ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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「おはようございます。アイリス様」
 無表情の侍女が洗顔用具を持って立っている。
「…おはよう」
 アイリスはのそのそとベッドから起き出すと、室内履きへ足を入れ、洗面台のあるお風呂の方へと歩き出した。
「アイリス様、本日はヴィクトリア様と共に王宮へお伺いする日となっております」
「わかりました」
 お姉様の婚約者、ウォルター第三王子から、お姉様と私に王宮へ来るようにって呼ばれたのよね。

 お姉様はウォルター殿下の婚約者だからわかるけど、何で私も呼ばれたんだろ?
 いつも興味深そうに私の話しを聞いてくださるから…また市井の暮らしについて聞きたいとか?それとも何か庶民の慣習や常識みたいな事について知りたい事でもあるとか?
 それともセラがウォルター殿下にお姉様と一緒に私も呼ぶように言ったのかな?
 まあ学園のお休みの日にウォルター殿下に会えるだけでもラッキーと言うか…目の保養ではあるけど。

「アイリス、おはよう」
 馬車が停まる玄関前に出ると、執事見習いのジェイドが声を掛けて来た。
「ちょっとジェイド『様』はどこに行ったのよ?」
 気安い挨拶に、気安く返す。
 いくら幼なじみだからって、気安すぎない?
 まあ、間違っても他の人がいる所でこんな言葉使いするようなジェイドじゃないけど。
「おっと。アイリス様、おはようございます。…どうもアイリスが『お嬢様』だと言う事に慣れなくて。顔はヴィクトリア様にそっくりなのに、違うモンだよなぁ」
 恭しく頭を下げて、頭を上げるとまたアイリスを呼び捨てにして悪戯っぽく笑うジェイド。
「そりゃ私はお姉様みたいな生粋のお嬢様じゃないもの。でも私が母さ……市井に住まっていたの、七歳の時までよ?明日には十六歳になるんだから、もうこのガードナー伯爵家に来てからの方が長いわ」
「もうそんなに経つのか…」
 ジェイドが感慨深げに言った。

「誕生日、何が欲しい?」
 口角を上げてジェイドが言う。
「そうね…」
 アイリスが口元に手を当てて考えていると、玄関扉が開いて、ヴィクトリアが出て来た。
「アイリス、ジェイド」
「ヴィクトリア様、おはようございます」
 恭しく頭を下げるジェイド。アイリスもスカートを摘んで礼をする。
「お姉様におかれましてはご機嫌麗しい事と存じます」
「アイリスったら、姉妹なのだから堅苦しい挨拶はやめてといつも言ってるのに…」
 お姉様はそう言ってくださるけど、お義母様に見られたら…ああ、ほら二階の窓に人影が見える。あれはきっとお義母様だわ。
 ここで私が気を抜いてお姉様へのご挨拶が雑になれば、後で何を言われるか…
 
 走り出した馬車の中で、アイリスの向かい側に座ったジェイドがアイリスに話し掛けた。
「で、誕生日何が欲しいんだ?」
「そうね…じゃあ王都で流行ってるチョコケーキ!ホールで!」
 アイリスが勢い良く言うと、ジェイドはクスリと笑う。
「ケーキって、十六になっても色気より食い気か?しかもホールって、どれだけ食う気なんだ?」
「違うわよ!もちろんお姉様と一緒に食べるのよ。って言うか、いくらお姉様が幼なじみでもある私とジェイドに理解があると言っても、いくら何でも砕けすぎでしょ!?」
 アイリスの言葉にヴィクトリアはにっこりと笑った。
「あら。砕けたアイリスも、砕けたジェイドも、私は好きだわ。相変わらず二人は仲が良いわね」
「ジェイドは兄のようなモノです」
「俺にはこんな食い意地の張った妹はいないぞ」
 アイリスが言うと、すぐにジェイドが切り返す。
 そんな様子にヴィクトリアは微笑んで---

 ドゥンッ!
 と馬車に衝撃。
「!?」

 ガシャガシャンッ!
 凄まじい音と、身体があちこちにぶつかり、そして宙に浮く感覚。
 バシャーンッ!!
 水の音。

 それがアイリスの聞いた最期の音だった---



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