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「明日から三週間だったか?王宮へ行くの」
執事服のジェイドが言う。
「うん」
紅茶を飲みながらアイリスは頷いた。
「準備はできてるのか?」
「セラが『全部こちらで準備するから身一つで来て』って言うから、あんまり準備とかもないの」
「へえ」
「しばらく帰れないだろうし、この後お姉様にご挨拶しに行こうと思ってるの」
「そうか」
アイリスが言うと、ジェイドは視線を床に向ける。
「ジェイドはまだお姉様にお会いできてないの?」
視線を上げたジェイドは、アイリスと目が合うと、ニヤリと笑った。
「最近は、以前ほど奥様がヴィクトリア様の部屋に篭り切りじゃない事、アイリスは気付いてるか?」
「そう言えば」
事故直後は常にヴィクトリアに付き添い、食事もヴィクトリアの寝室で摂り、ヴィクトリアの寝室に置かれた予備ベッドで眠っていたマティルダも、事故から二か月以上経過した現在は、食事などの時間はヴィクトリアの傍から離れているのだ。
「だから奥様が居ない隙に…まあでも一瞬顔を見るくらいしかできないけど」
ジェイドは苦笑いを浮かべる。
「ジェイド、私がいない間にお姉様に何かあったらすぐ知らせてね」
「何か?」
「例えば目が覚めたとか、目が覚めたとか、目が覚めたとかよ」
アイリスが言うと、ジェイドはプッと吹き出した。
「わかった、わかった」
-----
「お姉様…ドリアーヌ様が、お姉様が賭けに負けたと仰ってたんですけど、何の事だかわかりますか?」
アイリスはベッドの傍に膝をつき、眠るヴィクトリアに声を掛ける。
もちろん答えはない。
「お姉様の振りをしてるから『賭けって何ですか?』って聞く訳にもいかないし…」
元々細いヴィクトリアの白い腕はますます細くなり、栄養を点滴する針の痕があちこちにあって痛々しい。
アイリスはヴィクトリアの手を握った。
「目が覚めたら賭けって何の事だか教えてくださいますか?」
しばらく取り留めなく一方的な近況報告などをした後、アイリスは立ち上がる。
「私、明日から王宮へ行くんです。他国の王族に会うなんて緊張しちゃいますけど、お姉様の顔に泥を塗らないように頑張って来ますね」
扉の方へ歩き掛けた時、扉が開いてマティルダが入って来た。
「お義母様」
アイリスは瞠目し、マティルダに向かって礼を取る。
「……」
マティルダはアイリスを一瞥すると、無言のままベッドの傍の椅子に座った。
この部屋がカーテンを閉めて薄暗いせいかと思ったけど、それを差し引いてもお義母様すごく顔色が悪い気がするわ。
「お義母様、私、お姉様の代わりを精一杯勤めて参りますので」
「……」
「それでは失礼いたします」
アイリスはマティルダに頭を下げると、扉の方へ歩き出す。
「……」
マティルダは終始無言だ。
ヴィクトリアの寝室を出ると、そこにジェイドの母でマティルダ付きの侍女であるローレンが立っていた。
アイリスは口をパクパクさせて、声を出さずにローレンを呼ぶ。
ローレンも無言でアイリスに近付いて来た。
「ねぇローレン、お義母様、顔色が良くない気がしたけど…?」
小声で言うと、ローレンは頷く。
「ええ。少し…体調を崩されているんです」
少し困ったような表情でローレンも小声で言った。
「大丈夫なの?」
眉を顰めてアイリスが言うと、ローレンは苦笑いを浮かべる。
アイリスはマティルダが苦手ではあるが、正妻が自分の夫の愛人と、二人の間に生まれた子供を憎むのは至極当然だと思うので、厳しい態度も仕方がないと考えているのだ。
ローレンはアイリスがそう考えている事も、マティルダの体調を本当に心配している事もよくわかっていた。
「ご病気と言う訳ではないので大丈夫ですよ」
「そう」
事故からずっとお義母様も気の休まる時がないものね。私に心配されても鬱陶しいだけだろうし、今日は嫌味も言われなかったし、運が良かったと思っておこう。
「ローレン!」
ヴィクトリアの寝室からマティルダの声。
「はい」
ローレンはマティルダの声に返事をすると、アイリスの腕に軽く触れた。
「明日からいろ大変でしょうけど頑張ってくださいね」
にっこり笑いながらも小声でローレンが言う。
「ありがとう。ローレン」
アイリスも小声で言って笑った。
「明日から三週間だったか?王宮へ行くの」
執事服のジェイドが言う。
「うん」
紅茶を飲みながらアイリスは頷いた。
「準備はできてるのか?」
「セラが『全部こちらで準備するから身一つで来て』って言うから、あんまり準備とかもないの」
「へえ」
「しばらく帰れないだろうし、この後お姉様にご挨拶しに行こうと思ってるの」
「そうか」
アイリスが言うと、ジェイドは視線を床に向ける。
「ジェイドはまだお姉様にお会いできてないの?」
視線を上げたジェイドは、アイリスと目が合うと、ニヤリと笑った。
「最近は、以前ほど奥様がヴィクトリア様の部屋に篭り切りじゃない事、アイリスは気付いてるか?」
「そう言えば」
事故直後は常にヴィクトリアに付き添い、食事もヴィクトリアの寝室で摂り、ヴィクトリアの寝室に置かれた予備ベッドで眠っていたマティルダも、事故から二か月以上経過した現在は、食事などの時間はヴィクトリアの傍から離れているのだ。
「だから奥様が居ない隙に…まあでも一瞬顔を見るくらいしかできないけど」
ジェイドは苦笑いを浮かべる。
「ジェイド、私がいない間にお姉様に何かあったらすぐ知らせてね」
「何か?」
「例えば目が覚めたとか、目が覚めたとか、目が覚めたとかよ」
アイリスが言うと、ジェイドはプッと吹き出した。
「わかった、わかった」
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「お姉様…ドリアーヌ様が、お姉様が賭けに負けたと仰ってたんですけど、何の事だかわかりますか?」
アイリスはベッドの傍に膝をつき、眠るヴィクトリアに声を掛ける。
もちろん答えはない。
「お姉様の振りをしてるから『賭けって何ですか?』って聞く訳にもいかないし…」
元々細いヴィクトリアの白い腕はますます細くなり、栄養を点滴する針の痕があちこちにあって痛々しい。
アイリスはヴィクトリアの手を握った。
「目が覚めたら賭けって何の事だか教えてくださいますか?」
しばらく取り留めなく一方的な近況報告などをした後、アイリスは立ち上がる。
「私、明日から王宮へ行くんです。他国の王族に会うなんて緊張しちゃいますけど、お姉様の顔に泥を塗らないように頑張って来ますね」
扉の方へ歩き掛けた時、扉が開いてマティルダが入って来た。
「お義母様」
アイリスは瞠目し、マティルダに向かって礼を取る。
「……」
マティルダはアイリスを一瞥すると、無言のままベッドの傍の椅子に座った。
この部屋がカーテンを閉めて薄暗いせいかと思ったけど、それを差し引いてもお義母様すごく顔色が悪い気がするわ。
「お義母様、私、お姉様の代わりを精一杯勤めて参りますので」
「……」
「それでは失礼いたします」
アイリスはマティルダに頭を下げると、扉の方へ歩き出す。
「……」
マティルダは終始無言だ。
ヴィクトリアの寝室を出ると、そこにジェイドの母でマティルダ付きの侍女であるローレンが立っていた。
アイリスは口をパクパクさせて、声を出さずにローレンを呼ぶ。
ローレンも無言でアイリスに近付いて来た。
「ねぇローレン、お義母様、顔色が良くない気がしたけど…?」
小声で言うと、ローレンは頷く。
「ええ。少し…体調を崩されているんです」
少し困ったような表情でローレンも小声で言った。
「大丈夫なの?」
眉を顰めてアイリスが言うと、ローレンは苦笑いを浮かべる。
アイリスはマティルダが苦手ではあるが、正妻が自分の夫の愛人と、二人の間に生まれた子供を憎むのは至極当然だと思うので、厳しい態度も仕方がないと考えているのだ。
ローレンはアイリスがそう考えている事も、マティルダの体調を本当に心配している事もよくわかっていた。
「ご病気と言う訳ではないので大丈夫ですよ」
「そう」
事故からずっとお義母様も気の休まる時がないものね。私に心配されても鬱陶しいだけだろうし、今日は嫌味も言われなかったし、運が良かったと思っておこう。
「ローレン!」
ヴィクトリアの寝室からマティルダの声。
「はい」
ローレンはマティルダの声に返事をすると、アイリスの腕に軽く触れた。
「明日からいろ大変でしょうけど頑張ってくださいね」
にっこり笑いながらも小声でローレンが言う。
「ありがとう。ローレン」
アイリスも小声で言って笑った。
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