ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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「僕はヴィクトリアの所へ行くから、セラはアイリスの部屋で待っていて」
 ガードナー家に着いて、馬車を降りたウォルターはそう言って慣れた様子でヴィクトリアの部屋の方へ歩き出し、デリックがウォルターの後ろへ着いて行く。
 王子を出迎えるために玄関ホールへ出て来たマティルダはそこに立つアイリスを見て目を見開いた。
「お義母様、ただいま戻りました」
「……」
 アイリスはマティルダに挨拶をするが、マティルダは無言でアイリスを睨む。

 じっとアイリスの頭の先から足の先までを見た後、セラフィナの方へ向いて笑顔を浮かべるマティルダ。
「セラフィナ王女殿下、ようこそおいでくださいました」
「ええ。お邪魔するわね」
 セラフィナも笑顔で挨拶をした。

 アイリスの部屋に入ると、舞踏会の仕度を終えて先に屋敷に戻っていたケイシーがアイリスとセラフィナに頭を下げる。
「お帰りなさいませ」
「ケイシー、今日はありがとう」
「いえ。仕事ですから」
 無表情で言うケイシーに、アイリスはクスッと笑う。
 ああ、何かケイシーの無表情って逆に落ち着くわ。

「ねえケイシー、東国の王太子殿下がこの国に滞在される間、私王宮に泊めていただく事になったの。それで我が家から侍女やメイドを連れて来て良いって仰るんだけど…私と一緒に行ってくれないかしら?」
 お茶の準備をしているケイシーにそう言うと、ケイシーは眉を顰めてアイリスを見た。
「私が王宮へ…ですか?」
 あ、少し表情が崩れたわ。
 何か嬉しいかも。
「そう。王宮の侍女やメイドは私の事お姉様だと思ってて、私が本当はアイリスだって知ってるのはウォルター殿下とセラとデリック様だけなの。さすがに四六時中お姉様の振りをして過ごすのは無理だし、髪を染めたり纏めたりするのも一人じゃできないし、事情を知っている侍女がどうしても必要なのよ」
「それで私ですか?」
「うん。ケイシーなら冷静沈着で、王宮の侍女たちの攻撃を跳ね返してくれそうだし」
 アイリスがそう言うと、ケイシーはますます眉を顰める。
「攻撃…?」
 ケイシーが小声で言うと、セラフィナが人差し指を立てた。
「あのね、王宮の侍女たちはもの凄く噂好きなの。ましてお兄様の婚約者が王宮に長期滞在するとなるときっと入れ替わり立ち替わり様子を窺いに来るわ。だからケイシーになるべく王宮の侍女やメイドたちをアイリスに近付けないように防いで欲しいの」

「しかし…王宮に勤めておられると言う事は、皆さま貴族令嬢ですよね?」
 そうか。この間ケイシーに歳を聞いたら十七歳だって言ってたわ。私より一つ歳上なのにケイシーは学園へ行ってないって事は、実家が貴族ではないって事。
 王宮の侍女は貴族の令嬢が勤めている場合が多いから、ケイシーが強い態度に出られないかも知れないのか…
「皆が皆貴族令嬢ではないし、ケイシーなら大丈夫よ。言葉遣いだけ丁寧にしていれば、その無表情で跳ね返せるわ」
 セラフィナがきっぱりと言う。
「無表情で跳ね返すって…」
 アイリスが苦笑いしながら呟くと、ケイシーはコホンと咳払いし、無表情で言った。
「ご期待に添えるかわかりませんが、承ります」

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 暗い部屋の扉が開き、外の光が差し込む。扉を閉じてまた暗くなった部屋に入って来たマティルダは、ヴィクトリアの眠るベッドの傍らに立った。
「あんなにヴィクトリアにそっくりになるだなんて…」
 髪を染めたアイリスは一見では見分けがつかないほどヴィクトリアによく似ていた。
 マティルダはヴィクトリアの手を両手で握る。
「ヴィクトリア、早く起きなさい。早く起きないと…あの女の娘に何もかもを盗られてしまうわよ」
 そう声を掛けてもヴィクトリアは規則正しい息を繰り返すばかりで、マティルダの手を握り返す事もない。

「ヴィクトリア!」
 マティルダは大きな声でヴィクトリアを呼んだ。
 しかしやはり何の反応もない。
「…どうして」
 マティルダはベッドの傍らに跪くと、ヴィクトリアの手をぎゅうっと握った。

「こんな筈ではなかったのに…」


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