ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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「ケイシーは程よい時間になったらウォルター殿下にこの事を知らせて差し上げて。多分、ウォルター殿下もガードナー家に来られると思うわ」
 ウォルター殿下がお姉様をずっと好きだったなら、目が覚めたら真っ先に会いたい筈だもん。
 ケイシーの出してくれた服に着替えて、三つ編みにしていた髪を解きながらアイリスは言った。
「お一人で向かうおつもりですか?」
「うん。ケイシーには私が戻ったらすぐに夜会の支度ができるように準備しておいて欲しいし」
 三つ編みのせいで波打つ髪を後ろで一纏めに結ぶと、眼帯を付け、前髪を撫で付ける。
「ですが…」
「視察から戻るまでに十日もあるし、お姉様に会うには今しかないの」
 お姉様に聞きたい事がたくさんある。でもまず何よりも目が覚めたお姉様の顔が見たい…

 部屋の扉に手を掛けるアイリス。
「行って来るわ」
 アイリスは部屋の中で不安そうな表情を浮かべるケイシーに小さく手を振って、扉を開けた。

-----
 
 廊下を歩きながら窓から空を見る。
 さっきより空が明るくなって来たわ。
 もうすぐ朝が来るのね。

 アイリスが王宮の出入口へ行くと、警備の騎士とジェイドが話しをしていた。
「ガードナー家も大変なのですね」
 騎士がジェイドにそう言うと、ジェイドは眉を顰めて頷く。
「ええ。お嬢様方の事故の次は奥様がお倒れになられるとは…」
 え?奥様って、お義母様?

「ヴィクトリア様」
 騎士がアイリスに気付いて礼をした。
「ア…ヴィクトリア様お待ちしておりました」
 ジェイドがアイリスに向けて恭しく礼をする。
「ジェイド」
「昨夜お倒れになった奥様が譫言うわごとのようにヴィクトリア様をお呼びなのです。命に別状はないのですが、一刻も早くお顔をお見せいただきたく、このような時間にお迎えに上がりまして申し訳ありません」
 ジェイドは頭を下げたままで一息に言った。

 あ、つまり「奥様が倒れた」は、ヴィクトリアを家に戻らせるための方便なのか。
 心の中で頷いたアイリス。
「いいのよ。私、明日からは視察に出てしまうから、むしろ今日だったのは不幸中の幸いだわ」
 
 アイリスとジェイドは王宮を出ると、馬車へと乗り込む。
 走り出した馬車の中で、アイリスは向かいの座席に座るジェイドの方へ身を乗り出した。
「お姉様が」
「待て。アイリス、その前に」
 アイリスの言葉を遮るジェイド。
「?」
「奥様が倒れられたのは本当だ」
「え!?」
 方便じゃなかったの!?
「昨夜ではなく三日前。命に別状はないのも本当だが…」
 ジェイドは言いにくそうに口元に手を当てた。
「だが?」
 
「流産されかけたんだ」
「え…」
 目を見開くアイリスを見て、ジェイドは眉を顰める。
「奥様が懐妊された事は奥様に極々近しい者しか知らなかったらしい」
「そうなんだ…」
 あ、そういえば、王宮に行く前にお姉様の所でお会いしたお義母様、すごく顔色が悪かった。でもローレンは「病気ではないから」って言ってて…あれは悪阻とかだったのね。

「旦那様にもヴィクトリア様にもまだ知らせていなかったようなんだ。それで、強い痛みが起きた時に奥様の傍に懐妊を知る者がいなくて医師を呼ぶのが少し遅れた」
「え?赤ちゃんは大丈夫なの?」
「今は絶対安静で床に着かれているが、様子見でまだわからないな」
「そう…」
「だからまだヴィクトリア様の目が覚めた事も奥様の耳には入れていないんだ」
「そうなんだ」
「ただアイリスと奥様が鉢合わせる心配はないが、アイリスが戻って来たと知ると奥様のお身体に影響をあたえるかも知れないから、奥様にはアイリスが屋敷に戻った事を知らせたくない」
「うん」
 そんな大事な時にただでも嫌いな私の事なんか見たくもないし、名前も聞きたくないだろうし、身体に障って赤ちゃんに何かあっても困るしね。

「それで、ヴィクトリア様の容態だが…」
「!」
 パッと顔を上げるアイリス。
「昨夜ふと目を開けられて…まだ意識が混濁していると言うか、朦朧としている状態なんだ」
「うん」
 長い間ずっと眠ったままだったんだもん。無理もないわ。
「記憶も混沌としているみたいで…あの事故の日の事も覚えておられるかどうか…」
「…そう。でも覚えてなくても仕方ないわ。事故の記憶がないって良く聞くもの」
「そうだな。ただ…」
 言いにくそうにジェイドはまた口元に手を当てる。
「ただ?」
 アイリスが少し首を傾げるとジェイドは眉を顰めてアイリスを見ながら言った。
「ヴィクトリア様は、俺の顔を見ると急に泣き出して…『私のせいでアイリスが死んだ』と言われたんだ」



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