士様なら帯剣しててもおかしくないし。
「すみません。わざわざ…気を使っていただいてありがとうございます。でも…あの、ダンヴァーズ分団長の方は大丈夫なんですか?」
 上目遣いでダンヴァーズ分団長を見ると、ダンヴァーズ分団長は首を傾げる。
「大丈夫、とは?」
「婚約者様とか、恋人とか…誤解のないようちゃんと説明してくださってますよね?」
 私の「婚約者候補という事にする」という事は、ご結婚はされていないという事。でも婚約者や恋人はいるかも知れない…と言うか、いないわけがないと思う。
 ダンヴァーズ分団長がふっと笑った。
 うわっ。キリッとした眉も切長の目も厳しい印象なのに、笑うとそれが和らいで……何と言えばいいのかわからないけど、胸がドキドキする。
 横目でアンを見ると、澄ました表情で立っているが耳が赤くなって口元がプルプルと小さく震えている。
 …耐えてるわ。何かわかる。
「婚約者も恋人もおりませんので大丈夫です。お心遣いありがとうございます」
 片手を胸に当てて微笑む。
 おおう。何コレ、大人の色気?
 心臓に刺さる…
「婚約者候補ですので、私の事は『ネイト』とお呼びください」
「ネ、ネイト様」
 少し声が上擦った。
 「よろしい」と言いたげにダンヴァーズ分団長…もとい、ネイト様が頷く。
 全ての仕草が様になってるって何なの…?
 アンを横目で見ると、胸の前で手を組んで陶酔したような表情をしていた。
 そう…耐え切れなかったのね。
 何か、わかる。
 アン。……私、貴女と同好の士かも知れないわ。



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