ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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 灰色の世界に白黒の画像が浮かぶ。
 あ、これ、前にも見た、ウォルター殿下が泣いてた画像と同じような…

 アイリスの視界に写るのはウォルターだ。
 以前見た画像では項垂れて涙を流していたウォルターだが、今の画像のウォルターは険しい表情で何かを見ていた。

 ウォルター殿下、何か…怒ってるような…
 あ、お姉様。今度はお姉様が泣いて…?
 ウォルターの視線の先にはヴィクトリア。ヴィクトリアは両手で顔を覆っている。
 ウォルターがヴィクトリアに何かを言う。唇が動くのが見えるが音声は聞こえなかった。
 ヴィクトリアが顔を覆ったまま、崩れるように膝をつく。ウォルターはそんなヴィクトリアに更に何かを言うと、悔しそうに顔を歪めた。

 ハッと目が覚める。
 天蓋のカーテンに囲まれているが、そこはいつもの王宮のヴィクトリアの部屋のベッドだ。
「夢…?」
 それとも本当にあの事故でお姉様だけが助かった、その後の世界なの?
 だとしたら、ウォルター殿下が怒ってお姉様が泣いてるのは何故?
 声が聞こえないから定かじゃないけど、だけだとまるでウォルター殿下がお姉様を責めてるみたいだったわ。

 アイリスは起き上がると天蓋のカーテンを開けてベッドから降りた。
 ふかふかのカーペットに素足で立つ。
 ケイシーに見られて「また裸足で」って眉を顰められたっけ。
 裸足のまま窓の側へ行って少し窓を開けた。
 外が白み始めていて、夏の朝の冷えた風が頬に当たる。

「今日は夜会で明日は銀の連山への視察に出発…か」
 ラウル殿下が急に私とウォルター殿下の同行を決められたから、セラは一緒には行けないのよね…
 そもそも銀の連山への視察へは、ラウルとベンジャミン、その側近たち、王城の銀採集加工の担当官たちの総勢十名で向かう予定であった。そこにラウルが急にヴィクトリアとウォルターを同行させると言ったのだが、元々タイトな行程を組んでおり、人数が増えれば増えるだけ日程に影響が出てしまう。
 そのためアイリスはケイシー、ウォルターはデリックのみを連れて行ける事になったのだ。
「連山まで普通に馬車を走らせて片道五日かかるのに、四日弱で着こうとしてるって聞いたけど…結構強行軍よね。さすがに四日とか五日とか馬車に乗りっぱなしだった経験はないし、ちょっと不安…」
 そう呟きながら少しずつ明るくなっていく空を眺めるアイリス。

「…アイリス様、お休みの処申し訳ありません」
 寝室の扉の外からケイシーの声が聞こえた。
 え?まだ起きる時間じゃない筈。何でこんな時間にケイシーが?
「ケイシー?」
 アイリスは窓から離れ、ケイシーの声がした扉の方へと歩く。
「失礼いたします」
 扉が開いてケイシーが入って来た。
 いつもの王宮の侍女のお仕着せではない、部屋着のままだ。
「どうしたの?」
「アイリス様こそ。こんな時間にどうなさったのですか?…また裸足で」
 ベッドにいる筈のアイリスが裸足で床に立っているのを見て、ケイシーは驚いて言う。
「目が覚めちゃったから外を見てたの…それよりこんな時間にどうしたの?」
「あの、今しがたガードナー家から遣いの者が参りまして」
「え?」
 ガードナー家から?
 …まさか、お姉様に何か…?

「ヴィクトリア様が」
 やっぱり、お姉様に、何かが。
「……」
 アイリスは息を詰めてケイシーの口元をじっと見つめた。

「お目覚めになられたと」

「!!」
 思わず息を飲むアイリス。
 お目覚め?
 お目覚めって、目が覚めたって事よね?
 お姉様の、目が…
「それで、王宮の外へジェイド様が」
「ジェイドが来てるの!?」
 食い気味にアイリスが言うと、ケイシーは目を見開いて頷く。
「はい」

「すぐ行くわ」
 アイリスはそう言うと、くるりと振り向くとクローゼットの方へ歩き出した。
「え?」
 少し戸惑ったような表情のケイシー。
 あ、これは初めて見る表情だわ。でも今は行かなきゃ。
「ガードナー家へ行くのよ。お姉様に会いに」
 ケイシーを横目で見ながら、アイリスはクローゼットの扉を開ける。
「しかし、今夜は夜会で、明日は視察へ出発ですよ?」
「夜会の準備は午後からだってセラが言ってたわ。だからそれまで半日あるし。ケイシー、外出するのに着るような服ってあったかしら?」
 ここにある洋服やドレスはウォルターが準備してくれたものなのでアイリスはどんなドレスがあるのか全てを把握してはいないのだ。
 それに、ウォルター殿下は私ではなく、お姉様のために用意されたんだもの。だから、私が我が物顔で使うのは違うと思うし。

「しかし…」
 渋い顔をしながらも、ケイシーはクローゼットから紺色のブラウスと濃灰色のチェック模様のフレアスカートのワンピースを出してくれた。



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