ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 ウォルターとアイリスが初めて会ったのは、実母を亡くしたアイリスがガードナー伯爵家に引き取られて少し経った頃だった。

 王家の末の姫が七歳の誕生日を迎え、王都に住む上位貴族の同じ年頃の令嬢を招待した誕生パーティーが開かれ、アイリスとヴィクトリア姉妹も招待された。
 マティルダは「アイリスはまだ伯爵令嬢らしい振る舞いができないので王女になど会わせられない」と主張したが、主役である王女セラフィナが市井で育った同じ歳の少女に興味を示し「絶対来て!」と言ったので、参加させざるを得なくなったのだ。

 令嬢としての教育や躾と称してマティルダや家の者に辛く当たられていたアイリスは、この頃はすっかり萎縮し、アイリスに優しく接してくれるヴィクトリアと、ジェイド以外の前では笑う事さえなくなっていた。

って、みんなこんなに暗いの?」
 薄紫の巻き髪に紫の瞳の美少女が、ヴィクトリアの影に隠れていたアイリスを見ながら言う。
 王宮の庭に丸テーブルを何個も置き、お菓子と紅茶とジュースで開かれた誕生パーティーで、ヴィクトリアとアイリスの前に立ったセラフィナは首を傾げながら言った。
「セラフィナ殿下、妹はこのような場は初めてで、戸惑っているだけです。それに王女殿下の前で緊張もしていますし、決して暗い訳ではありませんわ」
 九歳のヴィクトリアが大人びた口調でにっこりと笑って言う。
「だってちっともおはなししないし、つまらないわ」
 セラフィナは唇を尖らせた。

 だって。しゃべると、怒られる。
 おかあ様にも、じじょの人にも「れいじょうらしくない」って「あの女のこだから」って言われる。
 アイリスはヴィクトリアの背中で身を縮める。
「そうだ!みんなからのプレゼントを見に行こうっと。ヴィクトリアも一緒に行きましょうよ」
 セラフィナは両手の平を合わせて言う。
「ありがとうございます」
「それから、しょみんの子も来てもいいわよ?」
 そう顎を上げてセラフィナが言うが、アイリスはふるふると首を横に振った。
「……ないもん」
 アイリスが小声で言う。
「え?」
「アイリス?」
 セラフィナとヴィクトリアがアイリスを見た。
「『しょみんの子』じゃないもん!『アイリス』だもん!」

「しゃべった!」
「!」
 思わず言ってしまい、セラフィナの驚いた顔を見て我に返るアイリス。
 しまった。どうしよう。怒られる!
 …逃げなきゃ!

 踵を返し、走り出すアイリス。
「アイリス!」
「ちょっ…どこへ行くの!?」
 庭の奥に消えて行くアイリスの背中にヴィクトリアとセラフィナの声が重なった。

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 夢中で走っていた足を止める。
 アイリスは気が付くと緑の垣根に囲まれていた。
 右を見ても、左を見ても、前も後ろも緑の葉っぱしか見えない。
 ここ、どこ?
 上を見ると、青い空が見える。
 母さまはお空にいるっておとう様が言ってたわ。
「母さま…」
 会いたい。
 つらい。
 さびしい。
 おかあさま、きらい。
 母さまに会いたい。
「うえぇ…」
 抑えていた涙が一気に溢れて来て、アイリスはその場に座り込んだ。
 
 ガザッ。
 膝を抱えて泣いているアイリスの正面で木枝を掻き分ける音がする。
 アイリスが顔を上げると
「わあ!」
 と、緑の垣根から姿を現した少年が驚きの声を上げた。
 紫の髪、紫の瞳。
 さっきの王女さまみたいに綺麗な…おとこの子?
「あーびっくりした。何でこんな所に女の子が?あ。ああセラフィナの誕生パーティーに来た子かな?」
 胸を押さえながら首を傾げて言う少年は先程見た王女によく似ていた。
 アイリスが少年を見上げながらこくんと頷くと、少年は自分を指差して言う。
「ぼくはセラフィナのお兄さんのウォルターだよ。きみは?」
「…アイリス」
 小さな声でアイリスが言うと、ウォルターは顎に手を当てた。
「アイリス?…ああ、市井育ちの…」
「しせい?」
 ウォルターはきょとんとするアイリスの頬の涙の跡に気が付く。

「ここは王宮の庭にある緑の迷路だよ。迷い込んじゃったんだね?ぼくはもう路を覚えてるからセラフィナたちの所へ連れて行ってあげるよ」
 アイリスに手を差し出すウォルター。
 アイリスはまた涙ぐみながら首を振った。
「…怒られる」
「ん?セラを…セラフィナを怒らせるような事を言ったのかな?」
 アイリスは小さく頷く。
「大丈夫。アイリスを怒らないようにって、ぼくがセラフィナに言ってあげるから」
 ウォルターはまた手を差し出した。
「本当…?」
 不安そうに上目遣いに自分を見るアイリスに、ウォルターはにっこりと笑い掛ける。
「本当だよ」
 アイリスはおずおずとウォルターの手を取った。



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